環境配慮は建前ESGうたう投資増
E(環境エネルギー)、つまり環境ですとかESGはどうも儲からないイメージが先行する方もまだ若干いらっしゃるのかなという肌感覚を持っています。でも、我々の捉え方は決してそうではないんですね。我々としましては、言葉を選ばずに言うとESGは儲かる、リターンが出るという風に捉えていて、いわゆるテック系の、リターンが10倍とかっていうのを目指せるようなところに遜色なく、ESGをすれば必ずリターンが出るという捉え方をしております。
山岸:我々は「環境エネルギー投資」という会社でして、2006年設立の環境・エネルギーに特化した独立系のベンチャーキャピタルです。私としては、再生可能エネルギー分野はまさにこれから、より加速していく非常に大きなマーケットビジネスチャンスじゃないかなという風に見ています。一つ象徴的なニュースとしては、昨今、2050年までにカーボンニュートラルを目指していくと国が宣言しました。もっと足元でいけば、2030年までにCO2の排出を2013年度と比べて50%弱ぐらい減らすことを目標として政府が掲げています。
ESG投資とは、従来のような財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資を指し、企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとしてSDGsと合わせて注目されている。加藤 「例えば、環境で言いますとCO2排出量削減が出来ているかどうか。社会で言いますと、安全で働きやすい環境になっているかどうか。ガバナンスなら取締役会の構成など。昔からの運用は決算、業績が良いのかを中心に見ていましたが、ESG投資は伝統的な運用より幅広い情報を踏まえて投資したい企業様を決めていくものです。情報が幅広くなればなるほど、その企業にどんなリスクがあるのか、どんなビジネスチャンスがあるのか、リスク・リターンの視野が広がります。その中で投資したい企業様を決めていくということです」蟹江 「環境に良いことをしている会社に投資しようとか、ジェンダーにきちんと配慮しているところに投資しようとか、そういうことをやるのがESG投資ですね。要はお金儲けだけじゃ駄目だということです」剛力 「投資される側の会社もSDGsに、どれだけ意識を持っているかが大切になってくるということですね」蟹江 「例えば、一生懸命投資した会社がプラスチックをたくさん使っていたら、そこの会社に投資していくことが今後、無駄になるかもしれない。価値が落ちていくわけですよね。そうした環境への影響まで考えてお金を入れていくことが大事になってくる。SDGsが大事になってきている世の中では、ある意味当たり前だけれども、その流れが今始まっているということですね」
北尾:山岸さんは、環境エネルギーの領域で海外でも投資活動をされてきました。(編注:ドイツでブロックチェーンを活用した新たな電力小売ビジネスの事業開発に携わる。さらに、欧州大手電力会社のベンチャー投資部門に従事)。日本政府は高い目標を掲げているという指摘がありましたが、海外、特にヨーロッパなどの動きが影響しているのでしょうか?
加藤 「公開情報は真実だろうなと判断できます。あとは、実際に企業の中の方々とお話をさせていただいたり、社長をはじめとした役員の方のお話を聞いたり、いろいろな方からお話を聞くことです。公開情報をベースにお伺いすることで、点が線になって、ストーリーになってくる。そういった見地で評価をさせていただいています」蟹江 「あとは、数字で出てくるものはベースになってきますよね。例えば、温室効果ガスをどれくらい削減したかとか。数字があって、その肉付けをインタビューなどでしていくということですよね。他にも、気になることはいろいろとあります。日本は経済大国3位なのに、SDGsの貢献度評価が18位。評価は経済に加えて、社会、環境のサステナビリティーの評価なので、経済が3位ということは、18位にしている要因は社会と環境にあるということです。それが、あまりにも悪いので、下に下がっている。そこを頑張らないといけないというのが、この結果からも分かると思うんです。表現することを割と日本人は遠慮しがちじゃないですか。遠慮しないで出していく、テストなんかでも書かないと丸をもらえないように、評価してもらうためにはちゃんと表現をしていかないといけない。そこが弱いというところもあると思います。そうしないと過小評価されてしまう。そこは出し過ぎくらい出していくことが大事じゃないかなと思います」剛力 「その辺は、若い世代は慣れてきているかもしれません」蟹江 「そうですね。ただ、慣れてきているけど、若いときや学生の時に出していたものが、就職するとなぜか萎んでしまう人が多い。やはり、何か社会の中に入ることで、自分を出せなくなってしまう人が多くなると思うのですが、むしろ自分のほうに社会を引き付けてくるとか、そういう意味での図々しさは大事。今の若い子たちには、そこを期待したいですね」最後に、剛力さんはSDGsの達成年として掲げられている2030年に向けた提言を聞いた。加藤 「私どもとしましては、安心豊かな社会の創出に向けて頑張っていきたいと思っています。そのためには、いかにESGだとかSDGsが身近なものなのか、それを多くの方々にお判りいただきたいと思っています。投資家としてのやり方はこうです、その目的はこういうことです、というお話をより幅広くさせていただくことが重要だと思っておりまして、皆さんの期待をいかに実現していくか、不安をいかに取り除いていくか、責任ある投資家の一人として、一社として、そういった形で安心豊かな社会の創出に貢献出来たらなと思っているところでございます」剛力 「ここに一人、また身近に感じた人間もいます。より深く勉強しようと思いました。そう簡単にはいかないことだとも思いますが、これから自分が会社をどうしていきたいかという視点で見られたら楽しいし、ワクワクするし、夢がある、希望がある気がします。ESG投資というものを知られたのは、すごくうれしいですし、信託銀行というワードもすごく身近に感じました。これは、私が会社を始めたからかもしれませんし、これから社会に出ていく人たちの会社選びにおいても大事なことだと思います。自分が個人資産を運用するにしたって、どういう会社があるのか見られるというのは面白いし、良い世の中になりそうだなという感覚があります。とてもざっくりしていますけど、勉強したいものが増えてすごくうれしくなりました」剛力さんも、2020年夏に個人事務所「Shortcut」を立ち上げ、会社のかじ取りを求められる立場になったところ。そうした自身の新たなステップともシンクロし、ESG投資という一つのSDGsへの貢献の仕方が、より身近な“自分ごと”として刺さった様子だった。
とかくスタートアップの世界に身を置くと、素晴らしいビジネスモデルを得て、お客であるユーザの体験を最良のものにし、売上や利益を追求することに傾倒しがちですが、そこで SDGs や ESG 投資は共存できる概念なのでしょうか。環境や社会に配慮するあまり、事業をスケールさせるスピードが鈍ることは許されることなのでしょうか。
北尾:環境領域での事業や投資をやっていない方々からすれば、マネタイズがちゃんとできるかというのが気になるところです。今投資されているところ、今後投資されていくところで、どんなマネタイズポイントを考えながらご出資活動されていますか?
「環境」という言葉が社名に冠されていることからもわかるように、この分野の話を聞くのに最も相応しい VC は環境エネルギー投資ではないでしょうか。設立は2006年で、まだ SDGs や ESG 投資が話題になる遥か以前から、この分野に特化した投資活動を続けてこられました。自らも電力会社で新事業開発に携わった経験のある、山岸さんに話を伺いました。
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