執筆:株式会社第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹氏
目次
▼トルコ大統領選のポイント
▼仮にエルドアン氏が大統領選で敗れると
▼金融政策のリスク
▼まとめ ~トルコリラをめぐる厳しい状況~
トルコ大統領選のポイント
今月14日に実施される大統領選を巡っては、事前の世論調査においては現職のエルドアン氏、野党6党による統一候補のクルチダルオール氏の支持率が拮抗する展開が続いており、大接戦となることが予想される。他方、同じ日に実施される総選挙を巡っても、エルドアン政権を支える与党AKP(公正発展党)の支持率は野党6党の支持率と拮抗しており、今回の選挙で野党6党と協力関係を築いたクルド系政党と併せると、AKPを上回る可能性も出ている。ただし、実際の投票行動については大統領と議会の「ねじれ状態」を忌避する向きも予想されるなど極めて流動的であり、過去の選挙と比較しても見通しが立ちにくい。
仮にエルドアン氏が大統領選で敗れると
ここ数年のリラ相場は「金利の敵」を自任するエルドアン大統領の下、景気を重視する観点からインフレ昂進にも拘らず利下げが実施される経済学の定石では考えられない政策運営がなされたことが調整を招く要因となってきた。よって、仮にエルドアン氏が大統領選で敗れるとともに、議会において野党が多数派を形成することにより、金融政策の方向性が経済学の定石に沿った方向に軌道修正が図られれば、一転して底入れする可能性は考えられる。
金融政策のリスク
ただし、足下のトルコにおいては大地震からの復興に伴い、経常収支も財政収支もともに悪化する動きがみられる上、インフレも常態化するなど経済のファンダメンタルズは極めて脆弱な状況に置かれている。仮に金融引き締めが実施されれば景気の重石となるとともに、外需の半分以上を占める欧州景気の不透明感がくすぶるなかで実体経済を巡る状況は急速に厳しさを増す事態も予想される。そうした状況は利上げ余地を狭めることで、結果的に政策判断を難しくすることは避けられない。
まとめ ~トルコリラをめぐる厳しい状況~
エルドアン大統領が勝利すれば、追加利下げが意識されることでリラ相場に大幅な調整圧力が掛かる事態も予想される一方、野党が勝利した場合においても上値の余地は限られる懸念がくすぶる。その後も反転に繋がる材料が見出しにくい展開が続くなど、厳しい状況を想定する必要があるとみている。
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株式会社第一生命経済研究所 経済調査部・主席エコノミスト
西濵 徹(にしはま・とおる)氏
2001年3月 一橋大学経済学部卒。2001年4月 国際協力銀行(JBIC)入行。同行では、ODA部門(現、国際協力機構(JICA))の予算折衝や資金管理、アジア(東アジア・東南アジア・南アジア・中央アジア)向け円借款の案件形成・審査・監理、アジア・東欧・アフリカ地域のソブリンリスク審査業務を担当。2008年1月 第一生命経済研究所入社。2011年4月主任エコノミストを経て2015年4月より現職。2017年10月より参議院第一特別調査室客員調査員(国際経済・外交、政府開発援助等)(兼務)。
担当は、アジア、オセアニア、中東、アフリカ、ロシア、中南米諸国など、新興国・資源国のマクロ経済及び政治情勢分析。
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トルコリラの焦点 特別編 大統領選
望月キャスター:ウクライナ侵攻では、エルドアン大統領が仲介役を担うなど、国際社会でプレゼンスを発揮していますけれど、仮に、野党のクルチダルオール氏が勝利した場合は、何か変化が出てくるのでしょうか?
トルコ・リラは今後も軟調傾向か 高インフレに見舞われている同国では、エルドアン大統領からの圧力に押され、中央銀行は昨年8月から11月まで利下げを繰り返しました。その後、利下げは完了したとして、今年1月まで2会合連続で政策金利は据え置かれたものの、大地震が発生すると、震災後の復興を支えるべく、2月には政策金利が8.5%へ引き下げられました。
「家庭で1カ月に使う25立方メートル分のガス料金を1年間割り引く」。エルドアン氏は4月20日、天然ガス施設の操業式典で発表した。2002年に与党が政権を取って以来、低所得層への福祉政策を充実させ、経済成長に力を入れてきたエルドアン氏が「ばらまき」とも言える政策を前面に出す背景には、苦しい経済状況がある。
去年(2022年)10月のトルコのインフレ率は、85.5%を記録。現在も50%程度と依然高い水準で、市民生活を圧迫しています。
トルコでは21年末ごろから消費者物価指数が急上昇し、昨年8月には政府の公式統計で前年同期比で80%を超えた。通貨リラの対ドルの価値が下がって食料品価格などあらゆる物価が押し上げられたうえ、エネルギー資源の大半を輸入に頼るため電気代やガス代が上昇し、市民生活を直撃した。消費者物価指数はその後、回復傾向にあるが、今年3月でも上昇率は同約50%と高止まりしている。
ここ数年のリラ相場は「金利の敵」を自任するエルドアン大統領の下、景気を重視する観点からインフレ昂進にも拘らず利下げが実施される経済学の定石では考えられない政策運営がなされたことが調整を招く要因となってきた。よって、仮にエルドアン氏が大統領選で敗れるとともに、議会において野党が多数派を形成することにより、金融政策の方向性が経済学の定石に沿った方向に軌道修正が図られれば、一転して底入れする可能性は考えられる。
今井さん:一般の市民は「どんどん生活が苦しくなっている」と感じるようになっているので、なかなか満足できる経済ではないと思います。エルドアン大統領は、「低金利政策がインフレを打開する方法だ」という考えなので、それを実践している形です。
直近の世論調査での支持率では、クルチダルオール氏と野党連合がそれぞれ、エルドアン大統領と政権連合を上回っています。ただし、実権型大統領制の廃止・議院内閣制の復活には憲法改正が必要で、それには議会の5分の3以上の議席を確保する必要があり、実現は容易ではありません。また、74歳のクルチダルオール氏は、官僚出身の経験豊かな政治家で、安定感はあるものの、6党による連合を上手く率いていけるかなどを不安視する向きもあります。
今月14日に実施される大統領選を巡っては、事前の世論調査においては現職のエルドアン氏、野党6党による統一候補のクルチダルオール氏の支持率が拮抗する展開が続いており、大接戦となることが予想される。他方、同じ日に実施される総選挙を巡っても、エルドアン政権を支える与党AKP(公正発展党)の支持率は野党6党の支持率と拮抗しており、今回の選挙で野党6党と協力関係を築いたクルド系政党と併せると、AKPを上回る可能性も出ている。ただし、実際の投票行動については大統領と議会の「ねじれ状態」を忌避する向きも予想されるなど極めて流動的であり、過去の選挙と比較しても見通しが立ちにくい。
こうした中、トルコ・リラは今後も軟調に推移する可能性が高いとみられます。ただし、インフレ率の高止まりなどにより、エルドアン大統領や政権連合への批判が一段と強まり、野党連合が大統領選挙で勝利するだけでなく、議会選挙で圧勝し、議席を大きく伸ばすとの見通しが強まる場合には、体制や政策が変更されるとの期待から、トルコ・リラが反発に転じることも考えられます。
一方、野党側は、6党の連合で選挙に臨み、エルドアン氏が導入した実権型大統領制の廃止・議院内閣制の復活をめざしています。また、中央銀行の独立性を重視し、金融政策を正常化させる意向も示していることから、金融市場では、野党連合の勝利が望まれているとみられます。なお、3月6日には、大統領選の統一候補として、最大野党の中道左派CHP(共和人民党)の党首、クルチダルオール氏を擁立することが決まりました。
議院内閣制復活には5分の3以上の議席が必要 2月に大地震が発生し、犠牲者が4.5万人超におよんだ同国では、初動対応の遅れや建築基準の運用の緩さなどから、大統領や政府への批判が強まりました。ただし、復興への取り組みによっては、政権連合への支持が回復・向上する可能性も考えられます。
大統領選には計4人が立候補。与党・公正発展党(AKP)の党首で現職のエルドアン氏と、野党6党の統一候補である最大野党・共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首(74)の事実上の一騎打ちになる見込みだ。各種の世論調査での支持率はともに40%台で拮抗(きっこう)しているが、クルチダルオール氏がわずかに優勢のものが多い。
エルドアン大統領が勝利すれば、追加利下げが意識されることでリラ相場に大幅な調整圧力が掛かる事態も予想される一方、野党が勝利した場合においても上値の余地は限られる懸念がくすぶる。その後も反転に繋がる材料が見出しにくい展開が続くなど、厳しい状況を想定する必要があるとみている。
ただし、足下のトルコにおいては大地震からの復興に伴い、経常収支も財政収支もともに悪化する動きがみられる上、インフレも常態化するなど経済のファンダメンタルズは極めて脆弱な状況に置かれている。仮に金融引き締めが実施されれば景気の重石となるとともに、外需の半分以上を占める欧州景気の不透明感がくすぶるなかで実体経済を巡る状況は急速に厳しさを増す事態も予想される。そうした状況は利上げ余地を狭めることで、結果的に政策判断を難しくすることは避けられない。
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