執筆日時:2023年8月30日 14時00分
執筆者 :株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
9月1日の米国雇用統計の予想と戦略「行き過ぎた下目線にも警戒…米雇用は俳優ストや陸運破綻で期待薄」2023年9月号-By 外為どっとコム総研
目次
1.はじめに
2023年9月1日(金)、日本時間21時30分に米国の8月雇用統計が発表されます。現在のマーケットは、9月FOMCでは利上げがスキップされ、11月・12月のどちらかに利上げを実施し、そこで引き締めが停止されると予想しています。今回の雇用統計がそうした確率をさらに上昇させる結果となるかが注目されます。では振り返りからです。
2.前回のおさらい
・次回引き締めへの時間的猶予生まれる
8月4日、米労働省が発表した7月の非農業部門雇用者数(NFP)は18.7万人増と、市場予想(20.0万人)を下回る伸びとなりました。時間給は前月比で0.4%と市場予想の0.3%から伸びが加速し、インフレに対する警戒を少し高めました。
産業別にはヘルスケア、小売業が堅調だったほか、住宅市場の底入れ感もあって建設業が健闘しました。一方で、人材派遣サービス、製造業、物流関連がさえない結果となり、ヘッドラインを押し下げました。全体的には米雇市場の拡大が正常なペースへ戻りつつあることが示されたほか、FRBの引き締めが切迫していないことを示唆する結果となったようです。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)※出所:米国労働省
142.60円付近だった米ドル/円は、NFPの結果を受けて142.254円まで売りが先行しました。その後、時間給の上振れを受けて142.922円付近まで切り返したものの、週末のポジション調整から戻り売りに押されて、NY前半に141.551円まで幅を広げました。ダウ平均株価は一時290ドル超上昇したものの、買い一巡後はアップルの決算内容が焼き直されて、結局、150.27ドル安い35065.62ドルで引けました。
図表2.前回発表前後のドル円の動き
米ドル/円 30分足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
3.今回の見どころ
・俳優組合・イエロー問題で目線は低下
・弱気優勢の反動で、イベントリスクは上向き
7月の雇用統計は失業率の改善や時間給の上昇など一部に力強さを感じさせる数字が見られたものの、全体的には次の理由から労働市場への不安をいくらか高める指標として受け止められています。一つ目は、雇用市場の先行性指標と考えられる人材派遣サービス分野が失速していることです。正規雇用に切り替わっているため、同部門の雇用者数が減少している可能性はありますが、非農業部門全体の雇用者数の伸びが減少しており、この考察には少し無理があるでしょう。歴史的に見れば、まだ好調な米国の労働市場ではあるものの、力強さが徐々に後退している様子です。
図表3.雇用者数の伸びの推移
※米労働省のデータを基に外為どっとコム総研が作成
二つ目は、時間給の伸びは分野別にみると、製造業・建設業の伸びがけん引する格好となり、サービス分野は目立った伸びは見られていません。サービス分野の賃金の伸び抑制は、インフレ鈍化を目指すFRBにとっては朗報ですが、これまで米経済をけん引してきたサービス分野の成長鈍化は雇用市場の先行きに対する不安を強めつつあります。
図表4.時間給の伸びの推移
※米労働省のデータを基に外為どっとコム総研が作成
さて、8月分の雇用統計ですが、コンサートなどの娯楽支出が増加したことが雇用を支えた側面があるものの、雇用統計調査週の新規失業保険申請件数は24.0万件と前月の同時期の22.8万件から悪化しています。また、求人大手インディードがまとめるIndeed Job Posting Indexは7月からさらに鈍化しており、各種指標は雇用減速を示唆しています。さらに今月は、俳優組合のストライキやトラック運送大手イエロー社の破綻などから4~5万人の雇用が失われた可能性があり、雇用者数の伸びは鈍化が避けられないように感じます。
ただ、こうした要因から、NFPの市場予想はかなり下目に誘導されており、予想外に強いようだと労働市場への信頼性が増して米ドル/円を押し上げる危険はあり、イベントリスクは上向きとなります。また、アトランタ連銀が示す賃金トラッカーにおいても賃金の伸び減速が明確になってきているため、今月もインフレ一服と共に賃金の伸びが抑制されると考えています。
図表5.雇用関連指標と賃金トラッカー
※各調査機関のデータを基に外為どっとコム総研が作成
※各データにおいて修正が入ったものは修正後を表示
以上のように考えると、歴史的に見れば雇用市場はまだ底堅いと言える状況で、米経済に対する悲観的な見方が強まるとは考えにくいですが、今回は、特殊要因もあって雇用の伸び鈍化と見るのが妥当のようです。9月FOMCでの利上げ見送り観測をさらに高めるとの思いから、指標発表直後、米ドル/円は下向きに反応するのではないかと考えています。
☆想定するシナリオ
※本指標発表後、5分の値幅(過去3カ月):平均57銭
出所:外為どっとコム総研
図表6.[雇用統計の実績と予想]
年月 | 非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||
予想値 | 初回結果 | 予想値 | 初回結果 | |
2023年08月 | 17.0 | – | 3.6 | – |
2023年07月 | 20.0 | 18.7 | 3.6 | 3.5 |
2023年06月 | 22.5 | 20.9 | 3.6 | 3.6 |
2023年05月 | 19.5 | 33.9 | 3.5 | 3.7 |
2023年04月 | 17.8 | 25.3 | 3.6 | 3.4 |
2023年03月 | 24.0 | 23.6 | 3.6 | 3.5 |
年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
予想値 | 初回結果 | 初回結果 | |
2023年08月 | – | – | – |
2023年07月 | 0.3 | 0.4 | 62.6 |
2023年06月 | 0.3 | 0.4 | 62.6 |
2023年05月 | 0.3 | 0.3 | 62.6 |
2023年04月 | 0.3 | 0.5 | 62.6 |
2023年03月 | 0.3 | 0.3 | 62.6 |
◇関連の経済データ実績
年月 | ISM製造業雇用指数 | ISM非製造業雇用指数 |
2023年08月 | – | – |
2023年07月 | 44.4 | 50.7 |
2023年06月 | 48.1 | 53.1 |
2023年05月 | 51.4 | 49.2 |
2023年04月 | 50.2 | 50.8 |
2023年03月 | 46.9 | 51.3 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
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9月1日の米国雇用統計の予想と戦略 行き過ぎた下目線にも警戒米雇用は俳優ストや陸運破綻で期待薄 2023年9月号-By
【ワシントン=高見浩輔】米労働省が7日に公表した6月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から20万9000人増えた。24万人程度としていた市場予想を下回った。失業率は3.6%で5月の3.7%から低下した。利上げの打ち止め時期を探る米連邦準備理事会(FRB)は過熱が続く労働市場の動向を注視する。
大手の投資情報ベンダーの編集長、社長などを歴任するとともに、著名な国際金融アナリストとしても活躍。 2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊、2016年トランプ・ラリーなどマーケットの大相場予測をことごとく的中させ、話題となる。 機関投資家に対するアナリストレポートを通じた情報発信はもとより、近年は一般投資家および金融機関行員向けに、金融リテラシーの向上を図るべく、「解りやすく役に立つ」事をコンセプトに精力的に講演、教育活動を行なう。 2011年からマネースクエアが主催する投資教育プロジェクト「マネースクエア アカデミア」の学長を務める。2019年11月より現職。 書籍執筆、テレビ出演、講演等の実績も多数。
9月1日発表の8月雇用統計においても、労働需給のタイトさが重ねて示される場合、9月FOMC(9月19~20日)ないし11月FOMC(10月31日~11月1日)での追加利上げの可能性を織り込む動きが強まり、ドルの上昇圧力となる可能性があります。ただし、8月雇用統計の発表後、9月FOMCの前には8月CPI(9月13日)の発表があります。市場ではこれを確認したいという向きも多いと考えられることから、8月雇用統計へのドル円相場の反応は一時的なものに留まると考えられます。
ところが、2022年は、米国中心に歴史的なインフレの嵐が吹き荒れる年となったことから、為替相場を大きく動かす「主役」の座は、CPI(消費者物価指数)などのインフレ指標に移った形となっていたのです。
8月4日、米労働省が発表した7月の非農業部門雇用者数(NFP)は18.7万人増と、市場予想(20.0万人)を下回る伸びとなりました。時間給は前月比で0.4%と市場予想の0.3%から伸びが加速し、インフレに対する警戒を少し高めました。産業別にはヘルスケア、小売業が堅調だったほか、住宅市場の底入れ感もあって建設業が健闘しました。一方で、人材派遣サービス、製造業、物流関連がさえない結果となり、ヘッドラインを押し下げました。全体的には米雇市場の拡大が正常なペースへ戻りつつあることが示されたほか、FRBの引き締めが切迫していないことを示唆する結果となったようです。
2023年9月1日(金)、日本時間21時30分に米国の8月雇用統計が発表されます。現在のマーケットは、9月FOMCでは利上げがスキップされ、11月・12月のどちらかに利上げを実施し、そこで引き締めが停止されると予想しています。今回の雇用統計がそうした確率をさらに上昇させる結果となるかが注目されます。では振り返りからです。
ポイントは為替相場の「行き過ぎ」
就業者数の5月の伸びはわずかに下方修正され30万6000人となった。伸びは新型コロナウイルス禍前の2015〜19年平均にあたる19万人程度をやや上回る水準まで鈍化している。失業率は事前の予想通りだった。
JOYnt代表。証券会社の支店営業、証券業界紙の記者を経た後、投資信託データベースの会社で各種マネー雑誌の記事や単行本の執筆を担当。2004年に独立。経済・金融関連を中心にした単行本の企画立案・執筆、オンライン媒体や雑誌への寄稿、テレビやラジオ番組の制作・出演、イベントの企画なども行っている。
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