IPEF 公正な経済など実質妥結へ

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IPEF 公正な経済など実質妥結へ
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IPEF 公正な経済など実質妥結へ

ジョー・バイデン政権はIPEF(インド太平洋経済枠組み)における2023年内の交渉妥結を目指しており、その一環として5月末に4本柱の一つである「サプライチェーンの柱」で早期合意を達成した。こうした動きの中で、議会の承認を求めないIPEFが、バイデン政権後も永続性を保ち続けるかどうかを懸念する声も上がっている。IPEFへ参加するインセンティブやメリットの問題を含めて、その将来像や今後の動向について展望する。

もしも、IPEFの永続性に不安があったとしても、日本がIPEFに参加し交渉に尽力することは十分にメリットがあると考えられる。なぜならば、IPEFのサプライチェーンやデジタル経済等の経済枠組みは、既存のFTAでは得られない新たな価値を生み出し、インドやASEAN主要国を含む経済圏における取引や物流の拡大に繋がる可能性があるからだ。さらには、日本の経済安全保障の観点からも有益なフレームワークであるし、外交上も対中国カードの一つに成りうる。

IPEF加盟国は、韓国の釜山で2023年7月9~15日に開催された第4回交渉官会合において、5月に合意したサプライチェーン協定の法的な見直しとともに、第1の柱(貿易)、第3の柱(クリーンエコノミー)、第4の柱(公正な経済)における交渉を実施した。

自由や民主主義、人権尊重、法の支配といった基本的価値を共有する同志国(like-minded countries)による安全で信頼できるサプライチェーンの構築を目指すフレンド・ショアリングによって、地政学的リスクの大きな国・地域への過度の依存を緩和し、リスクの軽減を図るデリスキングを進める上で、日米両国や韓国、オーストラリア等とインド太平洋地域の新興国・途上国を多く含むIPEFがサプライチェーン強靱化のための政策調整・協力の枠組みで合意できたことは、その具体化に向けた第一歩を踏み出したものと評価できる。

本協定の特徴として、労働者の権利保護の重視が挙げられる。これは、「労働者を中心に据えた通商政策」を掲げる米国の主導によるものだろう。米国は、IPEF参加国のサプライチェーンにおける労働者の権利の尊重・促進を本協定の目的の1つとしている。

本協定は、「IPEF労働者の権利に関する諮問委員会(IPEF Labor Rights Advisory Board)」の設置を定めている。同委員会は、政労使三者構成で、「参加国のサプライチェーンの強靭性や競争力のリスクとなる労働者の権利に関する懸念が生じる領域の特定を支援する」とされている。さらに、労働者の権利の侵害に関する「事業所特定の(facility-specific)申立」への対処のための参加国間の協力メカニズムを創設するとされている。

IPEF、 IRA、CHIPS及び科学法(注3)の立法化、あるいは輸出管理規則や対中投資規制の強化など、次々と打ち出される米国の通商産業政策は、多くの企業の中国との経済取引だけでなく、グローバルな戦略にも大きな影響を与えており、その対応を間違えると大きな痛手を被ることになる。しかしながら、同時に、新たなサプライチェーンや省エネ住宅・家電市場の開拓などにおいてビジネスチャンスを提供しており、日本企業は米国の通商政策に対して多角的な対応を迫られている。

一つの例としては、今後において米国がTPPに復帰したならば、オリジナルのTPP協定の30章の内、「第22章 競争力及びビジネスの円滑化」、「第14章 電子商取引」、「第19章 労働」、「第20章 環境」などの章の中に、それぞれIPEFのサプライチェーン、デジタル経済、労働、環境などの合意内容が組み込まれる可能性がある。

[6] 「中国商務相、IPEFに懸念表明 供給網強化をけん制―米通商代表と会談」、時事通信、2023年5月27日。

そのために、2つの仕組みが設けられた。「IPEFサプライチェーン協議会(IPEF Supply Chain Council)」と「IPEFサプライチェーン危機対応ネットワーク(IPEF Supply Chain Crisis Response Network)」である。

このようにIPEFの会合が迅速に進められたのは、バイデン政権が妥結の公表の場として、11月のサンフランシスコでのAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議にターゲットを置いているからに他ならない。そして、四つの柱に交渉分野を絞ったことや、各参加国が4本柱への参加や合意を柔軟に選択できるルールを導入したことも大きい。

「IPEFサプライチェーン協議会」は、重要分野における強靭性と競争力の構築のための分野別行動計画の策定を監督する組織であり、サプライチェーンの脆弱性が重大なボトルネックになる前に企業がそれを特定し、対処することを支援するとされている。

[3] U.S. Department of Commerce, “Substantial Conclusion of Negotiations on Landmark IPEF Supply Chain Agreement,” May 27, 2023.

参加各国は、IPEFがデリスキングに必要な水準を超えて、中国等との分断を招くものとならないよう、また、参加各国がサプライチェーン強靱化を口実にした保護主義に走らぬようにする必要がある。IPEFの実現に向けて、「G7とグローバルサウスの橋渡し」、「中国との建設的かつ安定的な関係の構築」を掲げる日本への期待は大きい。

IPEF閣僚会合の前日に開催されていたAPEC(アジア太平洋経済協力)貿易担当大臣会合は、ロシアのウクライナ侵攻に関する文言に中ロ両国が反対したため、共同声明を発出することができなかった[4]。1週間前のG7広島サミットでは、「デカップリングではなく、多様化、パートナーシップの深化及びデリスキングに基づく経済的強靱性及び経済安全保障への我々のアプローチにおいて協調する」ことを謳った首脳宣言が発出された[5]。これらの出来事の直後にIPEFが「サプライチェーン協定」で実質妥結したことは、米国とそのパートナー国がフレンド・ショアリングによるデリスキング(リスク軽減)を強力に推し進めていくことを象徴しているようにみえる。

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