NYタイムは、投開票を迎える米大統領選の結果を見据えた神経質な展開が想定される。手控え感のあるなかで流れる関連報道や、思惑を背景としたフローで荒れた動きになるリスクに注意したい。
トランプ氏優位の見方に傾きつつあったなか、一部激戦州でハリス氏が優位になってきたとの報道がドルの上値を重くしている感もある。しかし結果が出るまで決め打ちができない状態であり、判明まで時間がかかる可能性も高い。
また、激戦による関連報道の過熱がもっともビジネス上で好ましいメディアによる煽りも想定できる。ハリス氏の経歴やこれまでの職務内容についての報道は同氏にとって不利に働く可能性もあるとして、接戦を演出するために伝えるのを回避しているとの憶測もある。
いずれにしろ、不確定な情報をもとに思惑を傾けることにはリスクがあり、基本的には様子見とならざるをえない。ギャンブルに出ると、安値を売り込んでしまったり、高値を掴んでしまったりといった事態に陥りかねない。
・想定レンジ上限
ドル円の上値めどは、1日高値153.09円。
・想定レンジ下限
ドル円の下値めどは、10月23日安値151.03円。
(関口)
・提供 DZHフィナンシャルリサーチ
見通し NY為替見通し米大統領選の結果を見据えて神経質 関連報道に留意
民主党の政策綱領で、対外政策は主に「9章:世界における米国のリーダーシップ強化」にまとめられている。その中で中国に対しては、「競い合いながらも、責任を持って関係を管理」「人工知能(AI)規制など米中が協力できる分野の特定」「不公正な貿易慣行に対抗」「デカップリングではなく、デリスキングの下での的を絞った措置」といった従来の方針をあらためて掲げた。バイデン政権はこれまでも中国を「国際秩序を再構築する意図と、それを実現する経済力、外交力、軍事力、技術力を併せ持つ唯一の競争相手」と位置付けるものの、同時に、気候変動対策やマクロ経済の安定など協力できる分野では協力すると明確に述べてきた。実際に、経済や金融などの分野では、米中の政策担当者間が議論するワーキンググループを設置した。一方で、不公正な貿易慣行に対しては、1974年通商法301条に基づく中国原産品への追加関税の継続や、輸出管理規則(EAR)の強化、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)などを用いた強制労働に関連する製品の輸入差し止めなど、対抗措置を取ってきた。ただし、両国経済を切り離す「デカップリング」ではなく、安全保障上重要な分野でのみ規制を強化する「デリスキング」の考えの下で、対抗措置の分野を絞ってきた。2024年5月に発表された、301条に基づく追加関税率の引き上げ対象は、鉄鋼やアルミニウム製品、半導体、電気自動車(EV)、バッテリー、重要鉱物、太陽電池、船舶対陸上クレーン、医療製品などで、民主党の政策綱領では「戦略的に引き上げている」と記している。これら品目の多くは、ジョー・バイデン大統領が就任当初の2021年2月に発表した安全保障上重要な製品のサプライチェーンを強化する大統領令にも含まれている。2025年以降を見据えた政策綱領でも、同方針を根底に据えているといえよう。また、対象を絞った対抗措置を取る方針のため、共和党の政策綱領で記している一律の高関税(いわゆるベースライン関税)賦課は、一般家庭に対して年間1,500ドルの負担、共和党の大統領候補に指名されているドナルド・トランプ前大統領が公言している中国に対する60%の追加関税は、さらに年間1,000ドルの負担になると反対している。なお、共和党の政策綱領では、関税政策のほか、中国に対しては「恒久的正常貿易関係(PNTR)の撤回」「必要不可欠な中国製品の輸入を段階的に停止」といった内容を記している。
これに対し、共和党は、「エネルギー生産に対する規制撤廃」「グリーンニューディールの廃止」「石油、天然ガス、石炭、原子力などあらゆるエネルギー源を活用して、エネルギー価格を引き下げ」などと記載した。エネルギー価格の引き下げは両党に共通しているものの、民主党はクリーンエネルギーへの投資拡大により、気候変動対策を実行しながら、価格引き下げを目指す一方で、共和党は化石燃料を含む広範なエネルギー源をもとに、規制撤廃を交えて価格引き下げを提案していると対比できる。IRAについては、民主党は同法に基づいた投資の成果を積極的に強調していることから、引き続き、優遇税制の提供などを積極的に行っていくだろう。共和党の綱領では、直接的にIRA廃止といった文言はないものの、上述のとおり、気候変動対策と逆行するような記載が多く、トランプ氏も気候変動に懐疑的なため、何らかの変更が想定される。ただし、IRAなどに基づくクリーンエネルギー投資は、共和党への支持が強い州に多いことから(図2参照)、全てが廃止されるとも考えづらい。従って、共和党政権となった場合、現実的には、政権発足時点で確定しているIRAに基づく補助金などは継続する一方、規則が決まり切っていない未執行分については変更される可能性があると指摘できよう。なお、IRAによる優遇税制などの動向を見通すには、議会審査法(CRA)にも留意が必要だ。IRAは法律のため、廃止するには法的措置が必要との見方が一般的だが、IRAによる税額控除などの要綱を定める規則は、議会承認などCRAによる一定の条件の下で失効させることができる。IRAは現状、幾つかの主要な規則が定まり切っていない。IRA自体は破棄されずとも規則が定まらない場合は、税額控除などの運用が進まないといった事態が想定される。過去に最もCRAが活用されたのは、トランプ政権下だった(注7)。そのほか、共和党の政策綱領では、液化天然ガス(LNG)のFTA非締結国向け輸出許可の発給再開も示唆しており、この点も民主党との違いだと指摘できよう(注8)。
今回の選挙では、2022年6月に女性の人工妊娠中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」が連邦最高裁によって破棄されて以降、人工妊娠中絶を原則として認めない州が出てきたことから、中絶の権利も争点の1つとなっている。民主党は綱領で「生殖に関する自由」を掲げ、「連邦議会でのロー対ウェイド判決の法制度化」を訴えた。また、「体外受精(IVF)を行う女性の権利保護」「米国食品医薬品局(FDA)が承認した中絶薬へのアクセス支援」「科学を尊重するFDA長官の指名、基本的自由を支持する最高裁判事の指名」などと記した。一方、共和党は「遅い時期の中絶は反対」と記した。共和党は中絶反対を強く支持するキリスト教保守派の支持を受けているため、より厳しい内容の記載を検討していたが、無党派層の支持獲得が重要な大統領選を考慮して、政策綱領では文言を和らげたという。トランプ氏は現時点では、中絶禁止を決めるのは各州との立場を崩していない。共和党の綱領ではそのほか、「妊婦検診、避妊具へのアクセス、IVFを推進する母親と政策を支援」とも記載している。人工妊娠中絶そのものが日系企業の米国でのビジネスに関連している例は多くないと想定されるが、人材の採用に当たって、人工妊娠中絶についてどのような立場なのかを明確にしなければならないとの指摘もあり、企業は対応方針を確定させる必要があろう(注15)。
これらの政策から、民主党、共和党で対中強硬姿勢そのものは共通しているものの、民主党は安全保障上重要な製品を特定し、当該分野では強硬な姿勢を貫く一方、共和党は安全保障上重要な製品だけでなく、中国に関連する広い分野で制限を設ける姿勢を示していると指摘できよう。
気候変動対策に関連して、EVへの対応でも、両党によって差がみられる。民主党は綱領に「IRAにより再生可能エネルギーやEVの米国内工場建設に世界最大規模の投資を実施」「2030年までに米国で販売される新車の50%をEVとすることを目標」「電動スクールバス購入インセンティブの導入で、ぜんそくに関連するディーゼル公害から子供を保護」といった内容を記した。一方で、共和党の綱領では「自動車産業に対する有害な規制の撤回」「EV購入義務などの取り消し」などを記載した。気候変動対策の観点からEV普及を推し進めるバイデン政権に対して、共和党はEV普及を進めるような規則や環境規制の撤廃を提案しており、EVを巡る政策方針では、両党で大きな違いがある。ただし、EV大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がトランプ氏支持を表明した後、トランプ氏はEV支持を示唆するような発言をしている。こうしたことから、共和党政権になった場合、EV購入を義務化するような目標や規制は撤廃されるものの、EV購入自体を阻むような極端な規制は敷かれないのではないかとみられている。
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