船井電機会長「びっくりした」

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船井電機会長「びっくりした」
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船井電機会長 びっくりした

船井電機は21年5月に出版などを手がける秀和システムホールディングス(HD)に買収され、非上場となった。テレビ事業の不振により営業赤字が常態化していた中、創業家が会社を再成長させられる経営者を探し、秀和の代表取締役の上田智一氏が選ばれた。

船井電機の社長に就任した上田氏は「事業の多角化」を掲げ、23年4月に全国で脱毛サロンを展開する「ミュゼプラチナム」を買収。しかし、約1年後の24年3月にミュゼを売却している。これ以降、不可解な事柄が浮かび上がってくる。

ハローワーク門真が11日に開催した、船井電機元従業員の再就職を支援する説明会に参加した男性(46)はそう訴えた。突然解雇された元従業員を雇用しようと多くの企業が手を挙げ、約800社、約2千件の求人をまとめた冊子が訪れた人に手渡された。

破産申立書などによると、船井電機の21年3月末時点の現預金残高は約347億円あった。しかし、今年10月25日に予定していた従業員への給与計1億8千万円を支払うと、運転資金は1千万円を下回るというほぼ枯渇した状態となっていた。約3年半の間に一体何があったのか。

「20年以上勤めた船井のブランドがなくなってしまうことがショック。経営陣は社員に真実を話す責任がある」

船井電機の破産は、多くの社員の生活に大きな影響を与える。再就職支援など、関係機関による迅速な対応が求められる。また、この出来事は、製造業が直面する厳しい競争環境を改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。

しかし中国製品などとの価格競争に敗れ販売が低迷、業績が悪化していた。しかも創業者の船井哲良氏が2017年に死去してからは、多角化を目指して脱毛サロンを買収するもすぐに売却するなど、経営も混乱していた。

船井の破産は、日本のAVメーカーの苦境を雄弁に物語っている。少し前までなら、経営が悪化し赤字に陥った企業でも、「日本ブランド」さえあれば救世主が現れた。しかしもはやそれは通用しない時代になった。だからこその破産手続きだ。

M&A(企業の合併・買収)に詳しい公認会計士の久禮(くれ)義継氏は「買収の手段の一つで、スキーム上、特に不自然なところはないように見受けられる」と話す。ただ、船井電機が持ち株会社である船井電機HDに約253億円を貸し付けていたことについて「グループ全体を統括する持ち株会社が子会社に貸し付けるのが普通。金額もきわめて多額で、違和感がある」と指摘する。

今回のケースは、当事者でないと経営戦略の失敗か、企業の資産を吸い上げるのが目的の「吸血型M&A」か判然としないのが難しい点だろう。ただ、出版社が電機メーカーを買収する経営合理性が見えないなど気になる点はある。秀和システムに任せて本当に船井電機が再建できるかをもう少し慎重に見定める必要があったのではないか。

仮に未払い賃金が発生した場合、社員は「未払賃金立替払制度」を利用し、未払い額の8割に当たる給付を受けることができる。賃金を支払えないまま破産することが確実である場合は、従業員に対して未払賃金立替制度の利用を案内するべきだが、今回の船井電機の場合はどうなのだろうか。

船井電機は創業者の船井哲良氏が1951年に創業したミシンの卸問屋を源流とする。61年にトランジスタラジオの製造部門を独立させて船井電機を設立した。

中央大の青木英孝教授(企業統治)は「単なる事業の失敗か、何らかの不正があったのかを外部から判断するすべはないが、買収にあたって船井側は秀和をよほど信じていたんだろう。いざというときにブレーキを効かせる手段を考えておくべきだった」と述べた。

破産申立書では、持ち株会社を経由したミュゼなどへの貸し付けで、船井電機から約300億円の資金が流出したとしており、これが破産の要因になったとみられる。ミュゼ買収を巡っては、横浜幸銀信用組合(横浜市)から資金が貸し付けられている。一方、秀和による船井電機の買収資金の一部はりそな銀行が貸し付け、船井電機の預金が担保となっており、今年5月に回収されている。

船井電機のような規模の会社が民事再生法や会社更生法によって事業再建を図らず、取締役会などの決議を経ない準自己破産の手続きをとるのはきわめて珍しい。帝国データバンクの担当者は「企業のノウハウも人材も散逸してしまう。大企業でこのようなケースは見たことがない」と驚きを隠さない。

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