ポンド/円・豪ドル/円の12月見通し「トランプ政策を巡る不透明感くすぶる」

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ポンド/円・豪ドル/円の12月見通し「トランプ政策を巡る不透明感くすぶる」

【外為総研 House View】

House View

執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也

目次

▼ポンド/円
・ポンド/円の基調と予想レンジ
・ポンド/円 11月の推移
・11月の各市場
・11月のポンド/円ポジション動向
・12月の英国注目イベント
・ポンド/円 12月の見通し

▼豪ドル/円
・豪ドル/円の基調と予想レンジ
・豪ドル/円 11月の推移
・11月の各市場
・11月の豪ドル/円ポジション動向
・12月の豪州・中国注目イベント
・豪ドル/円 12月の見通し

ポンド/円

ポンド/円の基調と予想レンジ

ポンド/円 11月の推移

11月のポンド/円相場は190.154~199.552円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約2.8%下落した(ポンド安・円高)。米大統領選で法人減税や所得減税、関税強化を掲げる共和党のトランプ候補が勝利したことを受けてドルが上昇する中、6日にはドル/円につれ高して199円台を回復。7日の英中銀(BOE)の「タカ派利下げ」で199.55円前後まで上昇したが、10月高値(199.81円前後)は超えられずに失速した。その後はトランプ・トレードの一環でドル/円が上昇した一方、ポンドドルが下落したため196~198円台でもみ合ったが、15日にはドル/円が急落したほか、英国内総生産(GDP)の冴えない結果を受けてポンド売りが強まったことで194円台へと下落。19日にはロシアが核兵器の使用基準を緩和したことが伝わると193円台に差し込む場面もあった。その後、月末にかけて下値を切り下げる展開となり、29日には日銀の利上げ観測が高まったことから約2カ月ぶりに190.15円前後まで続落した。28日の米感謝祭前後で持ち高調整と見られるドル売りが入り、ポンド/ドルは月末にかけてやや値を戻したが、それ以上にドル/円が下落した影響が大きく、ポンド安・円高が進んだ。

始値 高値 安値 終値
196.065 199.552 190.154 190.603

出所:外為どっとコム

7日
BOEは予想通りに政策金利を5.00%から4.75%に引き下げた。利下げは8対1の賛成多数で決定。マン金融政策委員会(MPC)委員は5.00%に据え置くことを主張して利下げに反対した。BOEは声明で「インフレ率を目標値付近で確実に維持する必要があるため、あまりに急激な、あるいは大幅な利下げはできない」と表明。「しかし、経済がわれわれの予想通りに推移すれば、金利はここから緩やかに低下し続ける公算が大きい」と続けた。ベイリー総裁はその後の会見で「総合インフレ率を目標とする2%にするには、サービス価格の上昇が広範に鈍化する必要がある」と述べてサービス部門のインフレ率は依然として高すぎるとの認識を示した。これらを受けてBOEが12月は利下げを見送るとの見方が広がった。

12日
英7-9月失業率(ILO基準)は4.3%と市場予想(4.1%)および6-8月(4.0%)を上回った。同週平均賃金(除賞与)は前年比+4.8%と市場予想(+4.7%)ほどではないものの6-8月(+4.9%)から伸びが鈍化した。英10月失業率は4.7%、同失業保険申請件数は2.67万件だった(前月4.7%、1.01万件)。

13日
7日の利下げに反対票を投じたBOEのマンMPC委員は「現在、様々な場所で検討されている政策問題について考えると、それらはインフレに上方圧力をかける可能性が高い」と述べたほか、「サービスのインフレが継続する流れと、今後インフレの主要要素の変動が大きくなり上昇バイアスが強まる可能性が高い傾向がある」と指摘し、まだインフレは克服していないとの考えを示した。

15日
英7-9月期GDP・速報値は前期比+0.1%と市場予想(+0.2%)には届かなかった。9月の月次GDPは前月比-0.1%と予想(+0.2%)に反してマイナスに落ち込んだ。なお、同時に発表された英9月鉱工業生産は前月比-0.5%(予想+0.1%)、同貿易収支は163.21億ポンドの赤字だった(予想158.00億ポンドの赤字)。

19日
ベイリーBOE総裁は、下院財務特別委員会への年次報告を行い、政府の予算案に盛り込まれた税制変更の影響を見極めるため、追加利下げを行う場合は慎重に進める必要があるとの見解を示した。総裁は、国民保険料の雇用主負担の引き上げについて「雇用コストの上昇を意味する」とし、物価の上昇や雇用の減少などにつながる可能性があると述べた。

20日
英10月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.6%、前年比+2.3%と市場予想(+0.5%、+2.2%)を上回り、前月(±0.0%、+1.7%)から伸びが加速。エネルギーや食品を除いたコアCPIは前年比+3.3%、BOEが注目するサービスCPIは前年比+5.0%と総合指数同様に伸びが加速した。その後、ラムスデンBOE副総裁は、英政府が示した景気刺激策の影響などからインフレ率が2027年まで中銀目標の2%を上回り続けるとしたMPCの予想を「妥当だと思う」としながらも、「不確実性を考慮すると、最近のデフレ傾向が持続する可能性も同じくらいある」との見解を示した。

22日
英10月小売売上高は前月比-0.7%と市場予想(-0.3%)を超える大幅な落ち込みとなった。自動車燃料を除いた売上高も前年比-0.9%と予想(-0.4%)を大幅に下回った。英11月製造業PMI・速報値は48.6、同サービス業PMI・速報値は50.0だった。それぞれ市場予想(50.0、52.0)を下回った。製造業PMIは2カ月連続で50.0を割り込んだ。

25日
ロンバルデリBOE副総裁は賃金上昇率とインフレ率が期待ほど急速に低下しないとの懸念があることから、金融当局者は利下げを慎重に進めるべきだと述べた。また「今後数カ月のデータが重要で慎重な観察が必要」と述べ、積極的な利下げに慎重な姿勢を強調した。

11月の各市場

11月のポンド/円ポジション動向

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12月の英国注目イベント

ポンド/円 12月の見通し

11月20日に発表された英国の10月消費者物価指数(CPI)は前年比+2.3%となり、前月の+1.7%から上昇が加速。英中銀(BOE)が注目するサービスCPIも前年比+5.0%と高止まりした。インフレに再加速の兆しが見られる一方で、これまで予想外に堅調だった景気には息切れ感が出ている。10月小売売上高は前月比-0.7%と大幅に減少。食料品や衣料品の売上減が目立ち、個人消費の減速を示唆した。11月の購買担当者景気指数(PMI、総合)が13カ月ぶりに活動拡大・縮小の分岐点である50.0を割り込むなど、企業の景況感も悪化した。企業景況感の悪化については、英政府が10月に発表した国民保険料の雇用主側の負担引き上げなども影響している模様だ。インフレ高止まりを理由にBOEの利下げが遅れれば、景気にさらなる下押し圧力がかかることも考えられる。12月19日のBOE金融政策委員会(MPC)について、市場の見方は政策金利の据え置きが優勢だが、利下げの可能性は市場の織り込み(12%程度)ほどには低くないと見る。ベイリーBOE総裁は11月の議会証言で利下げを慎重に進める必要があるとの見解を示したが、利下げそのものを否定したわけではない。まずは、12月4日に行われるベイリーBOE総裁の講演に注目したい。なお、その後6日にグリーンMPC委員が、9日にはラムスデン副総裁がそれぞれ講演を行う。そのほか、13日の10月国内総生産(GDP)、16日の11月PMI、17日の8-10月週平均賃金、18日の11月CPIにも注目が集まりそうだ。市場が19日の利下げをほとんど織り込んでいないだけに、これらのイベントを経て利下げを織り込む動きが顕在化すればポンドの下押しに繫がるだろう。
(予想レンジ:184.500~195.000円)

豪ドル/円

豪ドル/円の基調と予想レンジ

豪ドル/円 11月の推移

11月の豪ドル/円相場は97.449~102.399円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約2.5%下落(豪ドル安・円高)した。トランプ氏の米大統領返り咲きを受けて法人減税や規制緩和に対する期待が高まり米国株主要3指数が大幅高となった6日に101円台を回復。7日には中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会で大規模な景気刺激策が発表されるとの観測から上海株が上昇する中、102.40円前後まで続伸した。しかしその後は、一転して軟化。8日に発表された全人代常務委員会の決定は期待外れの内容と受け止められた。その後も上値の重い展開が続き、15日にはトランプ・トレードの巻き戻しと見られる株安の影響で100円台を割り込んだ。20日には101円台を回復したがウクライナ情勢を巡る地政学リスクがくすぶる中で再び失速。米国のトランプ次期大統領が中国への追加関税に言及した26日には一時98円台に差し込んだ。翌27日には一時98円台も割り込んで続落。豪中銀(RBA)のブロック総裁が12月の利下げを事実上否定した28日にはやや値を戻したが、29日には11月の東京都区部消費者物価指数(CPI)の上振れや植田総裁の追加利上げに前向きな発言を受けて円買いが強まると97.45円前後まで下落して9月20日以来の安値を付けた。

始値 高値 安値 終値
100.000 102.399 97.449 97.554

出所:外為どっとコム

5日
RBAは予想通りに政策金利を4.35%に据え置いた。声明では、総合インフレ率は鈍化したが基調的なインフレ率は「なおも高すぎる」とした上で「インフレ率が目標範囲に向かって持続的に推移していると確信するまで、政策は十分に制限的である必要がある」と表明。近く利下げを開始する公算が小さいことをあらためて示唆した。ブロック総裁は理事会後の記者会見で短期的な利下げの見通しについて問われ「現時点では適切な設定になっている。状況が予想以上に悪化し始めたら、すぐに行動できるよう努める。だが、どうなるかは分からない」と述べた。

7日
豪9月貿易収支は46.09億豪ドルの黒字。黒字額は市場予想(52.74億豪ドル)を下回った。その後に発表された中国10月貿易収支は957.2億ドルの黒字。輸出の伸びと輸入の減速を背景に黒字額は市場予想(750.0億ドル)を上回った。

8日
全人代常務委員会は地方政府の隠れ債務圧縮に向けて、特別債発行上限を6兆元引き上げることを承認。一方で藍財政相は、公的部門による売れ残り集合住宅の購入や未開発住宅用地の取得、大手国有銀行への資本注入に向けた施策を打ち出すと説明したが、規模や時期などは明らかにしなかった。市場は、中国の景気下支え策としては期待外れだったと評価したようで豪ドルは下落した。

13日
豪7-9月期賃金指数は前年比+3.5%、前期比+0.8%といずれも市場予想(+3.6%、+0.9%)を下回った。豪当局が最低賃金の引き上げ幅を前年に比べて縮小したことが賃金の伸び鈍化につながったと見られる。

14日
豪10月雇用統計は、新規雇用者数が前月比1.59万人増にとどまり、市場予想(2.50万人増)を下回った。失業率は4.1%と予想通りに前月から横ばいだった。一方、労働参加率は67.1%と過去最高だった前月の67.2%から低下した(市場予想67.2%)。

19日
RBAは11月理事会の議事要旨を公表。政策金利について「引き下げと引き上げのほか、長期間にわたり据え置くシナリオをあらためて議論した」ことがわかった。その後、ロシアのプーチン大統領が「核ドクトリン」の改定を承認し、核兵器の使用基準を緩和したことが伝った。ロシアの決定は、米国がウクライナに対しロシア領内への長距離ミサイル攻撃を許可したことへの対抗措置と見られる。

26日
トランプ次期米大統領は、就任初日にメキシコとカナダからの全ての輸入品に25%の関税を課し、中国からの輸入品に追加で10%の関税を課すとSNSで表明。不法移民や違法薬物取引を巡る懸念を理由に挙げた。これを受けてメキシコペソやカナダドル、中国人民元が下落。豪ドルも売りが強まった。

27日
豪10月消費者物価指数(CPI)は前年比+2.1%と市場予想(+2.3%)を下回った。政府による電力料金の補助などが影響し、伸び率は前月から横ばいとなった。コアCPIに当たるCPIトリム平均値は前年比+3.5%と、前月(+3.2%)から加速した。

28日
ブロックRBA総裁は「現状、基調的なインフレ率はなお高すぎるため、短期的に政策金利の引き下げを検討することはできない」と指摘。「インフレ率を持続的に2-3%の目標レンジ内に戻すにはまだ時間がかかる」と述べた。12月の利下げの可能性を事実上、排除したとの見方が広がった。

11月の各市場

11月の豪ドル/円ポジション動向

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12月の豪州・中国注目イベント

豪ドル/円 12月の見通し

豪中銀(RBA)は、日銀を除けば近い将来の利下げに否定的な中央銀行として希少な存在だ。アルバニージー首相率いる労働党政権の賃上げ政策によってサービスを中心にインフレが低下しにくい状況にあることがRBAのスタンスに影響していると考えられる。RBAは四半期ベースのインフレ率を重視するとしていることから、少なくとも来年1月29日に発表される10-12月期消費者物価指数(CPI)を確認するまでは早期の利下げに前向きな姿勢を示すことはないだろう。12月10日の理事会でも早期の利下げの否定的な考えをあらためて表明する可能性が高そうだ。こうしてRBAが相対的にタカ派なスタンスを取っているにもかかわらず11月に豪ドルが下落したのは、米国のトランプ次期大統領の影響が大きい。トランプ氏は米国の通商・産業政策を担う商務長官にハワード・ラトニック氏を起用することを決めた。ラトニック氏は高関税などを通じて製造業の国内回帰を訴える強硬派として知られる。中でも中国に対する強硬姿勢は現政権よりもさらに強まることが確実で、米中貿易摩擦が激化すれば中国との貿易が盛んな豪州にとっても経済の下振れ要因になるとの懸念が強い。12月の豪ドル相場は、金融政策面での強材料と、次期米政権の通商政策を巡る弱材料が綱引きする形で方向感が出にくい相場展開となりそうだ。
(予想レンジ:94.000~100.500円)

 
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株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役 調査部長 上席研究員
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。

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[紹介元] 外為どっとコム マネ育チャンネル ポンド/円・豪ドル/円の12月見通し「トランプ政策を巡る不透明感くすぶる」

ポンド 円 豪ドル

四大通貨の一つで、世界全体の外国為替市場でドル、ユーロ、日本円に次ぐ取引量を誇っている。1992年のポンド危機でユーロの準備段階から離脱したこともあり、EU加盟国でありながら、ユーロに未参加となったが、経済的な結びつきは深い。 そのため、ユーロと同調して動くケースが多い。 もっとも、2016年6月の国民投票でEUからの離脱(ブレグジット)が決まった際には、ポンド単独で大きく売りが出るなど、英国独自の材料で動くケースも多い。特にブレグジットがらみの材料でポンド単体の動きになるケースがよく見られる。 金融政策が比較的柔軟なことでも知られている。米FRB、日銀、ECBなどは、名目上は多数決で金融政策を決定するが、実際には議長や総裁などトップの決定が否決されるケースはない。しかし、英中銀では議長提案が否決されるケースが過去何度も生じている。

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