日本経済の展望 賃上げ加速がカギ

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日本経済の展望 賃上げ加速がカギ
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日本経済の展望 賃上げ加速がカギ

我々は、日銀が2023年第4四半期にYCCの追加修正を行い、国債購入ペースを急速に落とすと予想する。早期に金融政策正常化が行われる場合や米金利が高止まりする場合には、日本の10年国債利回りが2023年第4四半期に1%近辺に上昇する可能性がある。その後は、米金利の低下や米国の国内総生産(GDP)成長率の減速が主因となり、日本国債利回りは0.8%近辺に低下するだろう。

この点、諸外国の状況と比較するために、SNAベースで、上述の日本の場合と同様の考え方で試算した結果をみると、アメリカは2021年7-9月期にピーク(2.6兆ドル、GDP比10.7%)を打った後、超過貯蓄は減少に転じ、2023年7-9月期には1.8兆ドル(GDP比6.5%)まで減少している(第1-1-19図(1))。一方、ユーロ圏については、超過貯蓄の増加ペースは緩まっているものの、減少に転じることはなく、2023年4-6月期で1.2兆ユーロ(GDP比8.2%)まで積み上がっている(第1-1-19図(2))25。諸外国との比較では、日本は、個人消費が持ち直していることからユーロ圏ほど超過貯蓄が積み上がり続けているわけではないが、アメリカでは、着実に超過貯蓄を縮小し、個人消費に回ってきたという違いがある(第1-1-19図(3))。こうした姿は、前掲第1-1-1図で確認したコロナ禍後の個人消費の動きと同様である。

内需セクターも引き続き推奨する。内需セクターは、短期的には経済活動の再開に伴う消費増加と、今年および来年の賃金上昇の追い風を受けるだろう。8月に中国が日本への団体旅行を解禁した。これにより年内には国内の旅行、小売り、サービス部門の見通しが改善すると考える。だが我々は銘柄をさらに厳選し、出遅れ株や、インフレ環境定着を鑑み価格決定力のある銘柄に目を向けている。

次に、サービス消費の動向を、各種統計・データから確認する。まず、旅行について、日本人の国内延べ宿泊者数は、全国旅行支援が2022年秋以降の押上げ要因となっていたが、2023年のゴールデンウィークに一時停止されたことなどから2、一旦減少した。その後、各都道府県で支援策が終了に向かう中にあっても、持ち直しの動きが続いている(第1-1-3図(1))。また、鉄道旅客数や航空旅客数共に持ち直し傾向が続いている(第1-1-3図(2)、(3))。一方、海外旅行について、出国日本人数をみると、コロナ禍後、着実に回復しているものの、コロナ禍前対比では6割程度の水準にとどまっている(第1-1-3図(4))。海外旅行消費(居住者家計の海外での直接購入)の名目値は、コロナ禍前の9割弱まで回復しており、この間、デフレーター3はコロナ禍前(2019年平均)対比で5割強上昇していることから、海外の物価上昇と為替レートの円安により、海外旅行需要の回復が抑制されているといえる。

こうしたEV化に伴い、自動車部品についても需要構造が変化するとみられる。自動車部品について、2022年のデータをもとに顕示比較優位(RCA)指数22を算出すると(第1-1-15図(5))、日本はトランスミッション、点火・始動用装置、エンジン部品などで輸出競争力が高いが、こうした部品はICEVに利用され、EVには基本的に搭載されないため、世界的な自動車のEV化が進展するにつれて需要が縮小する可能性が高い。この点、中国の自動車部品のRCA指数をみると、リチウムイオン電池やスタティックコンバーターなど、自動車の電動化の進展により需要の拡大が見込まれる部品の輸出競争力が高いことが分かる。2022年の世界の輸出金額について2019年からの変化を品目別にみると、トランスミッションとエンジン等は2019年の水準を下回る一方、スタティックコンバーター等は同水準を大幅に上回っている。

基本シナリオでは、日銀は日本国債の買い入れペースを減速する一方、日本の10年国債利回りは2023年末までに0.8%をつけ、2024年いっぱいその水準にとどまるとみている。YCCの撤廃とマイナス金利政策の解除は、日本国債の利回りに上昇圧力となる可能性があるが、米国金利の低下によって一部相殺されるとみられる。為替については、日銀は円高よりも急速な円安を抑制したいものと考える。

日本の輸出先の約56%を占めるアジア向けについてみると(第1-1-13図(2))、上述のとおり、2022年半ば以降、情報関連財を中心に機械機器が減少に大きく寄与してきたが、IC等情報関連財の下げ止まりや自動車関連財の増加等により、持ち直しの動きがみられてきた。この間、輸出先の約19%を占める中国向けについては、中国の製造業部門が軟調に推移していることを受け、工作機械の減少が続いている一方、ICや半導体製造装置といった情報関連財は回復している(第1-1-13図(3)、(4))13。また、これまで悪化が続いてきた世界的な半導体需要の底打ちにより、経済状況が改善している台湾や韓国向けの輸出も情報関連財を中心に下げ止まっている。

2016年11月にUBS証券株式会社ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス日本地域CIOに就任(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以来、日本に関する投資調査(マクロ経済、為替、債券等)及びハウスビューの顧客コミュニケーションを担当。2010年8月、エコノミストとしてUBS証券会社に入社後、経済調査、外国為替を担当。インベストメント・バンクでは、日本経済担当エコノミストとして、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査で外資系1位(2016年、2年連続)に選出。また、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」やBSテレ東「日経モーニングプラス」など、各メディアにコメンテーターとして出演。著書に「アベノミクスの真価」(共著、中央経済社、2018年)など。UBS入社以前は、内閣府にて政策企画・経済調査に携わり、2006-2007年の第一次安倍政権時には、政権の中核にて「骨太の方針」の策定を担当。2005年、ブラウン大学大学院 (米国ロードアイランド) にて経済学博士課程単位取得(ABD)。

機械投資の先行指標である機械受注の民需(除く船舶・電力)も、2023年半ば以降はおおむね横ばいとなっているが、電力を含む民需全体では、2022年末頃以降、振れはあるものの相対的には堅調に推移してきた(第1-1-12図(5))。日本政策投資銀行「2023年度設備投資計画調査」によると、電力会社では原子力関連投資や既存火力の維持更新投資等が計画されており、それらが反映されていると考えられる。また、機械受注の受注残高は高水準が続いており、物価上昇の影響を受けないとみられる手持月数も高水準となっている(第1-1-12図(6))。受注残高には、民需のほか外需や公需が含まれる点には留意が必要であるが、民需分についても相応の受注残が蓄積されているとみられる。発注企業による納入の延期や、キャンセルの動きが大きくならない限りは、こうした受注残が、今後、実際の販売すなわち設備投資として顕在化するものと期待される。

超過貯蓄については、コロナ禍で消費機会が制限された結果、積み上がった貯蓄であるとすれば、いずれかの段階で、アメリカのように本格的に取崩しが起こり、個人消費を支えていくと期待されるが、なぜ日本では、超過貯蓄の取崩しが現時点では目立って起きていないのであろうか。この点を確認するため、まず、家計の属性別に超過貯蓄を確認する。

デジタル化に加えて、グリーン化・脱炭素化の流れも、日本の外需に大きな影響を与えている。上述のとおり、2023年の輸出の持ち直しの動きは、主に自動車の生産回復に支えられており、乗用車の輸出台数は、2023年10月には2019年平均を上回った(第1-1-15図(1))。これをパワートレイン(エンジンやモーター、変速機や車軸などを含めた動力を駆動輪に伝える装置)別にみると(第1-1-15図(2))、総台数の大半を占めるガソリンエンジン車・ディーゼルエンジン車(ICEV)は、持ち直しに寄与してはいるものの、コロナ前との比較では8割程度の回復にとどまっており、電動車(ハイブリッド車:HV、プラグインハイブリッド車:PHV、電気自動車:EV)がコロナ禍前の水準への回復のけん引役となっている。この背景には、各国における気候変動対策としての脱炭素化の動きがあり、各国・地域において自動車の電動化の目標等が掲げられる中21、世界の乗用車輸出台数に占める電動車のシェアは、2019年から2022年にかけて、ガソリンエンジン車・ディーゼルエンジン車は91.4%から75.6%に低下した一方、HVは4.8%から11.1%に、PHVは1.1%から3.8%に、EVは2.3%から8.0%にそれぞれ上昇した(第1-1-15図(3))。日本の主な乗用車輸出先国・地域における乗用車国内販売台数に占める電動車の比率をみると、いずれも2019年から2022年にかけて上昇しており、乗用車の電動車シフト、とりわけEVへのシフトが顕著であることが分かる(第1-1-15図(4))。

一方、個人消費の持続的な回復には、購買力の増加、すなわち、名目所得の伸びが物価の伸びを上回って推移する姿が継続的に実現するという見通しが重要である。この観点からは、本章第2節でも述べるように、2024年度において、春闘に代表される賃上げが力強いものとなることが極めて重要となる。

それ以前は、2016年から2022年までの6年間、日系シンクタンクや米系証券会社でエコノミストとして日本経済分析・見通し作成などを担当。2016年に慶應義塾大学を卒業。

2022年10月UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント入社。投資戦略・調査部門であるチーフ・インベストメント・オフィスにて、ストラテジストとして日本経済や債券・為替等の調査分析及び投資戦略を担当。

自動車は日本の輸出において主力品目であるうえ、産業としての裾野が広く、輸出の多寡は生産や雇用など経済に大きな影響を与える。世界的に自動車のEV化が進展する中、部品も含めた自動車産業全体の競争力維持のため、EV化に向けた生産へのシフトや、そのための研究開発、新規の設備投資が一層重要となろう。

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