外資スキーリゾート計画 住民懸念
上下水道や電気や道路など、法令に則り一義的には行政が対応すべき部分があるかと思うが、財政の制約もあり、議会や住民の意見などを踏まえ、相応の負担を民間の開発業者や利用者に求めることは、理解が得られよう。ある程度の規制や負担は、ニセコのブランド価値や利用者の利便性の向上につながり、開発業者などを含め、すべての当事者にメリットとなることだ。
今後も好調に推移しそうなニセコ観光圏だが、新型コロナウイルスの影響が及ぶ前からの課題はなお横たわっている。1つは、需要に対応する労働力の確保だ。冬の繁忙期に働く人の多くがシーズン終了後にニセコ観光圏を離れてしまうため、安定性を高める取組みが欠かせない。このため倶知安町内の外資系高級ホテルは、観光学部のある札幌市内の大学とタッグ。インターンなどを通して人材育成や就職先の確保などにつなげる取組みを始めている。北海道庁の後志(しりべし)総合振興局は、宿泊施設などを舞台にしたインターンシッププログラム「ShiriBeshi留学(通称ニセコ留学)」を展開している。
「北の峰地区はもともとが住宅地で、生活者の多い場所です。富良野のスキー場は、民間活力により開発されており、まちづくりについても、民間と地域住民、そして行政がうまく連携して街並みやコミュニティを形成してきました。現在、市では乱開発に繋がらないようなルールを検討しており、今後も行政主導ではなく民間に協力を求める形で、二人三脚で街をより良くしていきたいとの思いです」
長野県の野沢温泉村、外資系企業が80億円投資を計画 長野県野沢温泉村の街中に、海外富裕層向けの大規模なリゾートホテルの開発計画が浮上している。東京の不動産投資会社が出資を募り80億円規模を投資。委託を受けたIHGホテルズ&リゾーツ(本社・英国)が、「ホテルインディゴ」として2027年にも開業する計画だ。二つの客室棟を整備し、部屋数は約100。1棟は9階建てという。
懸念もある。北海道のニセコ地域では、外資の流入が過熱。物価や地価が高騰し地元住民の生活に支障をきたしている。白馬村でも外資の高級リゾートホテル建設を目指した用地の取得や、首都圏のディベロッパーなどによるホテルコンドミニアムの建設など、インバウンドや高所得者層を狙った開発が進む。
世界的スキーリゾートであるカナダのウィスラーや米国アスペンに匹敵する成長余力を持つと見てニセコの開発を担ってきたのは、香港のパシフィック・センチュリー・プレミアム・デベロップメンツやシンガポールのSCグローバル・デベロップメンツなど著名な海外資本だ。近年は「パークハイアット」や「リッツカールトン」ブランドのホテルがオープンし、「アマン」や「カペラ」などの高級ホテル運営会社もプロジェクトを発表している。
景観条例によると、高さ10m超や、延べ床700平米以上の新築、また3000平米以上の開発行為については住民説明会を開くことが定められている。地域と開発側との相互理解がますます重要になるなか「地元富良野出身の不動産屋として、できる限り外国人投資家と地元地主様の間の架け橋になりたい」と池野氏は語る。
ニセコ観光圏では、かねて事業者に対する開発の規制や住民理解のあり方について検討が進められてきた。セミナーで俱知安町役場の担当者は「スキー場の近くから遠くへ、リゾート開発が面的に広がる『スプロール化』は大きな課題。まち全体での都市計画の見直しや、景観計画の策定に取組んでいる。持続可能な観光を考える上で、住民理解の促進も進めていきたい」と説明した。吉田会長は「事業者側も、開発のコントロールが必要という総論では賛成していても、その内容や重点を置くポイントなどの各論ではまだ調整が必要」と指摘。「エリアとしての国際競争力を強化しつつ、持続可能な観光を達成するという根底は崩さず、業種・業態の垣根を越えてバランスを取っていきたい」と意欲を語った。
人口の約160倍もの観光客が訪れているニセコ観光圏。「観光地域づくり」を進める上で、無秩序な開発やオーバーツーリズムのリスクも無視できない。地元では、森林の伐採による景観の悪化や、温泉資源の減少などに不安を感じる人もいるとされる。小樽商科大学は2018年、ニセコ観光圏の住民意識調査の結果をまとめた。それによると、観光分野の道外・海外資本の参入について、66.4%の住民が「地域の活性化にはなるが一定の条件(立地、施設規模、地域参入など)のもとで推進すべき」と回答。報告書は「むやみに資本参入を認めるのではなく、制限を設けた上で、各町がコントロールを行い推進することが必要」と分析している。
白馬村の丸山俊郎村長(49)は「外資規制を強化し、事業者を積極的にコントロールすることは一地方自治体には難しいが、村としてはオールシーズン滞在型のリゾートを目指したい。通年で誘客して地元雇用の安定につながれば」と未来像を描く。
2006年から2019年までの14年間の集計では、ニセコエリアでは172件、買収された森林面積580haとなっており、全国合計の264件の過半以上を占め、同面積(2305ha)でも4分の1以上を占めている。ニセコエリアだけでなく、近隣のルスツ(4件)、洞爺湖(2件)に加え、富良野エリア(2件)でも外資による資産保有などを目的とした森林買収が進んでいる(2019年)。
「2007〜8年頃から、観光で訪れて富良野を気にいったアジアやオーストラリアの個人投資家の方が土地を買うようになりました。以降、2008年後半からの金融危機や2011年の東日本大震災で低迷と回復を繰り返しながらも、2015年頃にはそこにアジアの大手デベロッパーも乗り出し、個人・法人ともに外資による投資が本格化していきました」
外国人投資家にとっては、まだまだ“買い時”な富良野。今後、市場拡大が予想されるなか、外資側への規制という一方通行の対策だけではなく、地域側との相互理解を深めることがますます必要になりそうだ。
「ニセコはここ20年間で、外資が切磋琢磨し、新しい価値を創造してきた場所です。近年では一流ホテルが増え、場所自体がハイブランド化し、ニセコに不動産を持つことがステータスに。価格も高騰し、初期投資が高いので、投資のインカムゲイン(管理・運営により継続的に得られる収益)は1〜2%ほどと僅かかもしれません。それでも購入するのは、ステータス以外にも、数年後に不動産の価値がさらに高騰した際に売りに出し、購入時の金額との差益を得るキャピタルゲインを期待している部分があり、インカムゲインがマイナスにさえならなければ良いと考える、やはりある程度資金に余裕のある富裕層かなと思われます」
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