昨日のドル円は、時間外のダウ先物やシカゴ日経平均先物の下落を背景にリスク回避の円買い・ドル売りが先行し、一時156.92円と日通し安値を付けた。ただ、売り一巡後は買い戻しが優勢となり、米10年債利回りが一時4.8026%前後と2023年11月以来の高水準を付けたことも相場の支援材料になり157.82円付近まで持ち直した。ユーロドルは、欧州市場序盤には一時1.0178ドルと22年11月以来約2年2カ月ぶりの安値を更新した。
本日の東京時間では、東京仲値までにかけては、前日の米金利上昇や値ごろ感からのドル買いが優勢になりそうだ。しかし、先週の米雇用統計後から米長期金利が上昇過程を辿っているが、対円でのドル買いは限定的になっている。英国を中心に欧州圏も財政不安が懸念されていることで欧州通貨も買いにくい状況であり、消去法的にドル以外の通貨では円が買われやすくなっていることや、日銀の利上げ観測が燻っていることは引き続きドル円の上値を抑えそうだ。
本日の東京市場で最も注目されるのは、氷見野良三日銀副総裁の講演になる。氷見野副総裁は横浜市で金融経済懇談会に出席し、午後に記者会見を行う予定になっている。
昨年末の12月25日に日本経済団体連合会審議員会(経団連)で植田日銀総裁が講演を行って以後は、日銀関係者からは市場を動意づけるような発言はほぼ無かった。この間に、本邦から日銀の利上げを促す発言や報道は複数伝わっている。先週末9日の日銀支店長会議では「相応の数の企業が賃上げに前向き」などと春闘を前にして、賃上げを確認できているとの認識を示した。
また、翌10日に日銀の事情に詳しい複数の関係者からの話として、コメを中心とした食料品価格の上振れが主因で「今月開く金融政策決定会合では、コアコアCPIについて、2024年度と25年度の見通しが上方修正となる公算が大きい」と報じられている。市場ではインフレ圧力の警戒を示唆し、賃上げが確認できているとの認識を市場に示し、利上げへの地ならしを行っているとの声もある。
欧米長期金利の上昇の影響もあるとはいえ、先週は新発10年物国債の利回りは2011年5月以来の水準まで上昇した。この状況下で氷見野副総裁がどのような発言をするかが円相場の最大の注目になるだろう。なお、氷見野副総裁は昨年7月の利上げ後の8月の会見では、「経済・物価の見通しが実現する確度が高まっていく、ということであれば、金融緩和の度合いを調整していく、というのが基本的な姿勢」と発言。また、10月には「明らかに実質金利はかなり低い水準にある」「来年の賃金動向に関する情報などが重要」などと発言している。
一方で、利上げに対して否定的なのは、先週9日には11月毎月勤労統計で発表された実質賃金は4カ月連続でマイナス(10月は横ばいから-0.4%に下方修正)になった。過去最大の26カ月連続のマイナスから抜け出せたのが、昨年の6、7月の僅か2カ月であったことで、賃上げにも関わらず実質賃金が減少しているという現状は変わらないことだ。
円以外では、昨日ユーロドルが2022年11月以来、ポンドドルは2023年11月以来の水準まで弱含んだ。ロサンゼルスの火災が欧州の保険大手に約10億ユーロの損失をもたらす可能性があると報じられるなど、欧州圏のネガティブな報道が多いこともあり、ユーロドルはパリティを目指すという声が依然として強い。アジア時間での動意は限られるだろうが、欧州入り後の動きには引き続き警戒したい。
(松井)
・提供 DZHフィナンシャルリサーチ
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