中国GDP前年比50増 停滞感続く
不動産市場の停滞が続く中で、金融市場のリスクはどのように評価されるだろうか。有利子負債は、2024年3月末時点では、全体で対GDP比294.8%に達した(第2-3-20図)。家計、政府はおおむね横ばいで推移する一方、非金融企業の上昇傾向が続いている。
輸出は、各国の各産業の比較優位に基づいて行われることであるが、輸出補助金が背景にある場合には、国際的な貿易慣行138に反することとなる。中国本土市場の上場企業は、有価証券報告書において補助金の受取額を示しており、その合計額は、2023年は3,414億元(前年比38.9%、2019年の1.9倍、2015年の2.9倍、2010年の8.9倍)と大幅に増加している(図5)。このうち、新エネ車販売上位企業(5社)の合計は、2023年は105.9億元(前年比13.5%、2019年の0.9倍、2015年の2.3倍、2010年の208倍)となり、2019年までに増加していた。これらはあくまで、各企業が有価証券報告書において公表している、受領した各種補助金の合計値であり、WTO規定との関連は不明であるが、一部は結果的に、各企業の輸出増加に一定程度寄与した可能性がある。このような状況の下、WTOは、2024年7月に発表した貿易政策審査報告書において、中国政府による産業界への支援は全体的に透明性が欠如しており、「過剰供給」問題の議論を惹起していると指摘した139。
不動産市場の停滞が続く中、1級都市(北京等)、2級都市(重慶等)、3級都市(地方都市)のそれぞれにおいて、住宅価格は下落している(第2-3-14図)。2020年8月の不動産融資規制の導入126を受けて大手不動産企業の信用不安が表面化した2021年9月以降、2級都市、3級都市の住宅価格の下落は顕著となった。2023年前半には不動産融資規制の緩和、感染症拡大の影響の剥落により、各級都市で価格の上昇がみられたが、年央以降は不動産企業の資金繰り難が相次いで報じられる中で、不動産市場支援策の導入127を受けても反転に至らず、低下が続いている。
これは中国国民が高度成長時代には当然のように共有していた経済のレジリアンスに対する自信がやや後退していることを反映していると解釈することもできる。
財輸出は、2024年に入り、旧正月(春節122)の時期に変動があったものの、6月まで伸び率が高まり、持ち直している(第2-3-4図)。背景の一つには、世界的な半導体需要の持ち直しがあり、集積回路等の増加が顕著になっている。また、中国が新エネ車や太陽光パネルを始めとした品目において、補助金に基づく「過剰生産」により安価な製品の輸出を行っているとの指摘が各国からなされている(本節コラム参照)。鉱工業生産は、こうした自動車販売や輸出の増加を背景に持ち直しており、前年比で高い伸びが続いている(第2-3-5図)。
中国国家統計局は7月15日、2024年上半期(1~6月)のGDP実質成長率は前年同期比5.0%だったと発表した(注1)。政府目標の5.0%前後は維持したが、同年第1四半期(1~3月)の5.3%から減速した。第2四半期(4~6月)は前年同期比4.7%、前期比0.7%だった。前期比の伸びは第1四半期の1.5%から減速し、2022年第2四半期(マイナス2.1%)以来の低い水準となった。
中国国家統計局が17日発表した2024年の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で前年比5・0%増だった。中国政府が掲げた「5%前後」の成長率目標は達成したが、23年の5・2%増から減速した。長期化する不動産不況や個人消費の低迷で、景気の停滞感が続いている。
中国の住宅価格対所得比は2023年に6.8倍と、ピーク時から低下しているとはいえ、前回の市場調整局面(2015年)の水準(6.02倍)をなお上回っている(図表5)。現行の下落ペースが継続したとしても、割高感の解消にはさらに▲10%以上の調整が必要であり、それは2025年となる試算である。住宅価格の割高感と「保交房(予約販売済み未完成物件の引き渡し)」問題が徐々に解消されることにより、不動産販売は2026年以降、持ち直しに転ずるとみられるが、そのペースは緩慢なものにとどまりそうである。これまで積み上がった在庫の処分に伴う価格下押し圧力が残存し、先安観から購入の先延ばしが続くためである。在庫調整が完了し、不動産投資が上向くまで3年以上かかる公算が大きいとみている(図表6)。
2024年1-3月期に成長率が高まった背景には、政策効果による押上げ効果が考えられる。まず、固定資産投資の内訳をみると、不動産市場の停滞が続く中で、不動産開発投資は大幅な減少が続く一方、2023年10-12月期から1兆元(約20兆円)規模の自然災害対策が実行され、インフラ投資の伸びが高まっている(第2-3-2図)。また、製造業投資の伸びが全体の伸びを大きく上回っている。2021年3月に発表された第14次五か年計画(2021-2025)では「新型インフラ投資」が強調されており、新エネ車の充電インフラの整備促進(2023年6月)等、社会のデジタル化・スマート化・グリーン化を推進する投資の環境整備が進められ、国有企業も含め投資が活発化している。
中国の不動産市場は、依然として底入れの兆しが見えない。図表3は、不動産投資の先行指標である不動産開発向け国内貸出と不動産販売面積を季節調整値で見たものである。優良案件を抽出したホワイトリスト制度に基づくディベロッパーへの資金繰り支援策(2024年1月)や、地方政府による住宅在庫の買い取り策(同5月)などのテコ入れが行われているが、市況を好転させるには至っていないことが分かる。
若年失業率の高止まりの背景としては、ミスマッチ失業の増加がある。中国では、急速な経済発展と、いわゆる「一人っ子政策」等の産児制限等の社会的背景の下で、地方部も含め高学歴志向が進み、高等教育機関と入学生の数が急速に増加した。2022年時点では、学士号・修士号取得者比率は44.3%となり、日本と同程度となっている(第2-3-10図)。
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一人当たり可処分所得の伸びをみると、感染症拡大の影響が大きかった2020年、2022年に大幅に低下したが、2023年には顕著な回復がみられず、2024年4-6月の伸びは更に低下しており、22年以降続いている不動産市場の停滞を受けてレベルシフト(構造変化)が発生した可能性がある(第2-3-8図)。内訳をみると、給与所得の寄与の縮小に加え、財産所得のプラス寄与がゼロ近傍まで低下しており、不動産市場の停滞の影響がうかがえる。
こうした高等教育機関の卒業生は、ホワイトカラーの待遇のよい条件での就業を望む傾向がある。しかしながら、製造業の工員や物流等ブルーカラーの労働需要は増加が続いているものの、事務職等のホワイトカラーの労働需要は十分に伸びていないとみられる(第2-3-11図、第2-3-12図)。近年、プラットフォーム企業を含むIT産業、学習塾等の教育産業に対して規制が強化されたことや、不動産業の停滞により、ホワイトカラーの若年就業者を多く吸収していた産業に停滞がみられていることも、若年失業率に影響しているとみられる。
景気を下支えするため、中国政府は、ことしを「消費促進年」と位置づけ、自動車や家電製品などの買い替えを促す対策をことし2月に打ち出しました。政府は、製造から15年を超える車が700万台以上に上り、家電製品は毎年2億7000万台が使用期限を超えるとしていて、日本円で数兆円の規模の市場を生み出すとしています。こうした中、中国南部の海南島で開かれている国内外の4000を超えるブランドが集まる大規模な見本市では、政府の対策に期待する声が聞かれました。このうち、湖北省にある自動車メーカーの担当者は「国の買い替え促進策の具体的な内容や詳細を待っているところだが、この政策は今後の車の消費にとって、爆発的な促進になると信じている」と話していました。中国政府は自動車ローンの頭金の比率の引き下げや、古い自動車や家電製品の下取りの円滑化、それに、環境に優しい製品を購入する際の補助金などを通じて買い替えを進めたいとしていて、消費の押し上げを通じた経済の活性化にどこまで効果があるのか注目されます。
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