当然ですが JASRACはこの判決を不服として 上告しました
訴訟のきっかけになったのは、JASRACがその管理する著作物の演奏等について、音楽教室、歌唱教室等からの使用料徴収を平成2018年1月1日から開始することとし、2017年6月7日、文化庁長官に対して使用料規程「音楽教室における演奏等」の届出を行ったことです。
最高裁判決が出されたことにより、教師がJASRACの管理楽曲を演奏するにはJASRACへの使用料の支払いが必要であることが確認されました。その意味では、音楽教室事業者側の「負け」ともいえますが、音楽教室における主要な音楽の利用である生徒の演奏について、演奏権が及ばないとの判断を得たことは、実質的な「勝ち」とも評価できるものと思われます。
争点7(権利濫用の成否)については、JASRACが音楽教室における演奏について著作物使用料を徴収することは権利の濫用には当たらない、と裁判所は判断しました。
なお、JASRACはカルチャーセンターの音楽講座における演奏についても使用料の徴収を行っていますが、カルチャーセンターでの音楽講座についても最高裁と同じ解釈が可能となれば、生徒の演奏の主体はカルチャーセンター運営事業者ではないということになり、使用料について見直される可能性があります。
また、1970年の著作権法制定当時から一部の音楽教室事業者は十分な規模で営業していた実績を踏まえ「著作権法22条が音楽教室からの徴収を行う意図を持っていなかったことは明白」と指摘。加えて、本件が公になって以降、「守る会」が集めた署名は56万件に及ぶとした上で「JASRACが楽曲使用料徴収機関ではなく、音楽マーケット拡大の機能を持つことで多くの資金が広く音楽市場に還元することを望む」とした。
2点目については、高裁は、審決においては重要視された「恋愛写真」の利用実績については、実質的証拠がない(=事実認定について誤りはない。)とまでは判断しませんでしたが、結論としてはJASRACの行為について排除効果を認めました。審決はこの点に着目して排除措置命令を取り消した一方で、その点は必ずしも誤りではないとしつつ排除効果を認めた高裁判決は対照的です。このような判断は、排除行為に該当するためには、「実際に」他の事業者の事業活動を困難にし、他の事業者の参入を「具体的に」排除することまでは必要ではないという原則に従ったものと評価することができるでしょう*2。
これにより、イーライセンスやJRCの楽曲を使用したとしても、その分JASRACの使用料が減ることになるため、従来問題となっていた「追加負担となるから」という理由での利用回避は理屈上は発生しないこととなりました。利用割合が反映されなければ、イーライセンスやJRCの楽曲を使用すれば必ずJASRACの使用料にアドオンされて使用料が発生し、放送局が支払う使用料の総額が増加していたところ、利用割合が反映されることにより、イーライセンスやJRCの使用料がJASRACに比して安ければ、使えば使うほど使用料の総額は減少し、JASRACと同一の金額であれば、総額は上昇しないことになります。したがって、放送局にとっても、イーライセンスやJRCの放送使用料がJASRACの放送使用料より高いのであれば別段、同じ金額または安い金額であれば、イーライセンスやJRC(現NexTone)の楽曲を使わないメリットは少なくとも放送使用料の多寡の面では存在しないことになりました。ようやく「使いたい楽曲を追加料金を気にせずに使える」ようになったわけです。
当然ですが、JASRACはこの判決を不服として、上告しました。公正取引委員会も一応上告はしています。
結論としては、この審決取消訴訟において、原告であるイーライセンスの請求が認められ、JASRACに対する排除措置命令を取り消した審決が取り消されることとなり、これにより、排除措置命令の効果が復活することになりました(判決全文)。
排除措置命令に対するJASRACの主な反論として繰り返し言われ続けていた、「全曲報告がされていない以上、利用割合を算出できない」という主張とは矛盾しない形で、何とか格好をつけての排除措置命令の受け入れとなりました。
前述のとおり、JASRACの上告理由には「管理支配」という言葉が使われていますが、これはいわゆる「カラオケ法理」を意識したものと思われます。カラオケ法理は、「物理的な利用行為の主体とは言い難い者を、①管理(支配)性および②営業上の利益という2つの要素に着目して規範的に利用行為の主体と評価する考え方」と説明されます 2。
審決の内容は既に中編で説明しましたが、この審決が出されることによって、JASRACに対してなされた排除措置命令は取り消されることとなりました。公正取引委員会が自ら出した排除措置命令を自ら取り消すわけですから、通常はこれで審決が確定するはずでした。しかし、「JASRAC無罪」の審決に対し、JASRACと競争関係にある管理事業者であるイーライセンスが、公正取引委員会を相手に東京高裁に対して審決取消訴訟を提起しました。
つまり、JASRAC、イーライセンス、JRCの3社のいずれかに管理されている楽曲が100秒使用された場合、そのうちJASRACの楽曲が90秒使われていれば、JASRACの放送使用料(使用料規程上は放送事業収入の1.5%)に、100分の90を乗じることにより、使用料を算出することになります。
これまで、カラオケ法理によりJASRACは多数の勝訴判決を勝ち取ってきましたが、あまりにその外縁が広がり過ぎて不明確であるとして、カラオケ法理に対しては少なからず批判的な意見もありました。 あまり意識されませんが、著作権侵害には刑事罰も伴いますので、罪刑法定主義の観点からも、本来は何が違法で何が違法でないのか明確でなければならず、「管理支配」といった抽象的な要件により違法であるか否かが判断されてはならないでしょう。
JASRACとしては、知財高裁判決で採用されなかったカラオケ法理が採用されるべきと改めて主張しましたが、最高裁においてもカラオケ法理が正面から採用されることはありませんでした。
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