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外為市場に長年携わってきたコメンテータが、その日の相場見通しや今後のマーケット展望を解説します。
## 市場の概況
前日の米PPI(生産者物価指数)の発表が市場予想を下回り、インフレの鈍化傾向を示しました。このニュースを受けて本来ならドル安に進むはずでしたが、市場の反応は複雑で、ドルは一時下落した後に上昇するという動きを見せました。特にドル円相場においては、IMM(国際通貨市場)でドル円のショートポジションが大量に蓄積されているため、一気に下落することは難しい状況です。
一時的に148.35円まで戻したものの、ベッセント財務長官の発言後にドルは下落に転じました。同時にアメリカの金利も下落し、ゴールド(金価格)は史上最高値を更新するという展開になりました。
## ベッセント財務長官の重要発言
ベッセント財務長官は「最近のドル相場下落は自然な調整である」と発言しました。トランプ大統領の政策が市場にすでに織り込まれており、その結果として他の通貨のパフォーマンスが向上することは自然な流れだと説明しています。この発言はトランプ政権がドル安を容認する姿勢を示唆するものとして市場に影響を与えました。
## トランプ政権の経済戦略
トランプ政権の経済政策の核心は、関税を活用して米国内に製造業を取り戻すことにあります。この目標を達成するために、低金利政策とドル安を利用して国内製造業の復活を促進しようとしています。つまり、ドル安はトランプ政権の明確な目標の一つであり、意図的に追求されている政策だと考えられます。
しかし、この政策目標が市場に十分に周知されていないことや、市場でのポジションが偏りすぎていることから、時折大きなショートカバー(空売りポジションの買い戻し)が入り、相場が乱高下する要因となっています。
## 週初からの市場動向
週明けの月曜日は、ドル安から始まりドル円は146.60円前後を攻める展開でしたが、途中からショートカバーが入り、特にニュースがない中でも大きく上昇しました。米CPI(消費者物価指数)の発表前には順調にショートカバーが進み、米CPIの数字が市場予想より低かったにもかかわらず、一時的に148.20円近くまで上昇するという予想外の展開になりました。
こうした動きは、市場のポジションが極端に偏っている状況では起こりやすいとの指摘があります。しかし、149円台まで買われたことで、短期的なショートポジションがかなり解消された可能性が高く、その後は再び下落基調に戻っています。
## 関税政策の影響と混乱
当初、市場はトランプ政権の関税政策を「他国に対して妥協を引き出すための武器」として捉え、実際の発動は限定的になると予想していました。しかし、現実には関税が次々と発動され、貿易戦争の様相を呈しています。
特に注目すべきは、EUのワインに対して200%の関税を課すというニュースです。これにより米国内のワイン産業は潤うかもしれませんが、ニューヨークの高級レストランでフランスワインが提供できなくなるなどの問題も生じると予想されます。
さらに重要なのは、4月2日以降に相互関税が発動される予定であることで、この傾向がさらに強まる可能性があります。ラトニック商務長官のインタビューでも、トランプ大統領の意向をそのまま反映したような発言がなされており、製造業を国内に戻す政策を強く推進する姿勢が確認されています。
## 経済指標と今後の見通し
本日は金曜日で大きな経済指標の発表はありませんが、ミシガン大学の消費者信頼感指数の速報値が発表される予定です。市場予想は63.1ですが、実際はもう少し低い数字になる可能性があります。消費者関連の信頼感指数は最近下落傾向にあり、アメリカの景気状態を判断する上で重要な指標となっています。
アメリカ経済は現在、関税による経済混乱、投資の減少、そして大量の公務員解雇など、景気後退の兆候が見られます。トランプ大統領もベッセント財務長官も、これを「デトックス期間」と認めていますが、実際にはかなり厳しい状況になる可能性があります。
そうした中で、アメリカの金利が下がり、ドルの下落を政権が容認する姿勢を示しています。一方で「強いドル」という発言もありますが、実質的な意味はなく、トランプ政権の真の意向はドル安にあると分析されています。
## 来週の注目イベント
来週の注目点としては、まず月曜日に米小売売上高の発表があります。前回は非常に悪い数字でしたが、今回は0.7%という比較的良い予想がされています。この指標は前回の悪化をきっかけにアメリカの株価下落とドル下落が始まったため、特に注目されています。
さらに、19日には日銀の政策決定会合とFOMC(米連邦公開市場委員会)が同時に開催されます。日銀に関しては、1月に利上げしたばかりであり、賃金上昇が見られ始めているとはいえ、3月にさらなる利上げを行う可能性は低いと予想されています。植田総裁の発言には注目が集まりますが、おそらく極めて中立的な内容になると思われます。
FOMCについては、夏時間になったため時間帯が変わり、パウエルFRB議長の記者会見が特に注目されます。しかし、トランプ政権の関税政策によって金融政策の先行きが難しくなっているという内容になる可能性が高いと予想されています。
## 総合的な見通し
来週も今週と同様に、様々な関税が発表されたり撤回されたりする不確実な状況が続くと予想されます。こうした不確実性の中で、ドルに対する信認は低下し、徐々にドル安が進行すると見られています。
現在のドル円チャートを見ると、下降トレンドが継続しており、IMM(国際通貨市場)では13.3万枚のショートポジションが蓄積されているため、時折ショートカバーによる上昇はあるものの、基本的には下降トレンドに沿って徐々にドルが下落していく状況が続くと予想されます。
## 結論
トランプ政権のドル安志向と関税政策の混乱、さらに米国経済の減速懸念から、ドル円相場は短期的な上昇はあっても全体としては下落トレンドが続くと予想されます。特に4月2日以降の相互関税発動により、不確実性がさらに高まる可能性があります。市場参加者はショートポジションの蓄積に注意しながら、今後の政策発表や経済指標に注目する必要があります。こうした状況の中で、徐々にドル安が進行し、円高ドル安の流れが強まる見通しです。
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志摩力男 氏
慶應義塾経済学部卒。1988年ー1995年ゴールドマン・サックス、2006-2008年ドイツ証券等、大手金融機関にてプロップトレーダーを歴任、その後香港にてマクロヘッジファンドマネージャー。独立した後も、世界各地の有力トレーダーと交流があり、現在も現役トレーダーとして活躍。
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ドル円続落 ドル安はトランプ政権の明確な目標に来週の日銀会合 FOMC解説
FRBのパウエル議長は記者会見の席で「一部のFOMCメンバーがトランプ次期政権発足に伴う経済政策によって物価高となる見込みでその影響を織り込んだ」と述べた。政策影響の推測や臆測はしないというのが従来のパウエル流FOMCのスタンスであったため、「非常に意外」と受け止められている。いずれにせよ今後も引き続き利下げが行われるものの、その実態は「タカ派的利下げ」と捉えられ、マーケットにかなりのショックを及ぼしたと言える。1月のFOMCでの利下げは見送られる可能性が急激に高まった。
ドットチャートはご存知のようにFOMCメンバーによる政策金利予想のことで、ドット(点)によって表した金利予測分布図である。毎年3月、6月、9月、12月に見直しが行われる。12月は2024年最後のドットチャートの提示であり、前回9月からの変化が非常に重視されるわけだが、2025年の利下げ回数が9月時点の4回から2回に減ったのだ。要するにいきなりの半減、利下げペース鈍化との明確なメッセージが発せられた。また、同時に発表された経済関連の予想データにおいて2025年の個人消費支出(PCE)物価指数の見通しを9月時点の2.2%上昇から2.5%上昇に上方修正。わずか3カ月でインフレ基調が強まるとの見方が示された。
マーケットの事前予想としては「2024年は前倒しで利下げを行ったので、2025年の利下げ回数は4回ではなく3回に減るだろう」というのがコンセンサスとなっていたが、いきなり2回に減らされた形となる。株式市場にとって利下げペースが鈍化することは当然のことながら逆風になる。インフレ予想の引き上げも逆風だ。NYダウが1123ドル安(2.6%安)、S&Pが178ポイント安(3.0%安)、ナスダック716ポイント安(3.6%安)となったのも頷ける。
一方、同日12月19日(木)のお昼頃。日銀の12月の金融政策決定会合の結果が発表され、多くのマーケット参加者の予想通り政策金利が据え置かれた。米国株が急落した流れを受け朝方の日経平均株価は700円を超える下げでスタートしたものの、円安進展や政策金利を据え置いた日銀の姿勢に支えられて徐々に戻す展開となり終値は268円安(0.7%安)にとどまった。円安を作り出したのは「米国は利下げペース鈍化、日本は利上げペース鈍化」との解釈だ。ドルが買われて円が売られる形となり、157円台後半まで円安・ドル高が進んで5カ月ぶりの水準に。これが日本市場にはプラスに働いて、米国株ほどは下げなかった。
これによりトランプ相場が帳消しとなった。大統領選の投票日だった11月5日のNYダウは4万2221ドル。12月4日には4万5014ドルまで買われて6.6%上昇していたが、12月19日の終値は4万2342ドルとなっており「行って来い」の状況だ。連日強い動きを見せて初の20000ポイントを付けたナスダック市場も19372ポイントまで下落している。
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