米国の関税 世界の株式市場に激震
米国では、FRBの利下げ観測が急速に後退している。もしかすると、2025年中に利上げの見通しが浮上する可能性さえあるのではないか。こうした予想は、ドル高観測を強めるとみられる。その場合、米長期金利も上昇する。
国際経済学のアブソープション・アプローチの考え方に立つと、「代替効果<所得効果」になると、需要超過は海外からの供給増を引き起こす。貿易赤字は増えるという結果になる。日本の自動車産業にとって、米国の需要超過が25%の関税適用の痛みをいくらか緩和してくれる作用があることは軽視してはいけないと思う。
しかし、脱炭素化を無視するようなトランプ大統領の誘いに乗ることは、長期的にマイナスなのではなかろうか。仮に、トランプ大統領の任期の4年間が過ぎて、米国が脱炭素化に戻ると、米国は世界のEVシフトを遅れて追い駆ける羽目に陥るというシナリオも十分にあり得る。「うさぎと亀」ではないが、この4年間にEV車の開発・研究を怠っていると、米国は海外との脱炭素化技術の開発競争に大きく遅れをとってしまう。例えば、2025~2028年にかけて中国製のEV車が性能を飛躍的に引き上げたとき、ガソリン車重視へシフトすると、そこでの競争は米国企業を不利にする。おそらく、欧州自動車メーカーは、EVシフトの流れは止めないだろう。多くの日本メーカーもそうだと思う。
2024年の貿易統計によると、米国向けの輸出乗用車の1台単価は436万円と、世界平均の316万円よりも1.38倍も高価なものを輸出している。その436万円に25%の関税率をかけられると、545万円に値上がりするイメージだ。この効果によって、米国販売には多大なマイナスが及ぶだろう。
米国への輸入自動車に25%の関税率をかける方針が、トランプ大統領から示された。仮に、それが実行されれば、現地生産車や日本の部品を使って輸出している欧米・アジアの自動車メーカーへの間接的な効果も含めると、その影響は計り知れないものになりそうだ。為替効果や所得効果によって、いくぶん緩和されたとしても、その悪影響は甚大だろう。
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ひとつは、米国向け輸出が減る一方で、日本メーカーが米国現地工場で製造する完成車の販売が増加するだろう(たとえ自動車部品に関税がいくらかかかったとしても)。そうすると、米国内の販売が輸入車から国産シフトする効果が、日本メーカーの連結利益をいくらか回復させるだろう。現地工場を有する日本メーカーは、米国工場の稼働率を高めるかたちで需要変化を取り込もうとして、失地回復に努めるとみられる。
中国は米国の貿易相手国の中で、メキシコとカナダに次ぐ3番目に大きな貿易量がある。このため45%にも達した追加関税は、米国企業のサプライチェーンや価格設定行動に及ぼす影響が大きくなる懸念も拭えない。S&P500の今後の見通しをめぐっては、雇用や物価に関する経済指標に弱さがみられた場合、下落で反応するリスクもありそうだ。
トランプ大統領は、輸入する自動車に25%前後の関税をかける方針を発表した。4月2日にその詳細を明らかにするという。この発表は日本のマーケットにも激震を与えている。米国向けの自動車輸出は2024年6.0兆円(138万台)で、全輸出額の1/3(33.2%)を占める(財務省「貿易統計」)。輸出台数ベースでは26.4%になる。その部分が25%の関税適用で打撃を受ければ、計り知れない。
また、マクロ的に考えると、米国向けの自動車輸出が減ったり、輸入物価の上昇圧力がドル買いの圧力になる。トランプ大統領が狙っている対米直接投資が拡大することも、ドル高要因になる。このドル高は、輸入価格を押し下げる効果を持つ。わかりやすく言えば、ドル高・円安によって日本のドル建て輸出額が下がっていく作用である。財務省の貿易取引通貨比率(2024年下半期)では、日本から北米への輸出ではその83.8%がドル建てになっている。その分、ドル高・円安になるほど、輸出価格が下げられる。25%の関税に対して、ドル高・円安効果で値上げ幅を数%ほど吸収できるとすれば、打撃を減殺することが期待される。
ドル高になれば、海外企業の投資促進が起こるだろう。かつて、「強いドルは国益」と1990年代に言われたことを思い出す。ドル高が対米証券・直接投資を促して、米国の成長率を嵩上げする。すると、米国の需要サイズが供給力を超過して、貿易赤字は拡大する。意外に思う人も多いだろうが、ほかにもトランプ大統領が法人税減税などで需要刺激をするほど、需要超過が進む。トランプ大統領の意図とは逆に、貿易赤字を増やす圧力になる。自動車は25%という特に高い関税率をかけられるので、自動車に関しては輸入が増えるかどうかには不確実性がある。それでも、高関税がかけられない分野では輸入が増えそうだ。関税をかけられる効果が「代替効果」だとすると、米国経済が膨らんでいく「所得効果」の方が大きくなる可能性である。
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
トランプ米大統領が発表した関税政策を受けて3日、世界の株価は急落した。2日、トランプ氏は新たな課税措置を打ち出したが、それは大方の予想をはるかに上回る内容だった。
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