鉄道7社の安全対策 ミス懲戒せず
鉄道の安全度は、各社が対策に力を入れていることもあって年々高くなっている。それでも遮断機や警報機のない「第4種踏切」が依然として全国に残る。地方路線には資金力や技術力に問題を抱えている事業者もあり、まだ対策が十分というわけではない。
福知山線の事故を受け、国土交通省は鉄道の安全性や信頼性を高めるため、鉄道の技術基準を定める省令の一部を改正し、18年に施行した。線路のカーブ地点などへの自動列車停止装置(ATS)設置や運転状況の記録装置導入を新たに義務化。事業者の安全管理体制をチェックする「運輸安全マネジメント評価」なども取り入れた。
平成17年4月にJR福知山線で脱線事故が起きて以降、JRや私鉄各社では、列車同士の衝突や脱線などで死傷者が出る鉄道事故が減少傾向となっている。運転士支援システムやホーム柵など、脱線事故から20年の間に各社とも安全対策を進めたことが背景にあるとみられる。だが最近はやや増加に転じており、各社とも不断の取り組みが求められる。
ただ、比較的軽微なミスと位置づけられるオーバーランなどについて、乗務員が自主的に報告する「安全報告」は約1万1千件で、15年度(約1万800件)と比べても横ばいだった。
関西大の安部誠治教授(公益事業論)は「現場からの報告を増やすことで、社員の間にミスの未然防止に向けた意識が高まる」と評価。今後の課題について「判定委員会の判断が曖昧になると、社員は疑心暗鬼になる。判定に透明性を持たせて『人為的ミスならば懲戒されない』という理解を広げることが重要だ」と指摘した。
JR福知山線脱線事故以降、鉄道事業者の安全投資額は増える傾向にある。国が集計を始めた平成19年度は総額で7千億円台だったが、近年は1兆円前後で推移。対象は事故対策にとどまらず、防犯や災害にも広がっている。
鉄道事故を長年調査して感じたのは、大事故は悪い条件が重なると起きるということだ。事故を防ぐには日頃から小さな穴を発見し、塞ぐことが大切。鉄道各社は自動車や航空などの他業界や、(福知山線脱線事故を含む)過去の失敗も参考に対策を進めてほしい。
私鉄各社では、近鉄が19年から、GPS(衛星利用測位システム)を使い、専用端末の音声や光で停車駅やブレーキ開始場所などを注意喚起する運転士支援システムを大手私鉄で初めて取り入れた。東急電鉄は令和2年、乗客の転落などを防ぐホームドアやセンサー式ホーム柵を全駅に設置。東急はアンケートに「最重要事項である安全・安心な鉄道を追求して」いると強調する。
50代の男性運転士は「軽微なミスであっても繰り返すと懲罰人事を受けるかもしれない。報告をためらう気持ちは今も強い」と話す。
国交省の鉄道統計年報によると、脱線事故前の16年度にJR7社で起きた鉄道運転事故は計445件だったが、その後は減少傾向をたどり、令和4年度は287件と3分の2にまで減少。全国私鉄の事故総数も321件から253件と約2割減った。また、走行100万キロ当たりの事故発生件数でみても、JRでは平成16年度に0・58件だったのが令和4年度には0・40件、私鉄では0・60件から0・47件に低下している。
国土交通省は脱線事故翌年の鉄道事業法改正に伴い、安全意識向上を目的に中小事業者を含む全社の安全投資額の公表を始めた。当初の19年度は総額で7835億円だったが、28年度に1兆円を突破。令和5年度は約1兆601億円だった。営業収入に占める安全投資の割合も平成19年度の11・3%から、令和5年度は14・4%に上昇した。
今後、鉄道分野でも自動化や機械化がさらに進む。今まで人間が担ってきた業務を機械化することで安全は保たれるのか。利点だけでなく課題も広く検証すべきだ。
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