家族の介護を理由に仕事を辞める「介護離職」
本記事では、介護離職が個人に与えるリスクとともに、介護離職を防止するための国の制度、企業が取り組むべき対策について詳しく解説します。
介護離職は、企業を支える優秀な人材のキャリアに影響を与え、貴重な人材を流出させる可能性があります。介護に直面した従業員が「制度を利用すれば働き続けられる」と感じられる仕組みや風土を整えることが、かけがえのない人的資本を守り、企業が成長していくために重要です。
同僚たちのサポートもあり、介護離職を思いとどまった原さん。しかし、「父親が認知症でパニックになった」と母親から頻繁に連絡があり、仕事に集中できない日々が続いた。
少子高齢化が進む中、家族の介護のために仕事を辞める「介護離職」は、企業や従業員にとっての大きな問題です。介護離職は、収入の減少やキャリアの断絶、介護者と社会との隔絶など、介護者の生活に大きな影響を与える可能性があります。また、優秀な人材が介護離職を選ぶことは、企業や社会にとっても大きな損失となるでしょう。企業は大切な人材を守るために、従業員が介護に直面する前に、適切な制度や環境を整えることが求められます。
介護離職のリスクのひとつが、心身の負担の増加です。仕事を辞めて介護に専念するようになると、必然的に介護者と要介護者が一対一で向き合う時間が増えます。介護の状況によりますが、食事や入浴、排せつなどのサポートが必要になる場面が多くなり、介護者の負担が大きくなりかねません。場合によっては、長時間気を張り続けることになり、心身の負担を感じやすくなるケースもあります。
ただし、介護期間は平均4年~5年と言われています。93日間の休業では介護期間として足りないという問題が生じ、職場復帰後に仕事と介護の両立が難しく、介護離職を選択する労働者が一定数存在するというのが現状です。
家族の介護を理由に仕事を辞める「介護離職」。日本では年間約10万人もの人がこの選択を迫られている。
なぜ、介護離職は起きるのでしょうか。厚生労働省「令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 労働者調査」では、介護離職の理由を尋ねる質問に対して、「勤務先の両立支援制度の問題や介護休業などを取得しづらい雰囲気」が43.4%で最も多くを占めました。次いで、「介護保険サービスや障害福祉サービスなどが利用できなかった、利用方法がわからなかったなど」が30.2%、「介護が必要な家族、その他家族・親族の希望等があった」が20.6%となっています。
経済的な困窮も介護離職のリスクです。仕事を辞めて収入が途絶えると、自身の貯蓄や親の年金を頼りに生活するケースも少なくありません。また、介護離職によって厚生年金の加入期間が短くなると、将来的に自分の年金が減額される可能性もあります。さらに、親を看取った後は、親の年金も途絶えるため、再就職しない場合は自身の老後資金が不足するリスクがあります。
前述の厚生労働省の調査によると、介護離職をしても、精神面、肉体面、経済面において負担が増したとの回答が約6割に上るとのことです。介護に専念する分、精神的にも負担が大きく感じられます。
企業は、要介護状態の家族を介護する従業員から請求があった場合、介護休業、介護休暇、短時間勤務等の措置など、育児・介護休業法に定められた支援をすることになっています(「4 介護離職対策② 積極的な情報提供」を参照)。
例えば、介護離職防止対策促進機構では、人事、ダイバーシティ推進、労務、総務、経営企画などの担当者向けに、「介護離職防止対策アドバイザー養成講座」を主催しています。こうした講座の受講を促すなどして、一定の専門知識を持ち、適切なアドバイスを行うことができる人材を社内に確保することも大切でしょう。
従業員の介護離職のリスクに備えるために、福利厚生の一環として、このような保険に加入することも検討するとよいでしょう。「親介護一時金支払特約」については、次の資料で具体的に解説しています。ぜひ、ご覧ください。
社会からの孤立も介護離職のリスクといえます。家族の介護度が重い場合、介護者は24時間365日介護に従事する必要があり、社会と関わりを持つ時間がなくなることも少なくありません。親以外の人とのコミュニケーションが減ると、孤立感が助長されることもあるでしょう。
政府は「介護離職ゼロ」を掲げ、企業に介護休業制度の周知などを義務付けていますが、離職者が減る兆しは見えていません。
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