まず天下一品では「こってり」の注文が全体の7割を占めている
再出店が困難であろう立地の店舗を一斉に失う天下一品のダメージは、「たかが数店の閉店」で片付けられないほどに深いだろう。 今回の記事を書くために、閉店する新宿西口店へ足を運んだ。辺りは都内でも屈指のラーメン激戦区で、並の店なら逃げ出したくなるほどの競合がひしめく。この中で、天下一品はおおよそ20年にわたって鎮座してきた。この日も行列になるほど人気で、20分待って、やっと入店できた。 天下一品のこってりスープは、“飲むスープ”ではなく“食べるスープ”というキャッチフレーズに相応しい濃厚さを誇る。ご飯や唐揚げとの相性も抜群——なのだが、店の壁やテーブルが至る所で古びており、カウンター席は肘が当たるほどに狭いのが気になる。
まず天下一品では「こってり」の注文が全体の7割を占めている。他がマネできないメニューの存在は、誰もが認める安定経営の武器だ。ただ、こってりスープの人気が強烈すぎるのは、逆に弱みにもなり得る。新規顧客層がこってりスープにハマるきっかけを作れなければ裾野を広げられない。先に触れたような「昔ながらのラーメン店」的な店作りも含めて、よくも悪くもコアなファン頼み、といった印象を受ける。
比較対象として、閉店する天下一品店舗の多くを運営するエムピーキッチン系列企業が手掛けるつけ麺専門店「三田製麺所」を見てみよう。
しかし、閉店を予定している新宿西口店、池袋西口店、吉祥寺店などが、店としての活気を失っている様子はない。そもそも、ここ1年で閉店した店舗は運営元の直営店ではなく、フランチャイズ店舗だと、各社がすでに報じている。つまり、昨年6月の閉店分も含めて都内13店、首都圏全体で16店という大量閉店の真因は「天下一品の凋落」というわけではない。フランチャイズ店舗を運営していたエムピーキッチン、ティーフーズの2社に何らかの理由がある、と考えるのが妥当だろう。
それでも天下一品は、フランチャイズ加盟店も含めて、200店以上まで店舗数を増やしてきたのは素直に評価できる。まとめると、秘伝のスープ誕生までのストーリーや、創業者のカリスマ性も含めた「徒弟制型フランチャイズ」と例えればわかりやすいだろうか。
では、その理由とは何かを本稿では探っていきたい。なお、今回の執筆に当たって天下一品の運営会社(天一食品商事)や、エムピーキッチンなどに閉店理由、フランチャイズ店舗の詳細などを確認したものの、回答は得られなかった。また、本稿では各社報道や、購入時のレシート、過去の求人サイト記載分を参考にしながらエムピーキッチンとティーフーズ、エムピーキッチンホールディングスを、基本的に同グループとして扱う。
こうして見ると、同じ「チェーンのラーメン店」でも、店づくりが全く違うことが分かる。それでも、エムピーキッチンにとっては「天下一品のフランチャイズ加盟店」「三田製麺所の本部・直営店」の両刀で、収益をあげていく道もあったはずだ。今回、なぜ天下一品から“離反”したのか。
話を戻す。天下一品を運営する天一食品商事と、フランチャイズ加盟店として天下一品との関係を保ちつつ、同時に三田製麺所も展開してきたエムピー側は、両社の持つ経営上のノウハウや、フランチャイズ加盟店との関係で大きく違う印象を受ける。
こうして見ると「天下一品・天一食品商事」と「三田製麺所・エムピー」の両陣営は、あまりにも社風が離れている印象がある。かつ、エムピー側が三田製麺所のフランチャイズ本部として得た「今どきの外食企業」としてのノウハウを、師匠筋である天下一品のフランチャイズ加盟店で生かし切るには、何らかのハレーションが起きる可能性が高い。偉大な師匠(天下一品)に付き従ってきた弟子(エムピー)が、自ら軍団(フランチャイズ)を率いるようになり、外食企業の経営者として違った地平線を見渡すようになってしまったようなものだ。
「直営ではないフランチャイズ店舗だからかな?」と思いきや、都内の直営店でもキャッシュレスは非対応。ある店舗では故障した自動ドアがずっとそのままになっていたり、いまひとつ清掃状況が良くなかったりする。全体的に直営・フランチャイズを問わず「昔ながらの古びたラーメン屋」のような佇まいの店舗が多い印象を受けるのが天下一品である。
もともと天下一品の恵比寿店だった場所にある三田製麺所の恵比寿店を訪れると、一定の清潔感があって、パーソナルスペースを保った状態で過ごせる。メニューも豊富ながら注文画面はシンプルで、店内の巨大看板でつけ麺のスープが「3種類を炊き出し、抽出して合わせている」と説明されているため「迷ったら特濃つけ麺・つけ麺を頼んだらいいのか!」と、初見の客でもすぐに分かる。スマホオーダーに対応し、キャッシュレス・セルフレジで会計のストレスも少ない。天下一品と比較して、こちらの方が「今どきの普通の外食チェーン店」だと感じる。
再出店が困難であろう立地の店舗を一斉に失う天下一品のダメージは、「たかが数店の閉店」で片付けられないほどに深いだろう。
ゼンショーで「すき家」など約2000店の出店に関わった村上竹彦氏(現:エムピーキッチンホールディングス会長)や、のちに「資さんうどん」を全国進出に導く佐藤崇史氏を社長として招聘する(退任済、現在は資さん社長)など、人材登用の面でも一族経営を続ける天下一品の人材登用と対照的だ。
全国で200店以上を展開するラーメンチェーン「天下一品」が、6月末をもって都内23店舗のうち7店舗を閉店する。なお同ブランドは昨年6月にも6店舗を閉鎖しており、1年間で都内の店舗数がほぼ半減したことになる。 【画像】天下一品から離反した“愛弟子”の正体 1981年に京都で創業した天下一品の「こってりスープ」は他チェーンにない独自のもので、熱烈なファンも多い逸品だ。閉店が相次ぐということは、その味や集客力に陰りが見えたのかと疑う人もいるだろう。これまで天下一品を愛してきた人々にとって、今般の一斉閉店は「衝撃」以外の何物でもない。 しかし、閉店を予定している新宿西口店、池袋西口店、吉祥寺店などが、店としての活気を失っている様子はない。そもそも、ここ1年で閉店した店舗は運営元の直営店ではなく、フランチャイズ店舗だと、各社がすでに報じている。つまり、昨年6月の閉店分も含めて都内13店、首都圏全体で16店という大量閉店の真因は「天下一品の凋落」というわけではない。フランチャイズ店舗を運営していたエムピーキッチン、ティーフーズの2社に何らかの理由がある、と考えるのが妥当だろう。 では、その理由とは何かを本稿では探っていきたい。なお、今回の執筆に当たって天下一品の運営会社(天一食品商事)や、エムピーキッチンなどに閉店理由、フランチャイズ店舗の詳細などを確認したものの、回答は得られなかった。また、本稿では各社報道や、購入時のレシート、過去の求人サイト記載分を参考にしながらエムピーキッチンとティーフーズ、エムピーキッチンホールディングスを、基本的に同グループとして扱う。
一方のエムピーキッチンは、天下一品のフランチャイズ加盟店として会社の基礎を築きつつ、2008年に1号店を出店した独自ブランド・三田製麺所が難なく50店を突破、自らフランチャイズ加盟店を募るまでになった。


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