経団連会長 関税交渉の合意を歓迎
最低賃金については、市場の競争原理の中で、生産性の低い企業が淘汰されることは自然の摂理である。他方、最低賃金のような法的強制力のあるものについて、多くの中小企業が到底達成できないような引上げを行い、強制的に市場から退出させるという考えはいかがなものか。トランプ関税が与える影響も踏まえ、丁寧に議論を重ねる必要がある。
〔日米の関税交渉を受けた足元の為替の動きについて問われ、〕今回に限らず、為替はできるだけ安定することが望ましく、急激な変動は極力避けてほしい。
〔米国が日本に対し、在日米軍の駐留経費の負担増を求め、関税とリンクさせて交渉する姿勢を示していることについて問われ、〕本来、関税と安全保障は別の問題であり、そのことを明確に伝えるべきであろう。日本は1978~2024年度の予算の累計で約8兆5000億円もの在日米軍の駐留経費を負担しているという事実を伝えながら、関税と切り分けて議論する必要がある。
〔6月の会長・副会長会議でのSDGsに係る議論の模様と今後の経団連としてのSDGs達成およびポストSDGsに向けた取組みについて問われ、〕経団連としての考え方や取組みをいずれまとめて公表したい。先般、SDGs達成および2030年以降のポストSDGsに向けて、企業としてどのようにリーダーシップを発揮していくかという基本的な考え方を副会長と共有した。具体的には、5つの基本的な考え方を基に取組みを進めていきたい。例えば、社会貢献でもあるサステナビリティを企業にとっての成長機会と捉えて、経済成長と国民生活のウェルビーイングの向上につなげようという考え方が挙げられる。また、マルチステークホルダーとの対話や連携の強化といった考え方も有しており、現在、経団連は新たなステージに向けて取組みを深化させようとしている。
やはり最も影響が大きいのは自動車業界であろう。産業の裾野が広く、また相互関税とは別に、既に25%の自動車関税が発動している。引き続き、日本企業の対米直接投資残高が1位、雇用創出が2位と、米国に多大な貢献をしていることを訴えていくにしても、そのことをもって自動車関税の取り下げができるかどうかはわからない。
今後は合意を急ぐことなく、中長期の課題と短期の課題を分けて提案をしてほしい。米国の関税措置に関し、様々な事態に的確に対応できる省庁横断的な総合対策本部を政府は設置していると聞いており、適切な対応を期待したい。
〔現時点でのトランプ関税の日本企業・経済に対する影響を問われ、〕日本企業は、当面は収益の下振れリスクに直面するとともに米国への積極的な投資判断を固めることもできていない。また、中長期的な視点からの経営のあり方、すなわち事業ポートフォリオの見直しについても、今回のリスクに直面して、従来にも増して取組みを進める必要があるという声を聞いている。
〔トランプ関税が今後の賃金引上げと最低賃金引上げに向けた議論に与える影響について問われ、〕今年の春季労使交渉における賃金引上げ状況は順調な滑り出しをしたと感じている。他方、連合の集計では、回答組合数が昨年同時期よりやや減少しており、トランプ関税の行方を見定めようという動きが出ているのではないか。いずれにせよ、賃金引上げの力強いモメンタムの「定着」に向けた動きに対し、トランプ関税がマイナスの影響を及ぼさないことを願っている。
トランプ大統領の関税政策についてどう思いますか?
〔「骨太方針2025」における「有価証券報告書の株主総会前の開示の後押しにつながる制度横断的な検討」という記述は、経団連の主張に即したものかと問われ、〕経団連は、制度横断的な改革を主張しており、その趣旨が「骨太方針2025」に盛り込まれたものと評価している。
【イギリス】イギリスとの合意は5月初旬に発表され、イギリスで生産された自動車の輸入については、年間10万台までは関税を10%に引き下げるとしています。鉄鋼製品やアルミニウムへの50%の追加関税については、イギリス政府によりますと英米合意で関税を免除される唯一の国となったとして、合意どおり関税0%に向けて前進していくとしています。【ベトナム】ベトナムとは7月初旬にトランプ大統領がSNSですべての輸入品に対して20%の関税を課すという内容で合意したと発表しています。ことし4月に発表されたベトナムへの相互関税などは46%で、実現すれば大幅な引き下げとなります。この発表を受け、ベトナム外務省の報道官は最終的な合意に向けた詰めの作業を進めると明らかにしています。【インドネシア】インドネシアとの間では7月中旬にトランプ大統領がSNSで、交渉の合意を明らかにしました。そして22日、ホワイトハウスは貿易協定の枠組みについて合意したと発表し、アメリカ製品のインドネシアへの輸出にあたっては、農産物や自動車製品など99%以上の品目について関税障壁が撤廃されるとしています。そしてインドネシアへの相互関税などは、19%となっています。ことし4月に発表された関税率は32%でしたが、大幅に引き下げられることになります。【フィリピン】フィリピンとの間では7月22日、トランプ大統領はワシントンを訪れたマルコス大統領と会談しました。会談後、トランプ大統領は「合意した」とSNSに投稿し、アメリカはフィリピンからの輸入品に対して19%の関税を課す一方、フィリピンはアメリカに市場を開放し、関税を撤廃すると明らかにしました。ことし7月にトランプ大統領が書簡で示した関税率は20%でした。
〔米国による相互関税の上乗せ分の適用停止期限を7月9日に迎える中、日本政府のとるべき対応を問われ、〕日米間の合意には、依然として距離があり、双方の認識が一致しない点が残っていると感じている。一方で、G7サミットの機会を捉えて、首脳会談が実現したことは、担当閣僚間で引き続き協議する上でも意義深い節目であったと考えている。今後の担当閣僚間の協議に向けて、中長期の観点から、国益を損なうことがないよう、粘り強く交渉いただくことを期待している。相互関税、品目別関税等の各論の交渉状況は承知していないが、あくまで一連の関税措置の撤廃を求めることを基本としつつ、適切に判断し、交渉されるであろう。
今回の日米交渉は、アメリカのトランプ大統領がことし3月から4月にかけて自動車や鉄鋼・アルミニウムへの追加関税、それに、すべての国や地域を対象とした10%の一律関税を発動したほか、「相互関税」を打ち出したことがきっかけでした。石破総理大臣はことし4月、赤澤経済再生担当大臣を交渉の担当閣僚に指名し、ベッセント財務長官らとの交渉がスタートしました。1回目の閣僚級による日米交渉の際には、交渉に先立って赤澤大臣とトランプ大統領の会談が急きょ開催。会談後には赤澤大臣が「トランプ大統領は端的に言えば『日本が協議の最優先だ』と述べていた」と語り、トランプ大統領もSNSに「大変光栄に思う。大きな進展だ」と投稿していました。その後、赤澤大臣は3か月間に7回という異例の頻度でアメリカを訪れ、貿易拡大、非関税措置の見直し、経済安全保障の協力の分野で議論を重ねてきました。【交渉焦点“自動車関税”】これまでの交渉で日本が最も強く主張してきたのが日本経済への影響が大きい「自動車の追加関税」の見直しです。日本側は当初、追加関税の撤廃を求めていましたが、交渉が進むにつれて撤廃は難しいとみて関税率の引き下げに方針を切り替えました。具体的には、アメリカの自動車産業への貢献度に応じて自動車の追加関税を引き下げる仕組みなどを提案。しかし、関係者によると貿易赤字のさらなる削減を求めるアメリカ側との隔たりは埋まらなかったということです。実際、6月に開催されたG7サミット=主要7か国首脳会議にあわせた日米首脳会談でも合意に至らず、交渉の難しさが浮き彫りとなりました。【相互関税の期限迫る】交渉が難航する中、迫ってきたのが相互関税の一時停止期限となる7月9日でした。それに先立ってトランプ大統領は、アメリカから日本への自動車の輸出が少ないとして「これは公平ではない」として容易に譲歩するつもりはないという姿勢を示したほか、相互関税をめぐって「日本は30%か35%の関税、もしくはわれわれが決定する関税を支払うことになる」と発言。強まるトランプ大統領からのプレッシャーに対し、日本の政府関係者からは真意が見えにくいとする声も出ていました。その後、7月8日にはトランプ大統領は日本からの輸入品に対して8月1日から25%の関税を課すと明らかにしました。25%の関税が課される期日が8月1日に迫り、日本政府は歩み寄りの余地を探っていました。
〔有価証券報告書の開示の現状とあるべき姿に関する所見を問われ、〕開示は、堅実な実務が伴うことが大前提である。開示内容を間違えると、レピュテーションを損ね、企業価値を毀損することにもなりかねない。足もとで、本年は経団連会員企業でも、有価証券報告書を株主総会の前日ないし数日前に出すよう対応したケースが増えたと認識している。しかし、今後、サステナビリティ情報開示制度が導入される等、有価証券報告書のボリュームが大幅に増加することが想定される。こうした中、実質的に意味のある、投資家にとっても十分な分析期間を確保できる開示について、企業の自助努力だけで実現することは現実的ではない。本来の目的を達成するためには、企業、投資家、行政当局、関係機関といった各主体の横断的なコミュニケーションを行いながら、会社法と金融商品取引法の制度横断的な改革を前向きに進める必要がある。
トランプ大統領はホワイトハウスで与党・共和党の議員らとの会合に出席し「歴史上、最大の貿易合意に署名した。日本は最高のメンバーをここに送り、われわれは長く、厳しい作業を進めてきた。これはみんなにとってすばらしい取り引きとなる」と述べ、今回の合意の意義を強調しました。そしてトランプ大統領はアラスカ州におけるLNG=液化天然ガスの開発計画について、日本と合意することになると述べ、エネルギー分野での投資に期待感を示しました。トランプ政権としては日本から大規模な投資を引き出すことで関税の引き下げに応じたものとみられます。


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