
執筆:外為どっとコム総合研究所 小野 直人
執筆日時 2025年8月8日 12時20分
米FRBが利下げ急ぐか依然として不透明、ドル/円反発の期待も
米ドル/円、次の材料待ち
米ドル/円は方向性を見極めにくい展開。米国の労働市場の鈍化を示唆するデータを受け、9月FOMCでの利下げ期待が一段と高まり、上値は重いまま推移しました。ただし、高値圏で買いにくかった実需勢の買いが下値を支えたため、結局、米ドル/円は146.614円から148.087円の狭いレンジでの動きにとどまりました。
(各レート水準は執筆時点のもの)
※相場動向については、外為どっとコム総研のTEAMハロンズが配信している番組でも解説しています。
米CPIなどを通じて利下げ時期を判断
市場参加者の多くは、9月の利下げ実施や年内2回の利下げ見通しを強めています。来週発表される米国の7月の消費者物価指数(CPI)、失業保険統計、7月の小売売上高を通じて、その見通しが裏付けられるかどうかが判断されるでしょう。
CPIは、輸入の鈍化や米国内での在庫減少などにより一部で品薄感が広がっているとみられます。また、電気料金が引き上げられた州もあり、光熱費の上昇がインフレを押し上げる要因になるとの指摘があります。一方で、高額商品を控える消費行動から、インフレ上昇のペースは緩やかにとどまる見込みです。その結果、FRBの利下げ観測が急速に後退する可能性は低いでしょう。
失業保険統計は、一般の雇用統計とは逆に労働市場の底堅さを示す傾向があります。仮にその流れが変わり、失業保険データでも労働市場の弱さが確認されれば、他の成長減速を示す指標との整合性が高まり、FRBが利下げに動く余地が大きくなると考えられます。
【米労働者の増減】

出所:米労働省のデータを基に作成
外国生まれの労働者と米国生まれの労働者の増減
最新データはこちらでご確認下さい。
https://www.bls.gov/webapps/legacy/cpsatab7.htm
ただし、この見方は「労働市場の急速な鈍化」を示唆する前日の雇用データを前提にしています。雇用統計の詳細を確認すると、季節調整前の数字で、外国生まれの労働者は直近3ヵ月で104万人減少しているのに対し、米国生まれの労働者は約77万人しか増加しておらず、その差は約27万人です。安価な労働力の減少を補い切れなかった可能性が示唆され、企業が求人を出しても待遇面などを理由に応募が少ない、あるいは内定辞退が相次いだ恐れがあります。
もしこの雇用データの弱さが移民問題によるミスマッチに起因するのであれば、労働力確保のために時間給が上昇する可能性があります。そうなれば需給の引き締まりからインフレ懸念が再燃するかもしれません。この観点で見ると、仮にCPIでインフレが落ち着いた結果となっても、FRBが利下げを急ぐかどうかは依然として不透明です。
目先の米ドル/円は、9月利下げ期待を受け、上値が重い展開が続くと予想されます。ただし、米金融当局者の発言によっては市場の利下げ期待が巻き戻される可能性がある点には注意が必要です。
一目雲付近でしつこく買い(テクニカル分析)
米ドル/円は200日移動平均線を下回り、上昇の勢いが減速しています。21日移動平均線も伸びが抑制されつつあり、高値抵抗ラインは切り上がる傾向にあります。これらの点から、上方向への動きの鈍さが示唆されます。
しかし、日足の一目均衡表では三役好転が維持されており、相場の基礎的な底堅さは失われていないと考えられます。目先は雲の厚みが薄いゾーンに差し掛かるため、サポート力は十分とは言えませんが、雲上限が推移する144.80~145.30円付近まで下押しが進んだ局面では、押し目買いを検討したいと個人的に考えています。
【米ドル/円チャート 日足】

出所:外為どっとコム「TradingViewチャート」
予想レンジ:USD/JPY:144.500-149.500
8/11 週のイベント:

一言コメント
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来週の為替予想 米ドル 円
弱気地合いでの「急反発」を警戒、まずは148円の攻防、上振れすれば149円が視野に 現在のドル円(USD/JPY)は、下値を意識する状況にある。しかし、週足のローソク足では長い下ヒゲが表れ、下落相場が一服するサインが点灯している。一時的にせよ今週の米経済指標が米ドルの買い戻し要因となれば、ドル円は弱気地合いのなかの「急反発」を警戒したい。
円安の進行は輸出関連企業の収益改善につながり、特に自動車・電機・機械などの製造業では円換算での売上増加が期待される。一方で、輸入原材料に依存する製造業では、円安によるコスト上昇が収益を圧迫する可能性が高い。
現在のドル円は、下値トライの局面で特にボラティリティが拡大しやすい状況にある。昨年の9月下旬にサポート転換した142.00レベルを来週の予想レンジ下限と想定したい。再び144円を目指すサインとして、146.00と145.00の攻防に注目したい。
転換線と基準線を上方ブレイクし、ドル円が148円台へしっかりと上昇する場合は、フィボナッチ・リトレースメント61.8%の水準148.21レベルの突破が焦点となろう。
次に、「今後想定されるドル円価格シナリオを、就任日から任期終了までについて予測してください」とAIに指示したところ、基本シナリオとして強いドル・弱い円の展開が示され、政権移行期(2025年1~6月)では145~155円、政策実行初期(2025年後半~2026年)では150~165円、政策効果の本格化(2027年)では160~175円、政策定着期(2028年~2029年初)では165~180円という段階的な円安進行が予測された(図表2)。この予測には、法人税引き下げによる米国企業の収益改善、包括的関税措置の導入による輸入物価上昇、製造業の国内回帰、日米金利差の拡大などが要因として挙げられている。
一方、予想変動率は上昇している。1週間のそれは、米大統領選挙が行われた昨年11月の水準まで上昇している(4日時点で16%台)。来週もドル円(USD/JPY)は下値を意識する状況が続こう。
ブルームバーグがまとめた市場予想によれば、3月CPIは前月比のコアを除きインフレが鈍化の予想にある。問題はPPIである。3月は前月比と前年同月比でともにインフレの粘着性が示される可能性がある。インフレの再燃は米金利の上昇要因だが、現在は景気不安の方が強く意識されている。3月のインフレ指標が上振れて「米金利の反発→米ドルの買い戻し」となっても、一過性の動きで終わる展開を想定したい。米ドルの買い戻し局面では、戻り高値の水準を見極めることがドル円の焦点となろう。
円高シナリオでは、政治的混乱による市場パニックや米国債市場での売り圧力から政権移行期で120~130円まで進行し、世界貿易の縮小や米国債格付け引き下げにより2029年初には90~105円に達すると予測。一方、超円安シナリオでは、極端な保護主義政策期待や日銀の金融緩和維持により政権移行期で160~180円まで進行し、対日貿易制裁や日本からの資本逃避を経て、2029年初には金融システムへの信認崩壊により250円以上も視野に入るとの分析が示された。
一方、インフレ指標が予想以上に下振れる場合は、米ドル安の要因となろう。このケースでは、日米利回り格差の縮小とドル円の下値トライを意識したい。
さらに、AIに「想定外シナリオについて就任日から任期終了までの予測を示してください」と指示したところ、AIは2つの極端なケースを提示した(図表3)。1つは「急激な円高シナリオ」で、米国の政治・経済の不安定化によるドル売りとリスク回避の円買いが同時進行するケースである。もう1つは「超円安シナリオ」で、市場の過剰反応による円売りの加速や日米の金融政策の乖離拡大が要因となるケースである。
なお、日本円以上に選好されているのがスイスフランである。月初来で日本円はスイスフランで下落している。4日時点でスイスフランがG10通貨のなかで最も選好されている。
金融政策面では、急激な円安進行時に日銀が利上げし、住宅ローン金利の上昇など家計の負担増加につながる可能性がある。また、米中対立の激化は日本企業のサプライチェーンに混乱をもたらすおそれがあり、特に中国に生産拠点や市場をもつ企業では、事業戦略の見直しを迫られるのではないか。地域経済への影響も無視できず、輸出産業が集積する地域では雇用・所得の改善が期待される一方、内需依存型の地域では物価上昇による消費低迷が懸念される。
日足のMACDとモメンタムのトレンド、そして一目均衡表が「三役逆転」の状況にあることもドル円の地合い弱さを示唆している。
第三に、想定外シナリオについては、AIが極端な市場変動の可能性を示唆している点が注目される。特に円高・超円安の両極端なシナリオを提示したのは、現在の国際金融市場が抱える構造的な脆弱性をAIが認識しているためだろう。
昨年9月16日の安値と今年1月10日高値のフィボナッチ・リトレースメント76.4%の水準144.13レベルを完全に下方ブレイクする場合は、142円台を視野に下落幅が拡大するサインとして警戒したい。


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