
ドル/円の9月見通し 「米利下げは織り込み済み 本邦の政治情勢にも注目」
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト 神田卓也
ドル/円 の基調と予想レンジ
基調
横ばい
予想レンジ
145.000~151.000円
ドル/円8月の推移
8月のドル/円相場は146.211~150.917円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約2.5%下落した(ドル安・円高)。1日に発表された米7月雇用統計は非農業部門雇用者数が市場予想を下回った上に、前2か月分が大幅に下方修正された。これを受けて9月の利下げ観測が高まると、この日だけで150.90円台から147.20円台へ最大3.5円超下落した。ただ、9月の利下げを完全に織り込んだことでその後のドル安余地は限定的だった。12日の米7月消費者物価指数(CPI)にトランプ関税の影響が見られなかったとして9月の利下げ幅が通常の25bp(0.25%ポイント)ではなく50bpになるとの思惑が一部に浮上。14日には146.21円前後まで下落する場面もあったが、米7月生産者物価指数(PPI)が上振れすると下げ止まった。もっとも、ドルの上値も重く、その後の戻りは148円台後半までにとどまった。22日のジャクソンホール会議においてパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が9月利下げに慎重な姿勢を示すとの思惑から148.77円前後まで強含んだが、議長が労働市場の下振れリスクを強調したことで失速。その後月末にかけても、トランプ米大統領がFRB人事に介入したことなどから148円台では上値が重かった一方で、146円台では下げ渋る動きとなり、147.04円前後で8月の取引を終えた。
ドル/円 日足チャート

ドル/円8月の四本値
始値 150.687 高値 150.917 安値 146.211 終値 147.036
1日
米7月雇用統計は非農業部門雇用者数が7.3万人増と市場予想(10.4万人増)を下回り、失業率は予想通りに4.2%へ上昇した(前回4.1%)。非農業部門雇用者数は5月と6月分が合計で25.8万人に上る大幅な下方修正となり、その結果3カ月平均の増加幅はわずか3.5万人に縮小した。そのほか、労働参加率は62.2%(予想、前月ともに62.3%)、平均時給は前年比+3.9%(予想、前月ともに3.8%)だった。米7月ISM製造業景況指数は48.0と市場予想(49.5)に反して前月(49.0)から低下。構成指数の仕入価格や新規受注、雇用などが軒並み前月から低下した。
5日
米7月ISM非製造業景況指数は50.1と市場予想(51.5)に反して前月(50.8)から低下。構成指数では、関税の影響から仕入れ価格が2022年10月以来の水準へ上昇した一方で、新規受注や雇用は前月から悪化した。
7日
一部報道で「FRBのウォラー理事はトランプ大統領の側近チームと面談し、同氏が次期FRB議長の最有力候補として浮上した」と伝わった。また、トランプ米大統領は8日付で辞任するクーグラーFRB理事の後任に、2026年1月31日までの暫定理事として、自身の側近であるミラン米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を指名すると公表した。
12日
米7月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.2%、前年比+2.7%となり、前年比で予想(+2.8%)を下回った。一方、食品とエネルギーを除いたコアCPIは前月比+0.3%、前年比+3.1%となり、前年比で予想(+3.0%)以上に前月(+2.9%)から伸びが加速した。コアCPIの伸びはサービス価格の上昇によるものが大きく、関税の影響を受けやすい財価格の伸びは比較的緩やかだった。カンザスシティ連銀のシュミッド総裁は、「経済の勢いが持続し、企業の楽観的な見方が強まり、インフレが当局の目標を上回る水準に止まる中では、緩やかな引き締め状態にある金融政策スタンスを当面維持するのが適切だ」との見解を示した。
13日
ベッセント米財務長官は「FRBは6月か7月に利下げ出来た」「9月に50bpの利下げが可能だろう」とし、「金利は150~175bp低くあるべきだ」との見解を示した。また、日本については「日本はインフレ問題を抑制する必要がある」と語り、植田日銀総裁と話したことを明らかにした上で、「私見だが、日銀は後手に回っており、利上げするだろう」と述べた。
14日
米7月生産者物価指数は(PPI)は前年比+3.3%と市場予想(+2.5%)を大幅に上回った。食品とエネルギーを除いたコアPPIも前年比+3.7%と予想(+3.0%)を上回り、関税政策による輸入コストの上昇を米企業が価格に転嫁しつつあること示唆する結果となった。
15日
米7月小売売上高は前月比+0.5%と市場予想(+0.6%)を下回ったものの、6月分が+0.6%から+0.9%へと上方修正。自動車を除いた売上高は前月比+0.3%と予想通りだったが、同様に6月分が+0.5%から+0.8%へと上昇修正された。なお、GDPの算出に用いられるコア小売売上高(コントロールグループ)は前月比+0.5%と市場予想(+0.4%)を上回り、こちらも6月分が+0.5%から+0.8%に上方修正された。
19日
格付け会社S&Pグローバル・レーティングは、米国のソブリン格付けを「AA+/A-1+」に据え置き、見通しを「安定的」とした。声明では「関税による税収が、減税政策による財政への打撃を和らげる可能性がある」とした一方で、「財政状況は依然として米国債格付けにおける主要な弱点だ」と指摘した。
20日
FRBは7月29-30日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公表。「ほぼ全員の参加者が金利据え置きを適切と判断した」とし、「参加者の大多数は、インフレ上振れリスクの方が雇用軟化リスクよりも大きいと認識」していたことが明らかになった。また関税引き上げの影響については「依然として相当の不確実性が残っている」とし、「影響が出るまである程度の時間がかかる可能性がある」と指摘した。
22日
パウエルFRB議長はジャクソンホール会合で講演を行い、労働市場の下振れリスクを指摘した上で、「リスクバランスの変化が政策調整を正当化する可能性がある」との見解を示し、9月利下げの可能性を否定しなかった。一方で「関税は長期的なインフレを誘発する可能性がある」と指摘。「インフレリスクは上振れ傾向、雇用は下振れ傾向」と述べて、「金融政策には決められたコースはない」と慎重な姿勢は維持した。
26日
トランプ米大統領は、住宅ローン申請書類を巡る不正疑惑を理由に、クックFRB理事を即時解任すると表明。これに対し、クック理事は「辞任しない」と明言。「法的に何の理由もないのに私を『正当な理由』で解雇しようとしたが、トランプ氏にはそうする権限はない」と述べた。
27日
米NY連銀のウィリアムズ総裁は、成長鈍化に懸念を示した上で、労働市場については「4.2%の失業率は歴史的にもとても低い」としつつも「雇用の勢いは確実に鈍化している」と指摘。「雇用とインフレのリスクは一段と均衡してきている」との認識を示した。その上で、自身にとって「毎会合が『ライブ』だ」と述べて9月利下げの可能性を否定しなかった。
29日
米7月個人消費支出(PCE)は前月比+0.5%と市場予想に一致。同PCE物価指数(デフレーター)も前年比+2.6%と予想通りで、伸び率は前月と同じだった。食品とエネルギーを除いたコアPCEデフレーターは前年比+2.9%と予想通りながらも5カ月ぶりの高い伸びとなった。
各市場 8月の推移

9月の日・米注目イベント

ドル/円の9月見通し
8月1日に発表された米7月雇用統計において非農業部門雇用者数は7.3万人増にとどまった。さらには過去2カ月分の大幅な下方修正によって3カ月平均の増加幅はわずか3.5万人へと急激に縮小した。これはコロナ禍で一時的に雇用者が減少していた2020年以来の低い伸びである。米労働市場は従来の見立て以上に冷え込んでいるとの観測が広がる中、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ再開が早まるとの見方が浮上。4割前後だった米金利先物の9月利下げの織り込みは8割超へと急上昇している。こうした中、8月のドルは大きく下落して取引が始まっており、目先は上値の重い展開が続く可能性があろう。ただ、7月の連邦公開市場員会(FOMC)後の会見でパウエルFRB議長は「現在見るべき最も重要な指標は失業率」だと明言しており、その失業率は7月も4.2%にとどまった。FRBの年末予測である4.5%も大きく下回っている。この点から見ると、足元の市場の利下げ織り込みはやや過剰と言えるだろう。なお、8月12日に発表される米7月消費者物価指数(CPI)はトランプ関税の影響などからさらに加速すると予想されている。7月雇用統計を受けて高まった9月利下げ観測が7月CPIで再び萎むことも十分に考えられよう。8月は、21日から23日にかけて米ワイオミング州の避暑地ジャクソンホールで行われる国際シンポジウム「ジャクソンホール会議」にも注目だ。もしFRBが9月利下げを検討しているのであれば、7月FOMCで示した利下げ再開に慎重な姿勢を修正するために、利下げに前向きなメッセージを発信する必要があろう。パウエルFRB議長が不参加のケースも含めて(参加・登壇するかは未だ不明)、仮にそうした発言がなければ9月利下げの可能性は大きく低下することになるだろう。 円については日銀の利上げ期待がきわめて低い(9月利上げの織り込みは10%未満)点や、自民党を中心に政治・政局を巡る不透明感が強い点から軟調地合いが続くと見ている。したがって、8月のドル/円相場は底堅い推移を見込むが、1日(米7月雇用統計の前)に付けた150.92円前後の高値を超えるかどうかはドルの強さが復活するかどうかにかかっていると見る。
株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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ユーロはドルに対して 1ユーロ=1.1684~86ドルでした
●米雇用統計は労働市場の減速を示唆、米金融市場は株安、米長期金利低下、ドル安で反応。●ここからの金融市場は、9月の米利下げを織り込みつつ、米経済の先行きを慎重に見守る展開か。●米雇用や物価関連の指標の見極めは必要だが市場全体がパニックに至る恐れは小さいと考える。
8月1日に発表された米7月雇用統計において非農業部門雇用者数は7.3万人増にとどまった。さらには過去2カ月分の大幅な下方修正によって3カ月平均の増加幅はわずか3.5万人へと急激に縮小した。これはコロナ禍で一時的に雇用者が減少していた2020年以来の低い伸びである。米労働市場は従来の見立て以上に冷え込んでいるとの観測が広がる中、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ再開が早まるとの見方が浮上。4割前後だった米金利先物の9月利下げの織り込みは8割超へと急上昇している。こうした中、8月のドルは大きく下落して取引が始まっており、目先は上値の重い展開が続く可能性があろう。ただ、7月の連邦公開市場員会(FOMC)後の会見でパウエルFRB議長は「現在見るべき最も重要な指標は失業率」だと明言しており、その失業率は7月も4.2%にとどまった。FRBの年末予測である4.5%も大きく下回っている。この点から見ると、足元の市場の利下げ織り込みはやや過剰と言えるだろう。なお、8月12日に発表される米7月消費者物価指数(CPI)はトランプ関税の影響などからさらに加速すると予想されている。7月雇用統計を受けて高まった9月利下げ観測が7月CPIで再び萎むことも十分に考えられよう。8月は、21日から23日にかけて米ワイオミング州の避暑地ジャクソンホールで行われる国際シンポジウム「ジャクソンホール会議」にも注目だ。もしFRBが9月利下げを検討しているのであれば、7月FOMCで示した利下げ再開に慎重な姿勢を修正するために、利下げに前向きなメッセージを発信する必要があろう。パウエルFRB議長が不参加のケースも含めて(参加・登壇するかは未だ不明)、仮にそうした発言がなければ9月利下げの可能性は大きく低下することになるだろう。 円については日銀の利上げ期待がきわめて低い(9月利上げの織り込みは10%未満)点や、自民党を中心に政治・政局を巡る不透明感が強い点から軟調地合いが続くと見ている。したがって、8月のドル/円相場は底堅い推移を見込むが、1日(米7月雇用統計の前)に付けた150.92円前後の高値を超えるかどうかはドルの強さが復活するかどうかにかかっていると見る。
14日午後5時時点の円相場は、先週末と比べて52銭円安ドル高の1ドル=147円37~38銭でした。また、ユーロに対しては、53銭円安ユーロ高の1ユーロ=172円19~23銭でした。ユーロはドルに対して、1ユーロ=1.1684~86ドルでした。市場関係者は「トランプ大統領が来月1日から、EU=ヨーロッパ連合とメキシコからの輸入品に、30%の関税を課すと明らかにしたことで、投資家の間では、アメリカ国内でインフレが再加速することへの警戒感が強まっている。その結果、FRBが、ことし9月の会合で利下げをするという観測が後退している」と話しています。
週明けの14日の東京外国為替市場、トランプ政権の関税政策によってアメリカでインフレが進むという見方から、FRB=連邦準備制度理事会が早い時期に利下げするという観測が後退し、ドルを買って円を売る動きが広がって、円相場は値下がりしました。
仮にアメリカが利下げし、間髪入れずに日銀が利上げした場合、その瞬間的に多少の円高になる可能性はありますが、日銀の利上げは何度もできるものではありません。一度利上げすれば、半年近くは次の利上げが難しくなり、その後の利上げのハードルも上がっていきます。日本の潜在成長率が低い現状を踏まえると、なおさらです。
もう1点は、アメリカが利下げした場合、為替を通じて日本株や銀行にどのような影響が出るかについてです。一般的には、アメリカの利下げはドル安の要因となり、それをきっかけに円高が進むのではと言われていますが、私は以前から「そうはならない」と言い続けています。
これを受け、同日の米金融市場では米経済の先行き懸念が強まり、ダウ工業株30種平均などの主要株価指数が下落、大型ハイテク株も軒並み値を下げる展開となりました(図表2)。フェデラルファンド(FF)金利先物市場では、9月の利下げ確率が上昇し、米国債利回りは2年から30年の各期間でそろって低下、米ドルが対主要通貨で減価するなか、ドル円は一時1ドル=147円30銭水準までドル安・円高が進行しました。
S&P500の動きは、構成銘柄が30銘柄しかないダウ平均だけでは全体像が掴めません。800ドル上昇して史上最高値を更新したことは理解できましたが、それはさておき、S&P500はアメリカ株全体の動きを示す指標ですが、ナスダックはハイテク株が中心で、現在のアメリカ市場を牽引する銘柄が強い傾向にあります。


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