仮称「上毛高原」駅 変更しない訳

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仮称「上毛高原」駅 変更しない訳
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実際 仮称が観光面でプラスに働く例は少なくない

駅名の上毛高原とは実在しない地名。建設当時は月夜野という地名から「月夜野」、 みなかみ町を中心とする観光地の名称「奥利根」などの案が検討されたが、当駅は県北観光地の玄関口の機能を持ち、その範囲は日光、尾瀬、沼田、谷川、四万、草津まで及ぶことから、その広域性を意味する「上毛高原」を採用したという。仮称の駅名が採用されてから40年たった今も、変わらずそのままである。

1982(昭和57)年、上越新幹線の開通と同時に開業した上毛高原駅(群馬県みなかみ町)は、在来線との接続がない新幹線単独の駅として現在まで「秘境駅」として知られている。駅周辺は大きな開発が進んだとはいえず、40年経った今も山林の趣を残している。 【画像】「えぇぇぇ!」 これが50年前の「上毛高原駅」周辺です! 画像で見る(計7枚) 実はこの駅名、開業前に設定された仮称で、もともと 「実在しない地名」 だった。駅が所在する月夜野町は2005(平成17)年の合併でみなかみ町に組み込まれた。地元では「存在しない地名のまま」は観光上マイナスになるとして、過去に駅名変更を検討した経緯がある。 比較的最近では、町商工会と観光協会が町議会に駅名変更を請願し、2020年12月10日に全会一致で採択された。その後2021年4月から署名運動を開始し、署名数は1万7702人に達した。町の人口約1万5000人を上回る規模である。 変更後の具体案は公表されていないが、旧月夜野町がみなかみ町の一部になったことから、駅名に「水上」を含める案が有力とされる。しかしその後、具体的な動きは確認されていない。駅名変更にともなう費用は億単位とされ、地元が負担しない限りJR側も積極的には動かない状況だ。

筆者(菅原康晴、フリーライター)は、「実在しない地名」が観光上マイナスになるという意見にやや懐疑的である。実際、仮称が観光面でプラスに働く例は少なくない。 代表例として石川県の加賀温泉駅(加賀市)がある。1970(昭和45)年、国鉄は粟津、片山津、山代、山中の四つの温泉への玄関口として駅を開業した。駅名や位置は当時、さまざまな議論があり、妥協の産物といえる。 周辺の四つの温泉は総称で加賀温泉郷と呼ばれることもあるが、加賀温泉という温泉は存在せず、駅前に温泉街特有の街並みもない。駅前からは各温泉行きの路線バスや送迎バスが頻繁に発着している。 駅前の景観は温泉街を期待する人にはやや肩すかしだ。しかし、四つの温泉を1駅に集約したことで拠点性が高まり、結果的に観光面でプラスに働いたことは間違いない。2024年の北陸新幹線敦賀延伸時にも、新幹線駅は同名で設置され、駅名は変更されなかった。 「高原」という言葉は本来、自然の地形を指すが、多くの場合、爽やかでプラスの印象を与える。1961年、伊豆急行線の開通にともない開業した伊豆高原駅は、こうしたイメージを先取りした駅といえる。 「伊豆高原」という地名は実在しないが、駅は周辺の観光地や別荘地への玄関口として整備された。現在では沿線でも拠点駅のひとつとして機能している。ただし同駅は、鉄道事業者が国鉄やJRではなく東京の大手私鉄であることや、大規模な別荘地開発が事業利益に直結する特殊事情がある。そのため、「高原」を冠する実在しない地名でも、上毛高原駅とは区別されるべきである。 とはいえ、高原を含む実在しない地名を事業主体が戦略的に活用した例であることは明らかだ。

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