
本日のロンドン為替市場では、約4年ぶりのユーロ高ドル安が進行している状況に対し、欧州金融当局者がどのような見解を示すかが注目される。ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁は第10回ECB年次研究会議(テーマは「次なる金融危機は来るのか?」)で、16時30分から開会挨拶をする。他、複数名のECB理事会メンバーが講演予定。
ユーロドルは昨日、1.1878ドルと2021年9月以来の高値を記録した。米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果公表を控え、強まる米金利先安観がドル売りを促している。またユーロクロスの上昇からも、ECB緩和サイクルの終了を意識したユーロ買いも断続的に出ていたようだ。
ECB自体が行き過ぎたユーロ高に対処できる方法は少ないものの、現状の為替水準を金融当局者がどのように捉えているかは興味深い。近づいてきたユーロドルの節目1.20ドルについてのコメントが注目される。なお7月初旬に1.18ドル台に乗せた局面では、デギンドスECB副総裁が「1.20ドルでも無視できるが、それ以上になると複雑になる」と発言していた。
ユーロ圏の経済指標は、8月消費者物価指数(HICP)が発表されるものの、こちらは改定値。市場予想の前年比2.1%/コア2.3%に沿った結果が見込まれる。速報値ではヘッドラインは予想より0.1ポイント加速しており、インフレの底打ち感を確認することになりそうだ。
他、日本時間15時に8月英消費者物価指数(CPI)が発表予定。本日は、英中銀金融政策委員会(MPC)が政策金利の投票を行う(結果公表は明日)。インフレの高止まりはほぼ確実視されている中、予想(前年比3.8%)より上振れた場合はMPC内でタカ派が勢力を強めるだろう。そうなるとポンドの上値余地が広がることになりそうだ。
想定レンジ上限
・ユーロドル、ピボット・レジスタンス1の1.1911ドル
・ポンドドル、ピボット・レジスタンス2の1.3713ドル
想定レンジ下限
・ユーロドル、ピボット・サポート1の1.1790ドル
・ポンドドル、ピボット・サポート2の1.3565ドル
(小針)
・提供 DZHフィナンシャルリサーチ
シムカス氏は「インフレの見通しは依然として脆弱(ぜいじゃく)だ
イタリア政府から提出された予算案について、10月18日に欧州委員会のドムブロフスキス副委員長とモスコビシ委員(経済・財務・税制担当)は連名で、EU首脳会議において7月13日に採択された勧告における目標から明らかに著しく逸脱し、かつ、その逸脱の規模が前例のない大きさであることから、加盟国の財政規律を定めた安定成長協定に基づく義務に「特に深刻な財政規律違反」であることを指摘する書簡をトリア経済財政相に対して手交した。書簡においては、勧告では財政支出の伸び率が0.1%を超えないようにすべき112、とされたのに対し、予算案では2.7%の上昇と勧告内容を大幅に超過していることに加え、構造的財政赤字を対GDP比で前年から0.6%削減すべきとされたのに対し、逆に0.8%増加させるなど、対GDP比130%を超える債務残高を安定成長協定で義務付けられた基準である60%に向けて削減する内容となっていないこと、を指摘している。さらに、経済見通しがイタリア議会予算局の承認を得られていないことも問題点の一つとして挙げた。その上でイタリア政府に対し、このような計画を策定した理由につき、10月22日正午までに説明を求めた。
コンテ伊首相は、イタリア議会における19年度予算案採決に先立ち、12月13~14日に開催されたEU首脳会議において、19年の財政収支赤字対GDP比を2.04%、19年の実質経済成長率見通しを1.0%120に引き下げる案を提案し、19日になってEU加盟国及び欧州委員会と合意し(表5)、過剰財政赤字是正手続の開始は回避された。
シムカス氏は「インフレの見通しは依然として脆弱(ぜいじゃく)だ。われわれの予測の前提が本当にその通りに実現するかどうかは確信が持てない」と、ポルトガルのシントラで開催されているECBの中銀フォーラムの合間に語った。
コア消費者物価上昇率は2%前後で安定的に推移している(第2-4-48図)。これは、輸入物価や生産者投入価格といった川上の物価上昇率が、15年末以降の大幅なポンド減価の影響のはく落や18年10月以降の原油価格の下落を受け、低下していることに加え、サービス業を中心とした企業間の価格競争の激化により、川下への価格転嫁が困難となっていることが寄与している(第2-4-49図)。消費者物価上昇率(総合)は、17年11月に前年同期比3.1%とピークを打った後、徐々に低下し、19年1月にはBOEのインフレ目標(2%)を下回った(第2-4-48図)。こうした状況を踏まえ、19年2月、BOEは19年の消費者物価上昇率(総合)はおおむね2%をやや下回る水準で推移すると見通しを下方改定した。
以上のとおり、ECBは資産購入プログラムを終了させたものの、消費者物価指数(HICP)前年比を、中期的に2%を下回りかつ2%近傍とするという目標に収束させるためには、引き続き緩和的な金融政策を維持する必要があるとしている。資産購入終了後も長期にわたり償還元本を全額再投資するとともに保有残高を12月末時点の水準で維持することに加え、主要政策金利を少なくとも19年夏までは据え置くとするなど、本格的な金融引締め段階には至っていない22。ユーロ圏では雇用情勢の改善が続く中で賃金上昇圧力が徐々に高まる23一方(前掲第2-4-4図)、景気の回復ペースは18年後半以降更に緩やかになっている。ECBが19年1月の政策理事会において判断を変更したとおり、成長見通しに関する下方リスクは19年に入って一層高まっていることから、金融政策の正常化に向け、舵取りが極めて難しい局面を迎えている。
EU加盟国は、「欧州セメスター」25において、財政の健全性確保やマクロ経済不均衡の是正等に向けた取組について3年間の財政計画である「安定化プログラム26」と雇用と成長を促進するための構造改革計画である「国家改革プログラム」を欧州委員会に提出することとされており、これらに対するEU首脳会議の勧告27に基づいて予算案を作成することとされている。しかし、18年末の19年度予算案の各国議会における採択に向けたプロセスを進める中で、幾つかの国28で6月のEU首脳会議において承認された予算の枠組みを超えて財政拡張的な予算編成を行う動きが生じている。秋季見通しの変更はこうした動きを反映している。特にイタリアでは、6月に新たに樹立された連立政権の下、拡張的な19年度予算案を欧州委員会に提出したため、欧州委員会との間で対立が生じている29。
ところが、特に5月以降、米独金利差ユーロ劣位は縮小に向かい、その中で為替相場もユーロ高・米ドル安へ反転となった(図表1参照)。なぜ、ECBがFRBより早く利下げを開始する見通しとなっている中で、金利差ユーロ劣位縮小、ユーロ高・米ドル安となったのか。
ユーロ圏の一般政府財政収支対GDP比は、09~13年平均の-4.7%から17年には-1.0%にまで縮小した。先行きについて、欧州委員会の春季見通し(18年5月)の段階では、景気の緩やかな回復や低金利等を背景に財政赤字は19年に向けて今後も徐々に縮小していくとされていた。しかしながら、同秋季見通し(18年11月)では、19年の財政赤字は一旦拡大し、20年に縮小に転ずると変更された24(第2-4-25表)。
EU加盟国は安定成長協定により、一般政府財政赤字と債務残高のGDP比を規定の範囲内に抑えることが求められており32、現時点では、スペインが過剰財政赤字是正手続の適用国として欧州委員会の監視対象となっている(第2-4-26図、第2-4-27図)33。イタリアについては、過剰財政赤字是正手続の適用を回避するために、イタリア政府と欧州委員会との間で調整が続けられた。最終的に12月下旬に財政赤字対GDP比を当初の2.4%から2.04%にまで削減することで合意され、瀬戸際で制裁の適用は回避された。しかしながら、18年7~9月期、10~12月期の実質経済成長率が2期連続マイナス成長となったことに加え、19年1月にはイタリア中央銀行が19年の実質経済成長率見通しを1%から0.6%に下方改定するなど、EUと合意した時点に比べ、景気の減速傾向がより鮮明となっている。このため、実際に19年の財政赤字がGDP比2.04%内という目標の達成に関し不確実性が高まっている。フランスも、反政権デモが19年2月19日時点で連続14週にわたり実施され、19年1~3月期も前期に続き消費や投資が下押しされるものと見込まれるため、財政赤字も18年12月時点の見込み以上に拡大するおそれがある。
11月13日に欧州委員会へイタリア政府が再提出した19年度予算案は、経済成長見通しや財政収支赤字をはじめ、鍵となる数字は一切変更されておらず、19年までにGDPの1%相当の国有資産を民営化することによる一時的な収入により公的債務を削減するとの見通しが示されたのみだった。
この結果、12月19日にイタリア政府とEU加盟国及び欧州委員会との間で19年度の財政赤字GDP比2.04%、19年の実質経済成長率見通しを1.0%に引き下げることで合意65し、過剰財政赤字是正手続(EDP)の開始は回避された。ただし、欧州委員会は、財政赤字比率を同目標以内に収めるべく必要な措置が実際に講じられるか引き続き監視する必要があるとしている。
このようなガイダンス変更の背景には、成長見通しに関するリスクは依然としておおむね均衡しているとの判断は引き続き堅持しつつも、保護主義の脅威、新興国市場のぜい弱性、金融市場の不安定性といったリスクが高まっていることを踏まえ、リスクのバランスは下方に向かいつつあると判断したこと20がある。12月の政策理事会と同日に公表された経済見通しは、18年9月時点の見通しに引き続き下方改定された。実質経済成長率の見通しを18年1.9%、19年1.7%と各々0.1%ポイント引き下げるとともに、消費者物価上昇率についても、総合指数はエネルギー価格の下落に伴い向う数か月は下落するとして、19年の見通しを1.7%から1.6%へ引き下げた。また、コア物価上昇率に関しては、18年はおおむね横ばいで推移したものの、中期的には高水準の稼働率や労働市場のひっ迫に伴う賃金上昇圧力によりインフレ圧力が広範囲において高まることから、次第に上昇していくことが見込まれるとされた。
9月の金融政策委員会では、新興市場国通貨の下落や米中貿易摩擦の高まりによる景気の下押しリスクについて初めて具体的な言及がなされた。続く11月公表のインフレーションレポートでは、世界経済成長率の鈍化やユーロ圏経済の減速、景気の下方リスクの高まり等に言及する一方で、円滑なEU離脱となった場合には、不確実性が解消されることに伴う設備投資をはじめとした需要の回復により、インフレ圧力が高まることが見込まれるため、3年後の政策金利を従来見通しの1.25%から1.50%49に引き上げる必要があるとした。さらに、EU離脱の方向性によっては引締め・緩和のいずれもあり得ることに言及した。
19年2月のインフレーションレポートでは、19年の経済成長見通しを1.7%(18年11月時点)から大幅に下方改定し、BOEが潜在成長率とする1.5%52を下回る1.2%とされた53。こうしたことから、市場が織り込む政策金利の動向についても、18年11月時点では22年半ばまでの予測期間中に3回程度となっていた金利の引上げ回数が1回程度となった。一方で、今後のEU離脱プロセス、特に離脱後に交渉が行われるEUとの間の新たな貿易関係の内容や移行期間の有無、家計や企業の反応により見通しは大きく影響を受け得るため、BOEは状況に応じ柔軟に対応する54としている。
国際機関による経済見通しは、公表元は異なるものの、各種指標の弱い動きを受けて時間を経るに従い大幅に下方改定されている(第2-4-58表)。このような改定の背景として、ユーロ圏、英国いずれについても、(1)英国のEU離脱問題等政治的不確実性の高まりや(2)通商問題をめぐる緊張の高まりや中国経済の減速等による外需の伸びの鈍化66、(3)景気減速に伴う企業及び消費者マインドの一層の悪化が挙げられており、これらの動向によっては景気が更に下振れするリスクがある。特に、英国のEU離脱がEUとの合意がないまま行われた場合には、英国のみならずユーロ圏も景気が大幅に悪化するおそれがある。



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