備蓄米効果が息切れ コメ再び高騰
三菱総合研究所の稲垣公雄研究理事は、農林水産省が先週発表したコメの流通円滑化に向けた改善策について「とにかく備蓄米を早く出せというのが今回の農水省の方針かと思うので、ここから先はスピードアップして備蓄米が出てくることが期待できる。流通過程において、スムーズに備蓄米が出てくるようになれば、さすがに価格は落ち着いてくると考えていいのではないか」と話しています。その上で、今後の価格の見通しについては、高止まりする場合と、下落に転じる場合の2つのシナリオがあるとしています。まず、価格が高止まりする場合については「備蓄米はどんどん売れるけど、在庫として持っている高く仕入れたコメもそれなりにまだ売れるよねという状態であれば、価格はそこまで下がらない。何か月経っても在庫として持っているコメがまだ十分売れるという見通しならば値段は下がらないと思う」と話しています。一方で、下落に転じる場合については「今後、備蓄米がすごくたくさん出る状態になったとすると、通常の銘柄米が売れなくなった時に、事業者が下げてでも売ろうと判断すれば、全体がもっと下がってくる状態になる。また8月9月ぐらいにことしの作況が出てきて、十分にコメがとれているみたいだぞとなったら、すこし高めで買ってしまったコメを安く売らないといけないという動きが出てくる可能性がある」と指摘しています。さらに、新米が流通するようになれば今の高値が落ち着くのか聞いたところ「ことしの新米について100以上の作況指数がきちんと出ることが最も重要だ。ただ、JAが農家に前払いする概算金が高くなっているので、秋から出てくる新米の価格も最初は高い値付けにならざるを得ないところがあると思う。コメが足りないというひっ迫感があって、皆さんが買い回ると、価格がどんどん上がる状況なので、コメが十分あるという認識が広まるまで、沈静化するのはなかなか難しいと考えざるをえない」と指摘しています。その上で、消費者に対しては「なんとなくコメが足りないかもしれないし、少し安めに見えるときは買っておこうと、買い足されているかもしれないが、少なくとも備蓄米で一定程度の安定効果が出てくると考えると、慌てて買うことはしなくてもよいのではないか」と話しています。
ただ、備蓄米の流通には時間がかかっており、今のところ価格下落効果はみられていない。備蓄米全体の94%にあたる約20万トンを落札した全国農業協同組合連合会(JA全農)が卸売業者に出荷したのは、24日時点で24%(4万7000トン)にとどまった。全量を売り渡すのは早くても6月以降になる見通しだ。
全国有数のコメどころ山形県庄内地方の集荷業者には、田植えが始まったばかりのことし(令和7年)産のコメを確保しようと注文が殺到しています。山形県鶴岡市の齋藤弘之さんは、集荷業者として地元の農家からコメを集めて首都圏などに販売しています。新米の注文は、例年夏から秋にかけて多くなる傾向にありますが、齋藤さんによりますと、ことしはすでに2月ごろから問い合わせが入り始め、中には一度に300トン程度を求めてくる業者もいるということです。これまで取り引きのなかった新規の会社も含め、全国のコメ販売店や商社、卸売業者から注文が殺到していて、その数は、例年の2倍ほどにのぼっているということです。ただ齋藤さんはことしのコメのできばえがわからないことに加え、集荷業者を経由せず消費者に直接販売する農家も増えていることから、必要な量を確保できる見通しがたっていないとして、ほとんどの注文を断っているということです。
2024年5月時点で5kgあたり2,100円前後だったコメの価格は、同年8月には2,600円を超え、2025年春には4,000円を上回るようになりました。価格が下がる気配はなく、2025年6月時点でも高止まりが続いています。
農林水産省は10月30日、品薄の原因分析と対策、今後の見通しを発表。しかし、備蓄米放出などについては言及せず、25年夏の品薄を予感させる数値を示した。こうした不安感がコメの争奪戦をさらに過熱させ、24年末からの価格急騰につながった。
コメ争奪戦が過熱すれば、JAを通じた販売は相対的に安値になりがちだ。このため、農家がJAを通じた販売を減らすか増やすかも重要な鍵を握る。JAを通さない方が高く売れる可能性があるが、JAは協同組合なので集荷率が下がれば、中長期的にみれば農家の価格交渉力も低下につながる恐れがある。大規模農家が企業と互角に交渉で渡り合えるのは、JAの集荷力が背景にある場合も少なくない。企業からみればJAが衰退するほど安くコメを調達できるだろう。
農水省が指摘する「流通の目詰まり」については、卸売業者が在庫を確保しようとする可能性がないとはいえないが、考えにくい。JA全農が卸売業者に出荷する際に価格をつり上げていると批判されるが、JAは交渉力が弱い農家を支援し、コメ作りを続けられる価格を維持する役割を担っているのも確かだ。
こうした中、トランプ関税への交渉カードとしてコメの市場開放が進むのではとの観測も出てきています。また、メディアもコメの輸入増加を見越し外国産米の食味をさかんに特集し始めています。コメの輸入拡大は、阻止したい生産者と米価引き下げを期待する消費者の分断につながりかねない機微なテーマであり反対論も多く、報道も錯そうしています。
次に、備蓄米をJAに売ったことです。昔の食管制度のときは、政府はJAから米を買い入れて卸売業者に売っていました。今回の備蓄米はJAから政府が買い入れたものを卸売業者に売ればいいのに、わざわざJAに売り戻しているんです。これでは流通に時間や手間暇がかかり消費者に届くのが遅くなるのは当たり前です。JAからまた卸売業者を経由しなければならず、ワンテンポ遅れます。しかも特別パッケージ仕様にする必要があるようで、1カ月経っても消費者には2%ぐらいしか届いていない。
専門家「この先スピードアップで備蓄米出ること期待できる」
さらに、備蓄米はJA全農などから玄米の状態で引き受けた卸売業者が精米して流通する。トラックの手配や精米、通常のコメと分けた袋詰めなど、追加の作業が発生して想定以上に時間がかかっているとみられる。
政府が放出した備蓄米の流通も遅れている。山下氏は「5キロ3400円程度にまでは下がるだろうが、以前のような2千円台前半は厳しいだろう」と指摘。家計の厳しさは当面続きそうだ。
例年、主食用米の8割弱が1等米だが、2023年は6割程度しかなかった。そのため、24年産を「先食い」して高騰が進んだということはあっただろう。単純に「コメの収穫量が減ったから」という原因だけではなかったことが、より混乱を与える結果になったのではないか。
消費者からの引き合いが強まっているとして、主食用のコメの大幅な増産を決めた農家もあります。福岡県糸島市の谷口汰一さん(29)はコメ農家の2代目です。去年は管理している23ヘクタールの農地のうち、3分の2にあたる15ヘクタールの水田で主食用のコメを、残る8ヘクタールの田畑で家畜のエサになる飼料用のコメや大豆などを生産しました。主食用のコメはJAを通さず、消費者や飲食店などに直接販売していますが、農園のホームページにはひと月あたりで前の年の同じ月のおよそ20倍に上る注文が寄せられ、去年産のコメはことし1月までに完売したと言います。谷口さんはことし、23ヘクタールすべてで主食用のコメを作る決断をし、生産量は去年の1.5倍にあたる90トンを見込んでいます。生産コストが上昇する中、消費者に喜んで買ってもらいたいと、販売価格は今のところ去年と同じ5キロで税込み2500円。ことしは田植え前に注文が相次ぎ、すべての売り先が決まったということです。
4月下旬、大阪市阿倍野区のスーパー「フレッシュマーケットアオイ昭和町店」には「1家族1点まで」の制限付きで5キロ税込み4千円台~6千円台のコメが並んでいた。大学1年と高校3年の息子を持つ女性(59)は「コメは欠かせないけどこの価格では気軽に買えない」とため息をついた。



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