ドル/円の10月見通し 「米利下げは織り込み済み 本邦の政治情勢にも注目」

FXブログ
ドル/円の10月見通し 「米利下げは織り込み済み 本邦の政治情勢にも注目」

House View

ドル/円の10月見通し 「FRBの利下げと日銀の利上げでも下値は限定的」

執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト 神田卓也

 

ドル/円 の基調と予想レンジ

基調
底堅い

予想レンジ
145.500-151.500円

ドル/円9月の推移

9月のドル/円相場は145.481~149.952円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約0.6%上昇した(ドル高・円安)。3日には149円台を回復する場面もあったが、米国の労働市場を巡る懸念を背景にドルの上値は重く、5日の米8月雇用統計が冴えない結果になると一時147円台を割り込んだ。146円台では一定の底堅さを見せたものの17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25bp(0.25%ポイント)の利下げが決まり、さらに年内50bpの利下げ見通しが示されると、約2カ月ぶりに145.48円前後まで下落した。しかし、石破首相の辞任に伴い10月4日に行われる自民党総裁選において、積極財政と金融緩和に前向きな高市氏が有力候補と目される中で円買いは続かなかった。19日に日銀が政策金利を据え置き、植田総裁が追加利上げに慎重な姿勢を示すと148円台へと持ち直し、25日には米4-6月期国内総生産(GDP)・改定値の上方修正や米新規失業保険申請件数の減少を受けて149円台へと反発した。もっとも、米国の予算切れに伴い10月1日から同国政府機関の一部が閉鎖される可能性が高まる中でドルの上値も重く、心理的節目の150.00円を前に失速。日銀の野口審議委員が29日に利上げに前向きな発言を行うと10月利上げの可能性が意識され、円を買い戻す動きが出たため再び148円台に押し戻された。翌30日もドル売り・円買いが優勢となり147.94円前後で9月の取引を終えた。

ドル/円 日足チャート

ドル/円9月の四本値

始値 146.975 高値 149.952 安値 145.481 終値 147.944

2日
氷見野日銀副総裁は米国の関税政策による日本経済への影響について「当面は大きくなる可能性の方により注意が必要ではないか」と発言。利上げに対する慎重な姿勢を示したと受け止められた。米8月ISM製造業景況指数は48.7と前月(48.0)から上昇したが、市場予想(49.0)には届かなかった。構成指数では仕入価格が依然として高水準ながらも半年ぶりの水準に低下。一方、新規受注は7カ月ぶりの水準に上昇した。

3日
米7月JOLTS求人件数は718.1万件と、市場予想(738.0万件)を下回り、昨年9月以来の水準に減少した。採用件数(政府部門除く)は前月からやや増加したが、レイオフ(一時解雇)件数もいくぶん増加した。

4日
米8月ADP全国雇用者数は前月比5.4万人増にとどまり、市場予想(6.8万人増)に届かなかった。米8月ISM非製造業景況指数は52.0と市場予想(51.0)を上回り、前回7月(50.1)から上昇した。

5日
米8月雇用統計で非農業部門雇用者数は前月比2.2万人増と市場予想(7.5万人増)を下回った。7月分は7.3万人増から7.9万人増へと小幅に上方修正されたが、6月分は1.4万人増から1.3万人減へと下方修正。非農業部門雇用者数が前月比で減少するのは2020年12月以来となった。また、8月失業率は4.3%となり、2021年10月以来3年10カ月ぶりの水準に上昇した。同労働参加率は62.3%(予想62.2%)、同平均時給は前年比+3.7%(予想+3.8%)だった。その後、トランプ米大統領は「とっくに利下げしておくべきだった。相変わらず『遅すぎる!』」とSNSでパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長を批判した。

9日
米労働統計局(BLS)は米雇用統計の年次改定で、2024年4月から2025年3月までの非農業部門雇用者数が91.1万人下方修正になるとの推計値を発表。市場予想は68.2万人の下方修正だったが、一部には100万人程度の下方修正の可能性もあるとの見方もあった。

11日
米8月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.4%、前年比+2.9%(予想:+0.3%、+2.9%)となり、前年比の伸び率は前月(+2.7%)から加速した。食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年比+3.1%と予想通りに前月と変わらずだった。同時に発表された新規失業保険申請件数は26.3万件と前週(23.6万件)から2.7万件増加し、2021年10月以来の高水準となった。

12日
米9月ミシガン大消費者信頼感指数・速報値は55.4と市場予想(58.0)を下回った。消費者の期待インフレ率は1年先が4.8%、5-10年先が3.9%だった(予想4.8%、3.4%)。

16日
米8月小売売上高は前月比+0.6%と市場予想(+0.2%)を上回り、7月分も+0.5%から+0.6%へ上方修正された。 自動車を除いた8月小売売上高は+0.7%と予想(+0.4%)を上回り、同様に7月分が+0.3%から+0.4%へと上方修正。また、国内総生産(GDP)の算出に用いられる8月コア小売売上高(コントロールグループ)は前月比+0.7%と予想(+0.4%)を上回った。

17日
米連邦公開市場委員会(FOMC)は予想通りに政策金利を25bp(0.25%ポイント)引き下げ、4.00-4.25%とした。声明で「雇用に対する下振れリスクが高まっている」との懸念を示し、「目標達成を阻害しかねないリスクが顕在化した場合、金融政策スタンスを適切に調整する用意がある」と表明した。なお、今会合からFRB理事として出席したミラン氏は50bpの利下げを主張した。また、金利見通し(ドットチャート)では、メンバーの予測中央値として年内2回(50bp)の利下げと来年2回(50bp)の利下げ軌道が示された。

19日
日銀は予想通りに政策金利を0.50%に据え置いた一方で、過去に買い入れた上場投信(ETF)・不動産投信(J-REIT)の売却方針を大方の予想に反して決定。政策金利の据え置きに2名の審議委員が反対し、0.75%への利上げを主張していたことも相まって、早ければ10月にも追加利上げが行われるとの見方が浮上した。ただ、植田総裁はその後の会見で「米国や各国の通商政策の日本経済への影響をめぐる不確実性が高い中で、もう少しデータを見たいという局面だ」などと述べ、慎重に政策を判断していく姿勢を強調した。

25日
米4-6月期 GDP・確報値は年率換算で前期比+3.8%と改定値(+3.3%)から上方修正され、2022年7-9月期以来の高い伸びとなった。個人消費が+1.7%から+2.5%へ大幅に上方修正されたことが寄与した。同時に発表された米新規失業保険申請件数は21.8万件と予想(23.3万件)を下回り約2カ月ぶりの水準へと減少した。

26日
米8月個人消費支出(PCE)は前月比+0.6%と市場予想(+0.5%)を上回った。同PCEデフレーターは前月比+0.3%、前年比+2.7%といずれも予想通りで、前年比の伸び率は前月の+2.6%から小幅に拡大した。食品とエネルギーを除いたコアPCEデフレーターは前年比+2.9%だった(予想、前月ともに+2.9%)。

29日
日銀内でハト派に属すると見られていた野口審議委員は「米国の関税政策による大きな下方リスクが、どの段階でどの程度まで解消されるのかは、現状ではまだ明確ではない」としながらも「政策金利調整の必要性がこれまで以上に高まりつつある」と利上げ再開に前向きな発言を行なった。

30日
米国のトランプ大統領は、予算切れによる政府機関の一部閉鎖が目前に迫る中、閉鎖とともに政府職員を「大量に解雇する可能性がある」と発言。さらに、職員解雇なら「民主党のせいだ」と述べた。

各市場 9月の推移

10月の日・米注目イベント

ドル/円の10月見通し

9月のドルは、総合的な価値を示すドルインデックスが2022年2月以来、約3年半ぶりの安値を付けるなど上中旬は軟調だったが、米連邦準備制度理事会(FRB)による年内50bp(0.50%ポイント)と来年50bpの合計100bpの利下げが完全に織り込まれると下旬にかけて反発。これは、市場にとって利下げを織り込む余地がほぼ消滅したためと考えられる。FRBは10月28-29日の連邦公開市場委員会(FOMC)で25bpの追加利下げに動く公算が大きいが、上記の経緯から市場は想定済みだ。来年にかけて利下げペースが加速するとの見方が浮上しない限り、ドル安の余地も小さいと見る。昨年も9月にFRBが利下げを行った直後からドルが反発し、年末にかけて上昇が続いた。今年も同様の展開になる可能性が相応にあると考えている。ただし、トランプ米大統領は予算切れに伴う政府機関の閉鎖を機に政府職員を大量に解雇する可能性があると警告していることから、1日に始まると見られる閉鎖期間が長引けば、労働市場が一段と悪化し、FRBの利下げペースが加速するとの思惑が広がりかねない点には注意が必要だろう。 一方、円については9月後半になって俄かに10月利上げの観測が高まったことから、足元で下値が堅くなっている。金利市場の織り込みがまだ7割弱とあって、2日の氷見野副総裁、3日の植田総裁による講演の内容次第ではさらに織り込みが進む可能性もある。もっとも、10月金融政策決定会合(29-30日)の時点で政治情勢を巡る不透明感が晴れているかについては疑問が残る。4日に自民党総裁選が行われ、その後国会における首班指名投票を経て次期首相の下で組閣に取り組むことになる。新内閣が新たな経済対策を打ち出すのはさらにそれ以降になると見られることから、日銀が利上げを見送る理由になり得ると見る。仮に、日銀が25bpの追加利上げに動いても、物価の上昇率を加味した実質政策金利は依然として大幅なマイナスであり、円を大幅に押し上げる公算は小さいだろう(一時的に円が買われる可能性はあるが)。以上の点から、10月のドル/円相場は米国の政府閉鎖が長期化しない限り、下値は限定的で緩やかな上昇が続くと見ている。

kanda.jpg

株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。

●免責事項
本サイトに掲載する情報には充分に注意を払っていますが、その内容について保証するものではありません。また本サービスは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであって、投資勧誘を目的として提供するものではありません。投資方針や時期選択等の最終決定はご自身で判断されますようお願いいたします。なお、本サービスの閲覧によって生じたいかなる損害につきましても、株式会社外為どっとコムは一切の責任を負いかねますことをご了承ください。
[紹介元] 外為どっとコム マネ育チャンネル ドル/円の10月見通し 「米利下げは織り込み済み 本邦の政治情勢にも注目」

2019年の利下げ後のドル円はほぼ横ばい圏で推移した

図表6は、利下げ開始前後100営業日のドル円の動向を示したグラフである。2019年の利下げ後のドル円はほぼ横ばい圏で推移した。米中貿易摩擦を受けたグローバルな景気減速懸念からリスクオフ通貨とみられるドルと円は同じ方向に動く傾向があり、ドル円の通貨ペアの値幅は限定的となったためだ。1995年はむしろドル高円安となった。1994年のメキシコ通貨危機等を契機にドル安が進展した局面から、ドルの「秩序ある反転」がG7で合意されるなど、ドルが自律反発する局面であったためだ。1998年は、唯一円高ドル安が顕著に進展した。当時はLTCMショックをきっかけとした金融危機に対する警戒感の高まりを受けて、米国からも一部資金流出の動きがあり、その受け皿として日本円が買われた。この局面は地政学的ショックを起点としたリスクオフの動きであり、米金利要因とはやや異なる要因である。

利下げ開始日を基準として、米金利の変化幅を示している。利下げ開始前、米長期金利は利下げを織り込む動きで低下する傾向があるが、その後の金利低下余地は限定的であった。1998年や2019年は、利下げ開始直後一時的に米金利は低下したが、その後は利下げ前の水準に戻している。最も米金利が低下したのは、2019年の利下げ開始から23営業日後の▲0.43%Ptであり、足元のドル円の金利感応度 を12円程度と仮定すると、同程度の金利低下は最大でも5円程度の円高圧力にとどまろう。2年金利や5年金利の推移を含めてみても(図表5)、利下げ開始時点からイールドカーブが目立って下方シフトした事例はない。

9月17日~18日、米連邦公開市場委員会(FOMC)は0.50%の利下げを決定した。2020年3月以来、4年半ぶりとなる利下げである。背景には、インフレ鈍化基調が継続し、インフレの高止まりに対する警戒感が後退する一方、雇用関連指標は弱い指標が出てきていることが挙げられる。実際、同日公表された経済見通し(図表1)では、PCEデフレーター(総合)は2024年に前年比+2.3%と、6月見通し対比0.3%Ptの下方修正、PCEデフレーター(コア)は2024年に前年比+2.6%と、6月見通し対比0.2%Ptの下方修正となった一方、失業率は2024年に4.4%と、6月見通し対比0.4%Pt上方修正された。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、会合後の会見で、労働市場の悪化に「遅れをとらないため」に0.5%の利下げを決定したと説明した。また、今後の利下げパスについて、2024年内に追加で0.5%、2025年に1%の利下げを行うとの見通しが示された。金融市場の反応は総じてみれば冷静で、大きな混乱はなかった。ドル円は一時1ドル=140円台後半まで円高が進行したものの、その後は材料出尽くしから円安に転じ、本稿執筆時点で1ドル=143円前後まで戻す展開(図表2)となっている。

でFOMCメンバーが見込む今後の米利下げ幅は債券市場で概ね織り込み済であり、米金利(本稿では、特段断りのない限り、米金利は米10年国債利回りのことを指す)の低下余地は限定的だろう。ドル円は当面下げ渋る展開を見込む。

以上を踏まえると、今次局面においては、日銀の追加利上げも市場に一部織り込まれているなか、地政学リスクや金融危機、米大統領選挙に絡む混乱等が発現しない限りにおいては、米金利の低下余地は限定的で、ドル円は当面下げ渋る展開を想定している。特にトランプ氏が大統領に就任した場合、輸入品への関税や移民政策など、インフレ圧力が高まり利下げが困難になるシナリオも否定できず、ドル高リスクとして念頭に置いておきたい。

コメント

` this.fetchProxy(url, options, 0).then( res => res.json() ).then( data => { if (data.body) this.srcdoc = data.body.replace(/]*)>/i, `
タイトルとURLをコピーしました