大阪万博の成否 レガシー活用が鍵
万博の退潮傾向は1980年代末から顕著になった。合理化、スリム化を目的に、88年に国際博覧会条約が改正され、パリ(89年)は都市の開発計画の変更に伴い、また、米・シカゴ(92年)は住民の反対運動の結果、いずれも中止となった。セビリア万博(スペイン・92年)に出展した、ある参加国の政府代表は報告書に「大規模な万博は、もはや絶滅危惧種だ」と記したという。その次のハノーバー万博(ドイツ・2000年)は入場者数が目標の半分に届かず、1200億円の赤字を出した。中国初の上海万博(10年)や中東初のドバイ万博は相応の成果を収めたものの、日本と25年開催を競ったフランスは誘致レース途中に撤退した。最終候補として残ったのは大阪のほか、ロシアのエカテリンブルクとアゼルバイジャンのバクーだった。ちなみに次回、30年の開催地はサウジアラビアのリヤドである。
遠藤氏:三井住友銀行は、お客様にサービスを提供する立場にあるので、UI(ユーザインターフェイス)とUX(ユーザエクスペリエンス)を非常に重視しています。先ほど触れたOliveもそうですし、大阪・関西万博で独自に提供するキャッシュレスサービス「ミャクペ!」でも、やはりUI、UXにこだわりを持って取り組んでいます。
開催期間中に多くの観光客らでにぎわいを見せた大阪・関西万博の会場周辺。国家戦略特区として、個人宅やマ...
そういった時代を背景に、あえて日本で万博を開催する限りにおいて、レガシー(遺産)として何を残すかという命題を直視することが肝要だろう。
前回の大阪万博(1970年)以降の半世紀、先進7か国(G7)の中で、日本以外で万博を開いたのはドイツ、イタリアに限られる。成熟した社会の国において万博への熱情は低下しているようにみえる。読売新聞社が今年3月に実施した全国世論調査で大阪・関西万博に行ってみたいと「思う」と回答した人は31%で、「思わない」は68%だった。23年11月調査の「思う」30%、「思わない」69%からほぼ横ばいで、「思う」とした人を年代別でみると、30歳代が24%(23年11月35%)、18~29歳が30%(同40%)と、若い世代の関心が低かった。
万博とは、「今、世界でどんなイノベーションが起きているのか」「今、世界にはどんな課題があって、どのような課題解決の方法があるのか」という知恵を共有する場所だととらえています。特に今回は、SDGsの達成目標である2030年の5年前ということもポイントです。大阪・関西広域を舞台に、モビリティや医療、防災といったさまざまな業界が一体となって、1つの大いなる実証実験として万博に取り組む。それが今回の万博の意義だと考えています。
一方で、その成果を真に持続可能な地域発展へと昇華させるには、万博後を見据えた長期戦略が不可欠です。「イベントは終わってからが勝負」とも言われるように、ポスト万博のフォローアップこそ地方創生の正念場となるでしょう。香川県は幸いにも、瀬戸内国際芸術祭という定期開催イベントや豊かな地域資源を持っています。これらと万博レガシーを巧みに組み合わせ、「選ばれる地域」としてのブランド力を高めていくことが期待されます。
齋藤氏:海外では公共交通機関でもタッチ決済が広がっていますが、日本でもstera transitのようなシステムが全国に広がりつつあるのは素晴らしいことですね。これが万博のレガシー(遺産)となって、後々、「これは万博の年に始まったんだ」と言えるぐらい普及するといいな、と思っています。最後にNECの取り組みについてお話をお伺いできればと思います。
今回の万博では、顔認証システムと万博独自の電子マネー「ミャクペ!」を連携させることで、街中から万博会場に至るまで、シームレスで特別感のあるユーザ体験を提供したいと思っています。万博のために作ったものをレガシーとして市中に残すため、開催期間中から街中と万博をつなぎ、顔認証への取り組みが広がっていくことを期待しています。
当初の悪評をくつがし大阪・関西万博は盛況にて幕を閉じた。
6421万人を集客し、20世紀型万博の頂点を極めた70年の大阪万博の成功体験を、関西の自治体や企業が十分に生かしたとは言い難い。経済の指標だけでも製造業出荷額や域内総生産、普通法人数(資本金1億円以上)の全国シェアは右肩下がりを続け、現在に至る。日本総合研究所の石川智久調査部長は「万博で得た新技術を地場産業に落とし込んだり、世界を相手に新ビジネスに挑んだり、方法はあったと思う。満足感、達成感が大きすぎたのか、都市、地域として、将来への大きな青写真を描く機運に至らなかった」と説く。一方で「万博は関西を刺激し、一体感を醸成するキーワードだ。東京一極集中の単眼的な発展は日本にとって望ましくない。海外の都市と 伍(ご) する、世界基準の事業への人脈や糸口が見つかれば、それこそがレガシーになる」という。
万博のレガシーと言えば、エッフェル塔(1889年・パリ万博)や太陽の塔(70年・大阪万博)など、建築物を連想しがちだが、開催意義を考える上で、ハノーバー万博への多様な論評が興味深い。
「市内中心部でこれだけ大学生の集まる拠点は他にない」――。新大学・大阪...
もう一つ、吉村知事がレガシーとして期待をかけるのが会場のシンボル「大屋根リング」だ。1周2km、幅30m、高さ12~20m。使用木材が約2万7000立方mに上る「世界最大級の木造建築物」とされる一方、344億円という巨額の建設費が批判の的になった。これに対しても、吉村知事は強気に語ってきた。
2025年国際博覧会(大阪・関西万博)後を見据え、大阪市内で大規模な街づくりが計画される。1970年万博で整備が進んだキタとミナミを結ぶ南北軸に加えて、大阪府・市は人工島・夢洲(ゆめしま)など臨海部と大阪城東側の森之宮地区を「東西軸」として成長の起爆剤にしたい考えだ。今後は民間をどう巻き込んでいくかに開発計画の成否がかかる。


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