証券会社の源泉徴収 過大 判決
本件における米国スピンオフは、米国法人であるAT&Tがその事業の一部を切り離す会社分割(分割型分割)を行い、これに伴いAT&Tの株主に対して同社株式1株当たり、新設会社であるWBDの株式を0.241917株割り当てるというものである。被告証券会社に証券総合口座及び外国証券取引口座を開設していた原告株主は、AT&T株式を100株保有していたことから、本件におけるスピンオフによりWBD株式24.1917株の割当てを受けた。被告証券会社は、WBD株式の評価金額7万8,383円の全額がみなし配当として課税対象となることを前提に算出した1万5,923円を源泉徴収して税務署に納付していた。 これに対し原告株主は、WBD株式の交付に対して源泉徴収がされるべき所得税等は565円を超えないと主張して、565円を超える1万5,358円の返還を求める本件訴訟を提起した。原告株主の主張に対し被告証券会社は、源泉徴収は適法であるから、原告株主に対して源泉徴収の額に相当する預託金を返還する義務を負うものではないと反論した。具体的に被告証券会社は、外国株式について株式配当があった場合の源泉徴収については必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難であることから各証券会社においてその取扱いが区々になっており、税務当局も明確な方針を示しておらず、証券業界内でも統一した結論が得られていないと指摘。また、現地入庫日の終値で割当株式を時価評価してその全額をみなし配当額として取り扱うこととする運用で数十年以上取り扱ってきたが、その間に行われた税務当局の調査の際にも違法を指摘されたことはないなどと指摘したうえで、本件における源泉徴収は適法であると主張していた。
源泉徴収制度を考えると、確定申告などで納税者が精算することは認められていないので、源泉徴収義務者である証券会社に返還を求めることになります。すんなり返還が認められない場合には、このように裁判になることもあるということでしょう。
証券会社もそれぞれいろいろ努力をしているのだろうが、今回の場合、他の証券会社と比較しても大幅に差が生じているため、やはり適法でないということだろう。
証券会社が数十年以上にわたり顧客から徴収してきた税金の計算方法は正しいのか。この点が争点になった民事裁判で、裁判所は「誤り」と判断し、原告である1人の顧客から過大に徴収した分を返還するよう命じた。被告の岩井コスモ証券(大阪市)は他の顧客からも同じ方法で徴収しており、取材に対して「今後の対応方針について慎重に検討を重ねる」とコメントしている。
この判決を読んでみると、このような外国株式の場合、そもそも源泉所得税を徴収するに際に、「必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難」であるということが分かった。
7月の東京地裁判決によると、AT&Tは2022年4月ごろ、事業の一部を切り離す会社分割を実施。これに伴って新設された会社の株が、コスモ社を通じて株主である原告に交付された。
「裁判官は弁明せず」との言葉通り、地家裁や高裁の裁判官が判決に込めた思いを語ることはめったにない。それだけに最高裁の判決や決定は、裁判官が全人格をかけて向き合ったことがうかがえる貴重な肉声ともいえる。興味深いのは、時に少数意見が未来を切り開くカギとなることだ。
原告は、令和4年4月当時、外国証券取引口座においてAT&Tの株式100株を保有していたのですが、AT&Tの会社分割に伴い、WBDの株式24,1917株(本件株式)の割当てを受け、被告である証券会社を介して本件株式の交付を受けました。
東京地裁はまず、本件における会社分割が所得税法25条1項2号にいう分割型分割に当たり、WBD株式の交付が同項柱書所定の範囲で同法24条1項にいう配当とみなされ、課税対象となり、その場合に被告証券会社がWBD株式の交付に際して租税特別措置法9条の3の2にいう支払の取扱者としてその源泉徴収を行うこととなると判断した。 そして東京地裁は、WBD株式の交付が所得税法24条1項の配当等とみなされ課税対象となるのは、飽くまでWBD株式の価額の合計額がAT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超えるときであり、かつ、その超える部分に限られると指摘。そのうえで東京地裁は、WBD株式の価額の合計額がAT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超えること及びその超過額についての主張立証はされていないと指摘したうえで、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を判断するために必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難であるとしても、このことをもって直ちに同金額が0円であり、WBD株式の評価額全部がみなし配当額になると推認することはできないという判断を示した。 さらに東京地裁は、調査嘱託の結果によりA証券会社が同社の契約する情報ベンダーからの情報に基づき本件における株式分割に関してWBD1株当たりのみなし配当額を0.9263127ドルと算定して源泉徴収等を行ったことが認められると指摘したうえで、これは被告証券会社が採用したWBD1株当たりの評価額(=みなし配当額)26.00ドルとは大きく異なっており、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額がその評価額のうち相当大きな割合を占めることがうかがわれるという見解を示した。 以上を踏まえ東京地裁は、WBD株式の価額の合計額のうち、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超える部分の有無及びその額を積極的に認定することは困難であって、被告証券会社の主張する諸事情を考慮しても、WBD株式の評価額全部がみなし配当額になるとする法的根拠を欠き、被告証券会社のした源泉徴収税額のうち原告株主の自認する565円を超えて1万5,358円を徴収した部分は適法な源泉徴収等であったとは認められないと判断したうえで、1万5,358円の支払いを被告証券会社に命じた。 地裁、原告株主が求めた慰謝料は認めず なお、本件で原告株主は、被告証券会社に対して慰謝料5万円の支払いも請求していた。この点に関し原告株主は、被告証券会社に対して繰り返し本件における源泉徴収が所得税法25条に違反するものであるとして、誤徴収相当額の返還を求めるなどしたが被告証券会社がこれに応じなかったと指摘。また、そのために原告株主側は所轄税務署や国税相談室に相談するほか、国税庁宛てに意見書を送付して最終的に本訴を提起することになったと指摘した。これらを踏まえ原告株主は、被告証券会社の対応により精神的苦痛や時間的負担を強いられたとして、被告証券会社に対して慰謝料5万円を請求し得ると主張した。これに対し東京地裁は、原告株主が被告証券会社に対して有する1万5,358円の預託金返還請求権の履行により原告株主の経済的損失は補填されることになることなどを指摘したうえで、原告株主が求めた慰謝料の請求は斥けている。
みなし配当として徴収された源泉所得税が間違っていたとして証券会社を訴えた事案です。
本件米国スピンオフに係る源泉徴収、証券会社により異なる対応 本件における米国スピンオフに係る所得税等の源泉徴収に関する対応は、証券会社により異なっていることが本誌取材により確認されている。具体的には、①被告証券会社と同様に新株の全額をみなし配当として源泉徴収を行っているケース、②新株の評価額に対して一部源泉徴収を行っているケース、③源泉徴収をまったく行っていないケースの3つのパターンによる対応がなされているようだ。
つまり、証券会社は、株式の評価金額7万8383円の全額が課税対象として源泉徴収したのですが、原告としては、565円を超えないから、それを超えた部分は、違法だということです。
しかるに、本件株式の価額の合計額がAT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超えること及びその超過額についての主張立証はされていない。そして、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を判断するために必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難であるとしても、このことをもって、直ちに、同金額が0円であり、本件株式の評価額全部がみなし配当額になると推認することはできない。かえって、証拠によれば、〇〇証券株式会社は、同社の契約する情報ベンダーからの情報に基づき、本件会社分割に関し、WBD1株当たりのみなし配当額を0.9263127ドルと算定して、源泉徴収等を行ったことが認められ、被告が採用したWBD1株当たりの評価額(=みなし配当額)26.00ドルとは大きく異なっており、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額がその評価額のうち相当大きな割合を占めることがうかがわれる。」


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