
(写真=iStock Photo)
世界最大手の暗号資産(仮想通貨)取引所「コインベース(Coinbase)」は暗号資産市場の動向を、最も敏感に映し出す企業の一つです。同社の業績はビットコインなど暗号資産の市場価格や取引量(ボラティリティ)に極めて大きく左右されます。市場が激しく変動し、「好況と不況」の間に「クリプト・ウィンター(暗号資産・冬の時代)」と呼ばれる停滞期が生まれることが特徴です。コインベース(Coinbase)は2022年(FY22)の大赤字を経て、2024年(FY24)は市場回復に伴い、劇的な黒字転換を遂げました。しかし、2025年(FY25)に入ってから、早くもその勢いに陰りが見え始めています。
ここでは、コインベース(Coinbase)の過去の決算書から同社の不安定な収益構造を分析することで、まもなく来るかもしれない「冬」で直面する課題を提示し、直前となった2025年(FY25)3Qの業績を予想してみましょう。
(1)コインベース(Coinbase)の最新業績と2025年(FY25)3Qの業績予想
下表はコインベース(Coinbase)の2023年(FY23)4Qから2025年(FY25)2Qまでの四半期ベースの業績結果と2025年(FY25)3Qの業績予想です。


単位:百万ドル
(※4)成長率は前年同期損益がマイナス場合、数学的に計算できないので「―」を入れています。
最新決算である2025年(FY25)2Qは、コインベース(Coinbase)の収益基盤が、いかに不安定であるかを明確に示す内容でした。売上高は1,497百万ドルと、同年前期(FY25 1Q)の2,034百万ドルから大幅に減少しました。これは暗号資産市場の取引量が減少したからです。 さらに深刻なのは、本業の儲けを示す営業利益がマイナス25百万ドルと赤字転落したことでしょう。
このように営業損失を計上した一方で、当期純利益は1,429百万ドルという巨額の黒字を計上しました。これは本業の「儲け」が増えたわけではなく、同社が保有する暗号資産価格が上昇したことによる「会計上の(非現金)利益」が大部分を占めていますので、注意が必要です。
それでは目前に迫った2025年(FY25)3Qの業績はどうなるでしょうか。米国の市場アナリストの多くが、暗号資産市場の「夏枯れ」を反映した厳しい内容を予想しているようです。私はコインベース(Coinbase)の本業の現金収支(キャッシュフロー)が特に悪化している点に注目しており、市場アナリストたちよりもさらに厳しい内容になると見ています。3Qの業績予想でポイントとなるのは以下の2つです。
・暗号資産取引に頼らない新しい収入源に対する期待
市場の期待は、コインベース(Coinbase)が、手数料ビジネスの売上から利益を獲得する「単なる取引所」からの脱却することです。具体的には、「ベース(Base)」と呼ばれる独自のブロックチェーン基盤や、機関投資家向けのサービス、ステーブルコイン(USDC)関連の収益などで、コインベース(Coinbase)が、暗号資産の取引量に左右されにくい安定的な収益源を生み出せるかどうかです。
・暗号資産市場の価格変動の影響が強い「天候次第」のビジネスモデル
私は2025年(FY25)3Qについて、売上高は1,200百万ドル、営業利益はマイナス150百万ドルという赤字で、2025年(FY25)2Qよりも業績がさらに悪化すると見ています。
コインベース(Coinbase)の最大の課題は、現在の売上の大部分を占める取引手数料収入が、暗号資産市場のボラティリティ(価格変動)の影響を受け過ぎてしまう点です。暗号資産の取引が減ると、すぐに赤字に転落します。今の状況は「天候次第」のビジネスモデルと言わざるを得ません。また、キャッシュフロー計算書で詳しく解説しますが、本業の現金収入(営業CF)がほぼゼロになってしまうと、会計上の利益(当期純利益)がいくら大きく見えても、事業の継続性が極めて不安定な状態になります。コインベース(Coinbase)は一刻も早く手を打つべきでしょう。
(2)売上高の動向
コインベース(Coinbase)の「年間成績」である「損益計算書」から同社の売上高を分析します。売上高は会社がビジネスで稼いだ総収入のことです。下記は2021年(FY21)から2024年(FY24)までの通期ベースのデータです。グラフから、コインベース(Coinbase)の売上高が、「ジェットコースター」のような動きを示していることが分かります。この激しい変動は暗号資産市場のブームと暴落に直結しています。


単位:百万ドル
(※4)成長率は前年同期損益がマイナス場合、数学的に計算できないので「―」を入れています。

上記はコインベース(Coinbase)の通期ベースの損益計算書から、売上高だけを抜き出したグラフです。2021年(FY21)の7,839百万ドルから、2022年(FY22)には3,194百万ドルまで急落、2023年(FY23)は、3,108百万ドルで停滞したものの、2024年(FY24)には6,564百万ドルへと大幅に回復しました。この売上高の変動は、仮想通貨市場を揺るがす重要イベントと連動しています。

下記のグラフはコインベース(Coinbase)の売上高を、四半期ベースで見たものです。2024年(FY24)の追い風は長くは続かず、2025年(FY25)に入ると、その勢いは急失速しています。2025年(FY25)の上半期(1Qと2Q)の売上高を合計すると、3,531百万ドル(2,034百万ドル + 1,497百万ドル)になります。これは、2024年(FY24)通期実績の6,564百万ドルに対して53.8%の進捗率です。数字上は50%超になりましたが、2025年(FY25)の1Qから2Qにかけて、売上は約26%減少しており、暗号資産市場が再び冷え込み始めたことがわかります。

(3)営業利益の動向
営業利益は売上高からコストを差し引いた本業の「儲け」のことです。営業利益率は、その儲けの効率性を示します。下記の通期ベースのグラフを見ると、営業利益は売上高よりもさらに過激に変動しています。2021年(FY21)の3,077百万ドルから、2022年(FY22)のマイナス2,710百万ドルへと、わずか1年で巨額黒字から巨額赤字に転落しました。2024年(FY24)は暗号資産市場の回復に伴い、2,307百万ドルの黒字に戻しています。

下記は四半期ベースで営業利益を示したグラフです。これを見ると2025年(FY25)上半期(1Qと2Q)の営業利益合計は、681百万ドル(706百万ドル + △25百万ドル)です。これは2024年(FY24)通期実績の2,307百万ドルに対して29.5%という非常に低い進捗率です。
その理由は2025年(FY25)2Qに、営業赤字に転落したからです。急速に収益性が悪化しているのです。私の2025年(FY25)3Q予想も、マイナス150百万ドルの営業赤字です。それはこのトレンドに基づいています。

(4)当期純利益の動向
当期純利益とは、税金などを支払った後に最終的に会社に残る利益のことです。通期ベースのデータを見ると、営業利益同様に、2021年(FY21)の3,624百万ドルという黒字から、2022年(FY22)のマイナス2,625百万ドルという赤字に転落しました。

四半期ベースのデータで当期純利益を見ると、2025年(FY25)上半期(1Qと2Q)の当期純利益合計は1,495百万ドル(66百万ドル + 1,429百万ドル)です。これは、2024年(FY24)通期実績の2,579百万ドルに対して58.0%の進捗率です。

ここで注意して欲しいのが、営業利益の進捗率は29.5%と悪いのに、なぜ当期純利益の進捗率は58.0%と良い数字になるのかということです。これは2025年(FY25)2Qに本業で営業利益がマイナス25百万ドルという赤字になりながら、保有する暗号資産の価格上昇で「会計上の(非現金)利益」が1,400百万ドル以上発生したからです。これは本業による利益とは言えず、帳簿上で発生した利益にほかなりません。
(5)株主価値指標の動き
コインベース(Coinbase)の業績を投資家(株式市場)はどのように評価しているのでしょうか。3つの株主価値指標を見ていきましょう。
1)EPS (1株当たり利益) の動向
EPSは、「株主が持つ1株に対して、会社がいくら利益を生み出したか」を示す指標です。コインベース(Coinbase)の EPSは当期純利益の乱高下をそのまま反映しています。通期ベースのグラフを見ると、2024年(FY21)が14.5ドル、2022年(FY22)マイナス11.83ドル、2024年(FY24)は9.48ドルと激しく上下に動いています。

下記は四半期ベースのグラフです。コインベース(Coinbese)の2025年(FY25)2QのEPSは5.14ドルと高いのは、前述した「会計上の(非現金)利益」によるもので、本業の力を示しているわけではありません。

2)PER (株価収益率)
PERは「株価がEPS(1株当たり利益)の何倍か」を示し、「投資家がその会社の将来の成長にどれだけ期待しているか」を測る指標です。コインベース(Coinbase)のPERは利益が不安定なため、指標として機能しにくいのが実情です。
2023年(FY23)のように、利益が0.37ドルというほぼゼロの時は、PERは466倍という異常値になります。他方で、2021年(FY21)や2024年(FY24)のように、利益が出ている時は、20倍台に落ち着きます。コインベース(Coinbase)の不安定な利益を、市場はどう評価するべきなのか、常に迷っている様子がうかがえます。

3)PBR (株価純資産倍率) の動向
PBRは「会社の純粋な資産価値(純資産)に対して、市場が株価を何倍と評価しているか」を示します。 コインベース(Coinbese)のPBRは比較的安定しています。2022年(FY22)の「冬の時代」は1.5倍まで下落しましたが、上記の通期ベースのグラフで確認できるように、2021年(FY21)8.59、2023年(FY23)6.70、2024年(FY24)6.13と、常に6倍以上をつけています。
これは、市場がコインベース(Coinbase)の純資産(会社が持つ本当の財産)に対して、6倍程度のプレミアム(期待値)を付けていることを示しています。
(6)貸借対照表から見る「財務の安定性」
貸借対照表は、会社の「財産(資産)」「借金(負債)」「返済不要の自分のお金(純資産)」のバランスを示した会社の「健康診断書」です。


単位:百万ドル
1)資産の動向
コインベース(Coinbase)の資産は、会社が保有する現金や暗号資産などの財産の総額です。2022年(FY22)の資産合計が89,725百万ドルと突出していますが、これは当時の会計ルール変更(顧客預かりの暗号資産を一時的に資産として計上)による特殊なもので、実態を表していません。
コインベース(Coinbase)の資産の実態は、2021年(FY21)の21,274百万ドルや、2023年(FY23)の14,754百万ドルという規模でしょう。なお、2024年(FY24)の22,542百万ドルから、2025年(FY25)2Qの23,476百万ドルへと、最近の1年半で資産合計が増加しているのは、暗号資産価格の上昇と利益の蓄積によるもので、資産の健全さを示す動きです。
2)負債の動向
負債は銀行からの借入金など、将来返済しなければならない会社の借金のことです。コインベース(Coinbase)は、2022年(FY22)でつけた84,270百万ドルという異常値を除けば、負債合計が2023年(FY23)の8,472百万ドルから2025年(FY25)2Qの11,381百万ドルへと緩やかに増加しています。資産が増加するペースと比較して、健全な範囲と言えます。
3)純資産の動向
純資産は会社の総資産から負債を差し引いた返済不要の「会社自身のお金」です。 コインベース(Coinbase)の純資産は、2022年(FY22)の「冬の時代」に5,455百万ドルまで大きく減少しました。しかし、2023年(FY23)に6,282百万ドル、2024年(FY24)が10,277百万ドル、そして、2025年(FY25)2Qは12,095百万ドルと力強く回復しています。稼いだ利益が会社に内部留保され、財務的な体力が強くなっていることを示しています。
4)流動比率の動向
流動比率は会社の短期的な支払い能力、いわば「お財布の余裕」を見る指標です。コインベース(Coinbase)の流動比率(流動資産 ÷ 流動負債) は、2023年(FY23)以降、常に200%を超える非常に高い水準を維持し、2025年(FY25)2Qは212.5%です。短期的な支払いに対する懸念はない状態です。
5)自己資本比率の動向
自己資本比率は会社の長期的な安定性を見る指標で、総資産のうち返済不要な自分のお金(純資産)がどれくらいの割合かを示します。2022年(FY22)の6.08%という異常値を除けば、自己資本比率は2023年(FY23)42.58%、2024年(FY24)48.17%、そして、2025年(FY25)2Qは51.52%と着実に上昇しています。これは利益が蓄積して借金への依存度が下がり、安定した経営体質へと改善していることを示すポジティブなサインです。
(7)キャッシュフロー計算書から見る「事業の健全性」
コインベース(Coinbase)の現金の出入りを確認するために、同社のキャッシュフロー計算書を見てみましょう。


単位:百万ドル
1)営業キャッシュフロー(営業CF)の動向
コインベース(Coinbase)の営業CFは、本業である暗号資産の取引手数料などで稼いだ現金のことです。営業CFは「本当の姿」を映し出す最も重要な指標で、プラスになればなるほど、その会社は優秀ということになります。
通期ベースのデータを見ると、2021年(FY21)は4,038百万ドルでした。しかし、本業で現金を稼げなかった2022年(FY22)は、1,585百万ドルという大幅マイナスに転落しています。ただ、翌年の2024年(FY24)には2,557百万ドルのプラスに転じています。コインベース(Coinbase)の営業CFは、非常に浮き沈みの激しい動きを示してきました。
問題は2025年(FY25)に入ってからのコインベース(Coinbase)の営業CFです。2025年(FY25)上半期(1Qと2Q)の合計は、わずか145百万ドル(△183百万ドル + 328百万ドル)です。これは2024年(FY24)の通期実績2,557百万ドルに対する進捗率が、わずか5.7%という極めて深刻な状況です。
言い換えると、損益計算書の当期純利益が大きく見えても、それは会計上の利益で、2025年(FY25)に入ってからは、本業が現金をほとんど生み出していない状態ということです。これはとても危険な兆候です。
2)投資キャッシュフロー(投資CF)の動向
投資CFは、将来の成長のために、設備投資や他社の買収に使った現金のことで、一般的に成長企業ではマイナスになります。コインベース(Coinbase)の投資CFは、2024年(FY24)がマイナス282百万ドルと、投資を抑制していました。ただ、2025年(FY25)に入ると、上半期(1Qと2Q)の合計は、マイナス917百万ドル(△232百万ドル + △685百万ドル)となっており、2024年(FY24)の通期実績であるマイナス282百万ドルに対する進捗率は、わずか半年で325%に達しました。
コインベース(Coinbase)は、2025年(FY25)に入って本業で現金が稼げていないことから、営業CFの進捗率が対前年比でわずか5.7%にもかかわらず、投資CFの進捗率は325%と、3倍超のペースで支出を急増させています。これは極めてアンバランスな状態です。
3)財務キャッシュフロー(財務CF)の動向
財務CFは、銀行からの借入や返済などで動いたお金を示しています。2024年(FY24)のコインベース(Coinbase)の財務CFは、外部から資金調達を行った結果、2,829百万ドルのプラスでした。 しかし、2025年(FY25)の上半期(1Qと2Q)の合計は、借金の返済などから、1,285百万ドル(△894百万ドル + △391百万ドル)のマイナスに転じています。つまり、コインベース(Coinbase)の財務CFは、2024年(FY24)と2025年(FY25)で、真逆の動きをしているのです。
キャッシュフロー計算書が示していることは、2025年(FY25)上半期(1Qと2Q)は、「本業で現金が稼げないまま、投資で資金を使い、借金までも返済している」ということです。これでは手元の現金が急速に減ってしまいます。
(8)コインベース(Coinbase)の真価は営業CFの動向で決まる
現在のコインベース(Coinbase)は損益計算書(見かけの利益)とキャッシュフロー計算書(本当の現金収支)が、全く異なる動きを示しており、非常に危険な状況にあると言わざるを得ません。
私はコインベース(Coinbase)の2025年(FY25)3Qの営業利益が、150百万ドルのマイナスになるとみています。この営業赤字は、同社が置かれている厳しい現実を反映したものです。損益計算書を見ると、2025年(FY25)2Qの当期純利益が1,429百万ドルなので、「コインベース(Coinbase)の経営は順調だ」と思われるかも知れません。しかし、これは「会計上の利益」であり、本業から「本物」の現金が生まれた結果ではなく、帳簿上の「幻想」に過ぎません。
2025年(FY25)2Qのコインベース(Coinbase)の自己資本比率は51.5%です。貸借対照表からは「財務の安定性」が保たれているように見えるかも知れません。その一方で、同社のキャッシュフロー計算書が示しているものは、「火の車」という内情です。本業で現金を稼ぐ力(営業CF)は、2025年(FY25)上半期(1Qと2Q)で、わずか145百万ドルです。2024年(FY24)通期実績に対して進捗率はわずか5.7%と、現金は枯渇しています。それにもかわらず、投資CFは前年に対して325%の進捗率です。3倍超のハイペースで現金を支出しています。
私の結論は、「現在のコインベース(Coinbase)は、再び『クリプト・ウィンター』に逆戻りする瀬戸際に立たされている」というものです。投資家の方々が目前となった2025年(FY25)3Qの決算で注目すべき点は、コインベース(Coinbase)が「会計上の利益ではなく、本業の営業キャッシュフローがプラスに転じることができるかどうか」ということです。これこそが同社の真価を決定づけることになるでしょう。
(本文ここまで)
岩田仙吉(いわたせんきち)氏株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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図表でわかる財務分析 Coinbaseの2025年2Q決算 3Q予想
純資産は会社の総資産から負債を差し引いた返済不要の「会社自身のお金」です。 コインベース(Coinbase)の純資産は、2022年(FY22)の「冬の時代」に5,455百万ドルまで大きく減少しました。しかし、2023年(FY23)に6,282百万ドル、2024年(FY24)が10,277百万ドル、そして、2025年(FY25)2Qは12,095百万ドルと力強く回復しています。稼いだ利益が会社に内部留保され、財務的な体力が強くなっていることを示しています。
営業CFは本業であるEコマース事業やクラウドサービスのAWSで稼いだ現金のことです。営業CFが大きくなればなるほど優秀ということです。アマゾン(Amazon)の営業CFは、2021年(FY21)が46,327百万ドル、2022年(FY22)46,752百万ドル)と足踏みしていましたが、FY2023には84,946百万ドル、FY2024には115,877百万ドルへと急増しています。 2025年(FY25)に入ってからも、上半期(1Qと2Q)の合計は49,530百万ドル(17,015百万ドル + 32,515百万ドル)の現金を稼いでいます。これは2024年(FY24)通期実績の115,877百万ドルに対して42.7%の進捗率です。アマゾン(Amazon)の営業CFは下半期(3Qと4Q)の特に4Qに集中する傾向があるため、2025年(FY25)のペースは順調で、本業の収益性改善が、見せかけではなく、”本物”の現金を増加させています。
現在のコインベース(Coinbase)は損益計算書(見かけの利益)とキャッシュフロー計算書(本当の現金収支)が、全く異なる動きを示しており、非常に危険な状況にあると言わざるを得ません。 私はコインベース(Coinbase)の2025年(FY25)3Qの営業利益が、150百万ドルのマイナスになるとみています。この営業赤字は、同社が置かれている厳しい現実を反映したものです。損益計算書を見ると、2025年(FY25)2Qの当期純利益が1,429百万ドルなので、「コインベース(Coinbase)の経営は順調だ」と思われるかも知れません。しかし、これは「会計上の利益」であり、本業から「本物」の現金が生まれた結果ではなく、帳簿上の「幻想」に過ぎません。 2025年(FY25)2Qのコインベース(Coinbase)の自己資本比率は51.5%です。貸借対照表からは「財務の安定性」が保たれているように見えるかも知れません。その一方で、同社のキャッシュフロー計算書が示しているものは、「火の車」という内情です。本業で現金を稼ぐ力(営業CF)は、2025年(FY25)上半期(1Qと2Q)で、わずか145百万ドルです。2024年(FY24)通期実績に対して進捗率はわずか5.7%と、現金は枯渇しています。それにもかわらず、投資CFは前年に対して325%の進捗率です。3倍超のハイペースで現金を支出しています。 私の結論は、「現在のコインベース(Coinbase)は、再び『クリプト・ウィンター』に逆戻りする瀬戸際に立たされている」というものです。投資家の方々が目前となった2025年(FY25)3Qの決算で注目すべき点は、コインベース(Coinbase)が「会計上の利益ではなく、本業の営業キャッシュフローがプラスに転じることができるかどうか」ということです。これこそが同社の真価を決定づけることになるでしょう。
コインベース(Coinbase)の現金の出入りを確認するために、同社のキャッシュフロー計算書を見てみましょう。
企業が本当に価値を生み出しているかどうかを測るものさしが、投下資本利益率(ROIC)です。これは、事業に投じた資本(株主資本と有利子負債の合計)に対して、どれだけのリターンを生み出しているかを示す指標です。Faber Companyは無借金であるため、ROICは自己資本利益率(ROE)とほぼ同じ、約10.4%となります 24。一方、株主がこの会社に期待するリターン(資本コスト、WACC)は、日本の小型ハイテク株のリスクを考慮すると、年率8%程度と見積もるのが妥当でしょう。ROIC(約10%)がWACC(約8%)を上回っているため、同社は株主のために価値を創造していると言えます。この差が大きければ大きいほど、より効率的に価値を生み出していることになります。現時点ではその差は大きくありませんが、事業が成長するにつれて、この差が拡大していくことが期待されます。
これまでの詳細な分析を踏まえ、私の株式会社Faber Companyに対する最終的な投資判断は**「買い」**とします。ただし、それは現在の株価水準(1,150円前後)を前提としたものであり、ここから大きく上昇した場合は、十分な安全余裕が確保できなくなるため、判断は変わる可能性があります。
成長途上の若いテクノロジー企業が配当を始めるというのは、非常に力強いメッセージを発しています。多くの成長企業は、「稼いだ金はすべて事業に再投資するのが最善だ」と主張し、配当を出しません。しかし、Faber Companyは、事業の成長に必要な投資を行った上で、なお株主に還元できるだけの余剰資金が生まれる、と宣言しているに等しいのです。これは、経営陣が自社の将来のキャッシュフローに対して絶大な自信を持っていることの表れです。また、手元にある現金をすべて使い切るのではなく、一部を配当として外部に支払うことで、社内の投資案件をより厳しく吟味せざるを得なくなります。これは、資本に対する規律を経営陣に課すことにも繋がります。株主の利益を重視する、オーナー経営者的な思考の表れであり、私はこれを高く評価します。
コインベース(Coinbase)の営業CFは、本業である暗号資産の取引手数料などで稼いだ現金のことです。営業CFは「本当の姿」を映し出す最も重要な指標で、プラスになればなるほど、その会社は優秀ということになります。 通期ベースのデータを見ると、2021年(FY21)は4,038百万ドルでした。しかし、本業で現金を稼げなかった2022年(FY22)は、1,585百万ドルという大幅マイナスに転落しています。ただ、翌年の2024年(FY24)には2,557百万ドルのプラスに転じています。コインベース(Coinbase)の営業CFは、非常に浮き沈みの激しい動きを示してきました。 問題は2025年(FY25)に入ってからのコインベース(Coinbase)の営業CFです。2025年(FY25)上半期(1Qと2Q)の合計は、わずか145百万ドル(△183百万ドル + 328百万ドル)です。これは2024年(FY24)の通期実績2,557百万ドルに対する進捗率が、わずか5.7%という極めて深刻な状況です。 言い換えると、損益計算書の当期純利益が大きく見えても、それは会計上の利益で、2025年(FY25)に入ってからは、本業が現金をほとんど生み出していない状態ということです。これはとても危険な兆候です。
Faber Companyのようなソフトウェア企業にとって、最も価値のある資産は、貸借対照表(バランスシート)にはその真の価値が記載されていません。彼らの持つ有形固定資産はごくわずかです。本当の「工場」は、目に見えないところにあります。
大手IT企業:オービック(4684)や日本オラクル(4716)といった巨大企業も競合となり得ますが、彼らが主戦場とするのはより大規模で広範なエンタープライズ領域であり、Faber Companyのような専門特化したプレイヤーとは顧客層が異なると考えられます 15。
私は2025年(FY25)3Qの売上高を182,500百万ドル、営業利益は21,800百万ドルと、引き続き2桁成長を見込んでいます。市場が期待しているのは、生成AIの普及によって、ますます多くの企業がAmazonのクラウドサービス「AWS」を利用するようになることです。そしてEコマース事業の収益性がさらに改善して、より安定的に利益を生み出す「稼ぎ頭」であり続けることです。
投資CFは、将来の成長のために、設備投資や他社の買収に使った現金のことで、一般的に成長企業ではマイナスになります。コインベース(Coinbase)の投資CFは、2024年(FY24)がマイナス282百万ドルと、投資を抑制していました。ただ、2025年(FY25)に入ると、上半期(1Qと2Q)の合計は、マイナス917百万ドル(△232百万ドル + △685百万ドル)となっており、2024年(FY24)の通期実績であるマイナス282百万ドルに対する進捗率は、わずか半年で325%に達しました。 コインベース(Coinbase)は、2025年(FY25)に入って本業で現金が稼げていないことから、営業CFの進捗率が対前年比でわずか5.7%にもかかわらず、投資CFの進捗率は325%と、3倍超のペースで支出を急増させています。これは極めてアンバランスな状態です。
Faber Companyの強みは、ソフトウェアと人的な専門知識を組み合わせ、単なるツール屋ではなく「課題解決パートナー」としての地位を築いている点にあります 8。彼ら自身がマーケティングの実践者として培ってきたノウハウが、そのサービスの説得力を高めているのです 17。
創業者主導の経営:Faber Companyは、2005年に古澤暢央氏によって設立されました 11。彼の経歴は非常に興味深いものです。彼はエリートビジネスマンではなく、かつてリストラを経験し、生活のために自らSEOやアフィリエイトを実践する中でそのノウハウを体得した、現場上がりの「職人」です 22。このような創業者の原体験は、会社の文化に深く根付いています。机上の空論ではなく、顧客の痛みを理解し、実践的な解決策を提供しようという姿勢は、ここから生まれているのでしょう。
私はマーケットの短期的な動きを予測しようとはしません。それは時間の無駄だと考えています。良いビジネスを、公正な価格で見つけた時に買う。そして、そのビジネスが素晴らしいものであり続ける限り、ずっと持ち続ける。それが私のやり方です。したがって、もしFaber Companyへの投資を決めるのであれば、現在の株価は買付を開始するのに妥当な水準です。一度に全額を投じるのではなく、市場が気まぐれを起こして株価がさらに下落するような機会があれば、喜んで買い増せるように、何回かに分けて段階的にポジションを構築していくのが賢明でしょう。


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