
ドル/円の11月見通し 「円安地合い継続の公算」
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト 神田卓也
ドル/円 の基調と予想レンジ
基調
上値試し
予想レンジ
149.500-158.000
ドル/円10月の推移
10月のドル/円相場は146.583~154.448円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約4.1%上昇(ドル高・円安)。7月の約4.7%に次いで今年2番目の上昇率となった。1日、米上院でつなぎ予算が成立せず政府機関の一部閉鎖が決まったことでややドル安に傾く中、米9月ADPの下振れを受けて146.58円前後まで下落した。しかし、4日に行われた自由民主党の総裁選挙で高市氏が勝利すると6日の取引開始と同時に円売りが強まり150円台へと上伸。その後も高市トレードの円売りが優勢で7日には2月以来の152円台を回復し、9日には153円台に乗せた。10日には153.27円前後まで上昇する場面もあったが、公明党の連立離脱と米中間の貿易摩擦再燃によって反落。その後、調整地合いは1週間続いたが、17日に自民党と日本維新の会の連立協議が進展したことで高市総理誕生の可能性が高まると再び円安基調へと転換した。21日の臨時国会で高市氏が第104代首相に選出されると152円台を回復。高市首相が所信演説を行った24日には153円台を回復した。さらに、29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)と30日の日銀金融政策決定会合を経てドル高・円安が進むと、10日に付けた153.27円前後を更新。FOMCは予想通りに25bp(0.25%ポイント)の利下げを決めたものの、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が12月の追加利下げ観測を強くけん制。30日の日銀金融政策決定会合では利上げが見送られた上に、植田総裁の慎重姿勢を背景に12月利上げの期待が後退したことから154.45円前後まで上伸して2月以来の高値を付けた。
ドル/円 日足チャート

ドル/円10月の四本値
始値 147.782 高値 154.448 安値 146.583 終値 154.059
1日
米上院で新年度予算案に承認の目途が立たない中、つなぎ予算も不成立となったことから政府機関の閉鎖が決定的となった。そうした中で、米9月ADP全国雇用者数は前月比3.2万人減となり、市場予想(5.4万人増)に反して減少。前回8月分は5.4万人増から0.3万人減へ下方修正された。
3日
植田日銀総裁は「中心的な見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げる」と従来のフレーズを繰り返した。ただ、米国経済を中心に「不確実性は残る」とし、「まずは緩和環境を維持し経済を支えることが大切」、「当面は(動向を)点検していく」と述べて早期の利上げに慎重な姿勢を滲ませた。その後の会見でも、米国の関税政策の影響について「不確実性は依然としてかなり大きなものが残っている」と警戒感を示した。また、利上げが遅れることでインフレの制御が困難となる「ビハインド・ザ・カーブ」に陥るリスクについて、総裁は「今のところその可能性が高いとはみていない」と述べた。米9月ISM非製造業景況指数は50.0と市場予想(51.7)を下回り、8月の52.0から低下。構成指数では仕入価格が69.4と8月(69.2)から上昇した一方で、新規受注は56.0から50.4に低下した。
6日
前週末4日の自民党総裁選で緩和的な財政政策と金融政策を志向すると目されていた高市氏が勝利。週明けの東京市場で株高と円安が大幅に進んだ。
10日
公明党は自民党との政策協議の後に連立政権から離脱すると発表。少数与党である自民党の高市総裁が首相に就任できない可能性が高まったとの見方から「高市トレード」の円売りが急速に巻き戻された。トランプ米大統領は、中国が前日にレアアース(希土類)の輸出規制強化を発表したことに反発し、対中関税の大幅な引き上げを検討すると警告した。
15日
米国のベッセント財務長官は日本メディアに対し「日銀が適切に金融政策を運営し続ければ、円相場は適正な水準に落ち着くだろう」と発言。事実上の円安けん制と市場に受け止められた。
17日
日本維新の会の藤田共同代表は「自民党と維新の連立協議は大きく前進した。最終の詰めを行っていく」と発言。翌週21日の首班指名選挙で第104代首相に自民党の高市総裁が選ばれる可能性が高まった。
21日
臨時国会で首相に選出された高市氏は就任後初の記者会見を行い、物価高対策を含む経済対策を最優先する考えを強調。一方で「金融政策の手法は日銀に委ねられる」「コミュニケーションは良くしてゆきたい」などと述べて金融政策への関与については踏み込んだ発言を控えたが、市場では日銀が30日の金融政策決定会合で利上げに踏み切るとの見方が大きく後退した。
22日
新財務相に指名された片山氏は「今年度補正予算の規模を論じるには少し早い」とした上で、「補正予算は目的を達するために十分な規模が必要だ」と語った。また、日銀の金融政策については「具体的な手法は日銀に任せると首相も発言している」と述べるにとどめ、為替動向についても具体的なコメントは避けた。
24日
米労働統計局は、政府機関閉鎖の影響で発表が遅れていた米9月CPIを発表。9月CPIは前年比+3.0%と市場予想(+3.1%)を下回った。食品とエネルギーを除いたコアベースでも前年比+3.0%と予想(+3.1%)を下回り、伸び率は前月の+3.1%から鈍化した。
27日
来日中のベッセント米財務長官が片山財務相と会談。片山氏は会談後に、日銀の金融政策については「直接的な言及はなかった」としたほか、為替についても「機微にわたる話は出なかった」と説明した。
28日
米財務省は前日の日米財務相会談について声明を発表。「ベッセント長官は片山財務相と為替について協議した」とした上で「長官はインフレ期待を安定させ為替レートの過度な変動を防ぐ上で健全な金融政策の策定と対話が果たす役割を強調した」と明らかにした。
29日
米連邦公開市場委員会(FOMC)は市場予想通りに政策金利を4.25-4.00%から4.00-3.75%へと25bp(0.25%ポイント)引き下げた。声明では「最近数カ月で雇用の下振れリスクが高まった」と指摘し警戒感を滲ませた。25bpの利下げは10人のメンバーの賛成による決定で、ミラン理事が50bpの利下げを主張し、カンザスシティー連銀のシュミッド総裁が据え置きを主張してそれぞれ反対票を投じたことも明らかになった。FOMCは量的引き締め(QT)を12月1日で終了することも合わせて決定した。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は会見で「入手可能なデータによると、労働市場は徐々に冷え込んでおり、インフレは依然として高い状況にある」と発言。その上で、「12月会合での追加利下げは既定路線ではない。そう呼ぶ状況からは程遠い」、「不確実性が非常に高い状況下では、今後の動きについて慎重な姿勢が求められる」と述べて12月の追加利下げを9割方織り込んでいた市場をけん制した。
30日
日銀は大方の予想通りに政策金利を0.50%に据え置いた。7対2の賛成多数で据え置きを決定したことが声明で明らかになった。なお、高田委員と田村委員は前回に続いて0.75%への利上げを主張したが否決された。その後、植田総裁は記者会見で「中心的な見通し実現の確度は少しずつ高まっている」としながらも「利上げの是非やタイミングは現時点では予断を持っていない」と発言。その上で「見通し実現の確度は少し上昇したが、緩和度合いの調整(利上げ)にはもう少しデータ等を確認したい」と述べて従来の慎重姿勢を維持した。ベッセント米財務長官が日銀の利上げの必要性に言及していたことなどから市場にくすぶっていた利上げ期待が後退した。
各市場 10月の推移

11月の日・米注目イベント

※米経済指標は、米政府機関の一部閉鎖の影響から、当初の予定通りに発表されないものがあります。
ドル/円の11月見通し
10月に「責任ある積極財政」を掲げて発足した高市政権は、物価高対策を含む経済対策を早期に策定する考えで財政拡張は避けられない見通しだ。片山財務相などが、財政規律にも一定の配慮を示していることから、長期金利の上昇(債券売り)を伴う「悪い円安」が進む可能性は低いと見るが、株高や日銀の利上げ観測後退による「円キャリートレード」を止められる公算は小さいだろう。なお、高市首相は金融政策について「最終的な責任は政府が持つべき」と述べるにとどめ、そのスタンスを明確には表明していないように見える。ただ、2013年にデフレからの脱却と持続的な経済成長の実現に向けて政府と日銀が表明した政策協定、いわゆるアコード(共同声明)については、「直ちに見直しが必要とは考えていない」と明言していることから、日銀に利下げを迫る考えこそないものの、利上げに睨みをきかせる姿勢は維持していると見るべきだろう。 一方、米国では予算切れに伴う政府機関の一部閉鎖が続く中、主要経済指標の発表が止まっており、米連邦準備制度理事会(FRB)による手探りの金融政策運営が続いている。労働市場の下振れリスクは小さくないとの見方が強いが、それを明確に示すデータが得られないだけに、大幅な利下げには踏み切れない状況だろう。そうした中で、パウエルFRB議長は10月の連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で次回12月の利下げは既定路線ではないと明言した。これによって米金利先物の12月利下げの織り込みはやや後退したものの、依然として25bp(0.25%ポイント)の利下げを約7割織り込んでいる。これはドル安の余地が限られる一方、依然としてドル高の余地があることを意味していよう。今後、米政府閉鎖が解除され、止まっていた主要経済データが発表された上にそれらが相次いで景気後退の兆候を示せば話は別だが、11月もドル高・円安が進みやすい地合いが続くことになりそうだ。
株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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ただ 米国の円安牽制で円買いに振れやすく ドルの重石となりそうだ
8月の米ドル/円相場は、例年通り円高が進む展開*1となった。1日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)で当面の利上げ継続が示唆されたことを受け、112円15銭まで上昇したが、ここが高値となり、その後は解決の糸口が見えない米中間の貿易摩擦に加え、対米関係が悪化したトルコの通貨リラの暴落を受け、リスク回避の動きが強まることとなった。円高は米ドル/円だけでなく、ユーロ/円や豪ドル/円といったクロス/円でもじりじりと進み、20日の海外市場でトランプ米大統領がFRB(米連邦準備理事会)の利上げ政策を批判すると一段安となり、月中安値となる109円78銭(21日)をつけた。一方で、好調な米国経済と米長期金利の安定を背景に、米国株(S&P500、ナスダック)は史上最高値を再度更新。日経平均株価も月央からは反転・上昇となり米ドル/円相場の下支えとなった。月末にかけては、英国のEU離脱問題に対する楽観的な見方*2から英ポンド/円が大幅に上昇し、米ドル/円は一時111円台後半まで押し上げられた(29日)。しかしながら9月に入ると、北海道胆振東部地震の影響を受けた日本株安や、トランプ大統領の対日通商政策に係る報道*3で再び売られ、110円台へ下落。結局110円80銭近辺で、指標の発表を迎えることとなった。 事前予想は、「失業率」が3.8%(前月3.9%)、「非農業部門雇用者数」が+191千人(前月+157千人)、「平均時給」が+0.2%(前月+0.3%)であった。
調整売りの加速で豪ドル円が心理的節目の100.00を下方ブレイクする場合は、21日線のトライを意識したい。この移動平均線は現在、99.40レベルへ上昇している。直上の99.50レベルは10月6日以降、レジスタンスとしてもサポートとしても意識された経緯がある。99.40-50レベルもまた、サポートゾーンとして相場を支える可能性があろう。
101円のサポート転換と102円のトライ 日銀の年内利上げに不透明感が漂う中で、豪RBAの利下げ期待が後退する状況は、豪ドル円(AUD/JPY)の下支え要因となろう。
「米ドル/円のチャートは、104円台半ばをつけた3月の年初来安値から、現在週足で2段上げの状態にあり、次の上昇波で昨年11月の高値である、114円台半ばを試す可能性も秘めている」と前稿で記載したが、月足では、2015年6月の125円台と2016年6月の99円台を頂点とする三角保合い*5を上抜けつつあり、月足で年内110円が守られれば、2019年は円安トレンドを造りそうな形である。
豪ドル円が上昇トレンドを維持する場合、目先の焦点はレジスタンスラインとして意識されている101.00の突破とサポート転換だ。
100円ブレイクなら2つの移動平均線が視野に 3日のIG週間為替レポートで指摘したとおり、現在は円安が日米間の政治問題に浮上しつつある。円安が軸となりドル円(USD/JPY)の上昇が拡大する場合は、日米両政府からの円安けん制とそれに伴う突発的な円高を警戒したい。
一方、先月はトルコリラや南アフリカランド等の新興国通貨急落といった事象もあったが、リスクオフ(円高)の根本は、トランプ大統領の通商政策である。米中間の追加関税・それに対する報復関税に終わりが見えない中、9月7日から日本との貿易協議が始まったが、早速トランプ大統領は「日本に対しても強硬姿勢で臨む構え(7日)」、「合意に達しなければ日本は大変な問題になる(8日)」と日本側をけん制した。20日の自民党総裁選で3選が確実視される安倍首相との日米首脳会談が25日に予定されているが、少なくともそれまではけん制を続けることが予想され、市場は円高リスクを払しょくすることはできないであろう。しかしながら、一方的な円高になるかといえばそうでもないのが為替市場である。「(中国が主な標的とみられる)鉄鋼とアルミニウムに輸入関税を課す」と最初に発表されたのは3月初めである。当時106円台であった米ドル/円は、その後米中貿易摩擦が激化する中で、4月以降はドル高・円安地合いとなり、足下では111円台となっている。上述のトランプ大統領の対日強硬発言も、直後はドル安・円高材料としてとらえられるも、徐々にその反応は小さくなり、連続安となっていないことから、過度に材料視する必要はないと考えている。
豪ドル円(AUD/JPY)の下落局面では、100円の維持が焦点となろう。上の水準には現在、10日線が上昇している。1時間チャートの100.50-60レベルと100.25-30レベルはフィボナッチ・リトレースメントとともにサポートゾーンを形成する可能性がある。レポート掲載時点では、前者の100.50-60ゾーンの攻防にある。
この後の海外市場は米金融政策にらみ。米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利下げがほぼ織り込まれているが、パウエル議長が今後の政策方針でハト派色を弱めればドルに買戻しが入りやすい。また、米中摩擦回避も引き続き材料視され、ドル買いを支援しよう。一方、日銀は明日の政策決定で政策金利引き上げは見送る公算で、円売り地合いが続くだろう。ただ、米トランプ政権がドル安・円高を模索しているもようで、ドル・円の上昇は限定的となりそうだ。
29日の欧米外為市場では、ドル・円は伸び悩む展開を予想する。米国の追加利下げは織り込み済みだが、今後の政策方針についてハト派色を弱めればドル買い先行。ただ、米国の円安牽制で円買いに振れやすく、ドルの重石となりそうだ。
主要通貨ペア(ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円、ポンド/円)について前営業日の値動きをわかりやすく解説し、今後の見通しをお届けします。
1時間チャートのRSIとストキャスティクスが「売られ過ぎ」の水準へ到達後、今回取り上げた下値の水準をトライする局面では、豪ドル円が反発する可能性を意識したい。
昨日のドル/円は、先月1日以来の149円台を回復する場面もあったが、米7月JOLTS求人件数の減少を受け一転して147円台に下落。約0.2%安の148.10円前後で取引を終えた。足元の市場では、日本の政局不透明感を背景とする円売りと、米国の労働市場悪化を意識したドル売りが交錯している。昨日、自民党の麻生最高顧問は総裁選の前倒し要求を正式に表明し、「石破おろし」の旗幟を鮮明にした。総裁選前倒しの是非を党として判断する8日に向けて円が売られやすい地合いが続きそうだ。一方、昨日の7月JOLTS求人件数も含めて、米国の労働市場に関するデータはこのところ弱めの結果が目立つ。本日の8月ADP全国雇用者数の市場予想は6.8万人増、明日の8月非農業部門雇用者数も7.5万人増の予想にとどまるなど、市場の期待値は低い。ドル安地合いも継続しそうだ。本日のドル/円は、20日移動平均線(147.63円前後)付近がサポート、200日移動平均線(148.82円前後)がレジスタンスと見ており、148円台中心の値動きが予想される。
前日発表された米消費者信頼感指数は予想を上回り改善を示したが、連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利下げを確実視した米金利安・ドル安の地合いとなった。ユーロ・ドルは1.1620ドルから1.1650ドル台に浮上し、ドル・円は152円30銭台から151円後半に失速。本日アジア市場で米国側の金融政策への言及で円買いが強まり、ドル・円は151円半ばに下落。ただ、日本株高による円売りが相場をサポートしている。
豪ドル円が102円台へ上昇する場合は、日足チャートのフィボナッチ・エクステンション100%の水準102.80レベルを視野に上昇拡大を想定したい。102.50レベルの突破は、102.80をトライするサインと捉えたい。


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