アメリカ 雇用統計の予想と戦略「過去分されど雇用統計、政府機関再開なら早々に9月分データ発表の可能性も」2025年11月号-By 外為どっとコム総研 #外為ドキッ
はじめに-政府機関再開早々に9月分雇用データ発表か
執筆日時:2025年11月12日 13時00分
執筆者 :株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
米連邦政府の閉鎖を終わらせるためのつなぎ予算案が米上院で賛成多数により可決され、舞台は下院へと移っています。その下院も12日に審議を行い、最初の表決は早ければ東部時間午後4時(日本時間13日午前6時)に行われる可能性があります。順調に進めば、13日から政府閉鎖が解除され、職員が職場へ復帰することも考えられます。
次に問題となるのは、これまで発表されてこなかった経済指標の取り扱いです。9月分の雇用統計はデータ集計がほぼ完了しており、発表直前で取り止めとなった経緯から、他のデータに先んじて14日(現時点では政府再開時期も雇用データ発表時期も未定です)にも発表される可能性はあります。
民間会社からはすでに最新の雇用データが発表されており、いまさら感はあるものの、データの内容次第では相場の波乱要因となるため、注意が必要です。「リスク管理の利下げ」として9・10月に0.25%の利下げに踏み切ったFRBの行動を裏付けるものとなるのか、あるいは市場に12月の利下げを織り込ませる材料となるのか、注目されます。
少し間が空いたため、まずは簡単に8月の振り返りから始めましょう。
前回のおさらい-利下げ再開観測が急上昇
・政府部門はマイナス
9月5日に発表されたアメリカの8月非農業部門雇用者数(NFP)は、市場予想の7.0万人に対して2.2万人と、予想を大幅に下回る結果となりました。7月分は小幅に上昇修正されましたが、6月分はさらに下方修正され一段と弱い結果になりました。内訳では、これまで雇用を支えていた教育・ヘルスケアが4.68万人にとどまったほか、製造業分野も雇用が減速しました。加えて、政府部門も-1.6万人となりました。また、失業率は4.3%へ悪化しました。
結果を受けて、「CMEのFedWatchツール」では、9月・10月・12月(実際に9月・10月に0.25%ずつ利下げ)のFOMCでそれぞれ0.25%の利下げが実施されるとの見方が再びコンセンサスになりました。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)※出所:データ米国労働省

各市場の反応
【為替市場】
米労働市場の減速を受けて、米ドル/円は147.95円付近から147.19円付近まで急落。その後も売り圧力が強い中、NY中盤には146.819円まで下げ幅を広げました。そこからは押し目買いも散見され、米ドル/円は147.50円付近まで戻しました。米10年債利回りは一時4.067%付近まで低下しました。
【株式市場】
労働市場の軟化を受けて、FRBの大幅利下げ観測を好感して買いが先行したものの、後半は米経済成長のペース鈍化不安が意識されて、反落しました。
- ダウ平均:前日比 -0.48%(-220.43)で45,400.86ドル
- ナスダック総合:前日比 -0.03%(-7.30)で21,700.39
- S&P500種:前日比 -0.32%(-20.58)で6,481.50
【金市場】
米金利低下・株安の中で、安全資産とされる金に買いが集まりました。スポット価格は3,600ドルを一時付けました。
図表2.前回発表前後のドル円の動き
米ドル/円 5分足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
今回の見どころ-インパクトは限定か
・民間調査を信じるならさえない結果に
・失業率は四捨五入で上振れも
Indeed job postings indexや雇用動態調査(JOLTS)を踏まえると、企業側の採用意欲は低水準のままのようです。こうした中で、民間のADP雇用統計では、9月に-2.9万人(初回値の-3.2万人から修正、市場予想は5.0万人)に落ち込むなど、労働市場の鈍化が示唆されています。9月NFPが冴えない内容となるほか、8月分が下方修正されマイナス圏へ沈むようなら、労働市場への不透明感が高まる可能性があります。
図表3.雇用者数変化に関連するデータ

出所:各種公表データを基に外為総研が作成
しかし、新規失業保険申請件数は概ね横ばいだったほか、一部の分野では採用意欲の回復を示す報告も見られていたため、9月分のNFPは控えめながらも体裁は保ったのではないでしょうか。ちなみに、調査会社リベリオラブズは9月のNFPは3.0万~3.8万人程度との予測を示しているようです。
とはいえ、安定的な雇用創出に要するとされる新規雇用者数(ブレークイーブン雇用者数)が5万人程度へ低下していると見られる中、その後に発表された民間の雇用データは決して好調とは呼べず、労働市場が底を打った様子は確認できていません。9月分がまずまずの結果だったとしても、労働市場への不安が後退するには至らず、12月利下げ期待はくすぶったままになるでしょう。
図表4.求人件数に関連するデータ

出所:各種公表データを基に外為総研が作成
また、失業率については、シカゴ連銀が算出するリアルタイム失業率は4.34%となっており、四捨五入すれば4.4%とみなされる可能性があります。これらの点を踏まえると、今回の雇用統計は米労働市場への安堵感を高める材料にはなりづらく、引き続き雇用情勢への警戒を促すことになると考えます。
今回の雇用統計はマーケットインパクトが限定されると考えるものの、先ほどの理由から、上向きの動きは限定されると予想されます。一方で、失業率の悪化ペースが想定以上に早ければ、米国の成長ペースに対する不透明感やFRBの利下げ期待も重なり、米政府機関再開を喜ぶ間もなく、米ドル/円は上値の重い展開となる可能性があります。
図表5.失業率に牽連するデータ

出所:各種公表データを基に外為総研が作成
図表6.ドル/円チャート

米ドル/円 日足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
付随データ
図表7.[雇用統計の実績と予想]
| 年月 | 非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||
| 予想値 | 初回結果 | 予想値 | 初回結果 | |
| 2025年09月 | 5.0※ | – | 4.3※ | – |
| 2025年08月 | 7.0 | 2.2 | 4.3 | 4.3 |
| 2025年07月 | 10.4 | 7.3 | 4.3 | 4.2 |
| 2025年06月 | 11.0 | 14.7 | 4.3 | 4.1 |
| 2025年05月 | 13.0 | 13.9 | 4.2 | 4.2 |
| 2025年04月 | 13.0 | 17.7 | 4.2 | 4.2 |
| 年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
| 予想値 | 初回結果 | 初回結果 | |
| 2025年09月 | 0.3※ | – | – |
| 2025年08月 | 0.3 | 0.3 | 62.3 |
| 2025年07月 | 0.3 | 0.3 | 62.2 |
| 2025年06月 | 0.3 | 0.2 | 62.3 |
| 2025年05月 | 0.3 | 0.4 | 62.4 |
| 2025年04月 | 0.3 | 0.2 | 62.6 |
◇関連の経済データ実績
| 年月 | ISM製造業雇用指数 | ISM非製造業雇用指数 |
| 2025年09月 | 45.3 | 47.2 |
| 2025年08月 | 43.8 | 46.5 |
| 2025年07月 | 43.4 | 46.4 |
| 2025年06月 | 45.0 | 47.2 |
| 2025年05月 | 46.8 | 50.7 |
| 2025年04月 | 46.5 | 49.0 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
※9月予想値は、10月2日時点のもの
▼米雇用統計関連配信 番組紹介はこちら
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アメリカのもう一つの特徴は 「短期雇用でも稼げる社会」です
ちなみによく誤解されるのが、アメリカのこの仕組みと文化をとりあげて、「世界では解雇が簡単なのに日本では難しい」、と言われたりします。けれどもそれは大きな誤解で、日本よりも解雇が難しい国の方が多かったりします。解雇規制緩和派が言いたいのは、世界、ではなく、アメリカ、と比べての話である点に注意しましょう。そしてそれは、企業価値を高めていくためには重要な視点でもあります。
9月5日(金)にアメリカで2025年8月の雇用統計が発表される。米連邦公開市場委員会(FOMC)の金融政策運営に影響を与える重要指標で、市場関係者の関心は高い。この記事では、QUICK Money Worldの関連記事を中心に雇用統計のスケジュールや市場の予想などを解説する。
日本では「雇用=人生の基盤」で、転職は慎重に、正社員は一度入れば一生安泰…という感覚がまだ残っています。でもアメリカでは、働くということは「市場との契約」です。だから、契約が増えればそれだけ企業に熱がある、と判断できるわけです。これが“雇用統計=株価のナビゲーター”になる理由です。
実は私は人事コンサルタントですが、なぜか大学院はファイナンス研究科で修士号を取得していたりします。その理由は、人事と企業価値との関係性を解きほぐすため。そのあたりの話はまたいずれ書くとして、今回は、アメリカで通用している雇用統計と株価の関係、そしてこれからの日本の人事の仕組みのお話をしてみます。
だから、アメリカの雇用統計は「景気の温度計」というよりは「マーケット(専門家たちの予測)対現実の答え合わせ」として機能しているわけです。もちろんその結果として、株価のナビゲーターにもなっています。
これが、アメリカで雇用統計が「マーケット(専門家たちの予測)対現実の答え合わせ」として成立している理由なのです。
最近知られてきていることですが、アメリカの雇用では法律的にも文化的にも、「随意雇用契約(At-will employment)」が基本になっています。これは世界でも特殊な考え方で、仕事がなくなれば即日解雇もあり得るし、景気が良ければすぐ求人を出す仕組みであり、そういうマインドです。つまり雇用者数の増減は、そのまま企業の“経済的な決断”の数値化として機能する仕組みと文化があるわけです。
アメリカのもう一つの特徴は、「短期雇用でも稼げる社会」です。エンジニアでもコンサルタントでも、3カ月のプロジェクト単位で2万ドル、3万ドルという報酬で契約することもあります。無理にフルタイムで雇用されなくても、稼ぐだけなら短期雇用の方が都合がいい場合すらあります。職種にもよりますが、“成果を出せるスキルがあれば、その時間だけ高く売れる”のが常識になっているわけです。
で、なぜそれが答え合わせになるのかというと、アメリカという国は、企業が景気に合わせて即座に人を雇ったり、解雇したりできる仕組みを持っているからです。
こんにちは、平康慶浩です。あるとき、クライアントにこんな質問をされました。「先生、アメリカの雇用統計が変動したら、株価に影響が出るじゃないですか。ということは、雇用が増えたら景気が良いってことですよね?それって株価も上がるってことですよね?」確かに、一見すると正論です。


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