スマホで公営ギャンブル 借金重ね
いつだって、自分のポケットのなかにはスマホがあった。バイト先の先輩にパチスロを教わり、簡単に金を手にすることができてから、スマホのディスプレーを通じて、中央競馬、地方競馬、そしてオンラインカジノと、破滅への道がつながっていった。
田中代表は「競馬場や競輪場に足を運んだこともない若いサラリーマンや公務員が、スマホで何百万円もギャンブルにつぎ込む事例もある」と警鐘を鳴らす。
精神科医として北九州市の病院に勤務した1990年代、アルコール依存症の患者の多くがギャンブル依存症でもあることに気付いた。何千万円もの借金を抱え、犯罪に手を染めたり、家族との関係も破綻したりと問題の根深さを感じた。
関西地方の30歳代男性は数年前、信号待ちでもスマホを開くほど競馬のオンライン投票にはまり、借金を重ねた。
バブル崩壊から低迷していた公営ギャンブルは、24年の売り上げが8兆円を超えてバブル期のピークに迫る。古林英一・北海学園大教授は「オンライン投票とスマホの普及が追い風になった」と指摘する。
こうして借金が雪だるま式に膨らみ、会社の金を横領したり、備品のパソコンや自社の商品を盗んで売りさばいたりする人が出てくる。
時も場所も選ばず、24時間365日、入場無料のギャンブルに耽溺できる環境がスマホやPCのなかから手招きして、依存予備軍の報酬期待をあおり続けている。しかも、法的に「クロ」のはずのギャンブルが、現時点では「シロ」と扱われる矛盾を抱えたままに。
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京都)が今年5月、オンライン投票をきっかけに依存症になった当事者193人にアンケートしたところ、のめり込んだ理由の最多は「早朝から深夜までレースがあった」。「クレジットカードで入金できた」「スマホのキャリア決済などで払えた」という回答も多かった。
依存症当事者の多くは、美恵さんの夫のように身近にいる同僚や取引先に借金を重ねる。
早朝の会社に忍び込んだセイタは、2度にわたって部費9万円を盗み出した。負けたら本当に終わり。生きるか死ぬかのバカラ勝負に突っ込んだ。喫茶店のテーブルで、一心不乱に、スマホのなかでカードをめくり続けると、うまくいい波をつかまえることができて、持ち金は12万円にまで増えた。
さらに当事者が闇金業者から借金すると、業者がひっきりなしに職場へ電話を掛けて返済を迫り、業務にも支障を来すようになる。
ある男性患者は、パチンコにはまり、自営業の店の金を盗み、取引先からも借金を重ねた。帚木さんが入院治療を勧めると、入院直前まで「悔いの残らないように」とパチンコを続けるような状態だったが、相手を批判せず「言いっ放し、聞きっ放し」を原則とする自助グループに通ううちに、自分を客観視できるようになり、少しずつ回復。退院後は自ら患者のグループを作り、似た境遇の患者らに体験談を語り、治療を勧めるまでになったという。
冷静な口調でセイタを諭すと、その日のうちに、会社から盗んだ金、それに消費者金融やクレジットカードの借金分を、セイタの口座に振り込んでくれた。久しぶりに感じた家族の存在に、なんとかセイタも落ち着きを取り戻した。夕方までには消費者金融やクレジットカードからの借金は一気にきれいになくなり、盗んだ部費も、その日の夜のうちに戻しておいた。


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