
先週末の海外市場でドル円は、日銀が12月の金融政策決定会合で利上げに踏み切るとの見方が強まる一方、米連邦準備理事会(FRB)が12月に利下げを行うとの観測が高まっており、一時155.99円まで弱含んだ。ユーロドルは一時1.0607ドルまで強含んだ。ロンドン・フィキシングに絡んだドル売りのフローも観測された。
本日の東京時間でのドル円は、10時5分から名古屋で行われる、経済界代表者との懇談における挨拶での植田日銀総裁の発言に動意づくことが予想される。
昨年も感謝祭翌日に、植田総裁の日経新聞電子版のインタビューが掲載され「(追加利上げの時期について)データが想定通りに推移しているという意味では近づいているといえる」「インフレ率が2%を超え始めているときに一段の円安になれば、それは中銀にとってはリスクが大きい動きとして、場合によっては対応しないといけなくなる」などと発言した。昨年12月は利上げを実行することはなかったが、今年は利上げに向けて地ならしをする発言が出ると期待されている。
これまでは利上げには反対意見を述べていた高市首相だが、10月末にトランプ米大統領来日時に、ベッセント米財務長官と片山財務相の財務相会談後からは金融政策について発言を控えるようになっている。この会談後すぐに米財務省は「ベッセント長官は協議の中で、アベノミクス導入から12年が経過し、状況は大きく変化していることから、インフレ期待を安定させ、為替レートの過度な変動を防ぐ上で、健全な金融政策の策定とコミュニケーションが果たす重要な役割を強調した」と公式に発表している。植田総裁は「インフレ率が2%で持続的・安定的に着地するよう緩和を調整している」と発言しているが、すでに数年に渡って2%を上回るインフレ率を記録しているにもかかわらず、利上げに動けないのは自民党の政治的圧力ということを米政権も理解していることで、高市政権には利上げを進言したと考えるのが自然かもしれない。よって、本日の講演では利上げへの地ならし発言が出ることが予想され、発言内容次第では円買いが進む可能性もありそうだ。逆に利上げに対して後ろ向き発言となった場合には円安がさらに進みそうだ。
ただし、利上げ期待で円買いが進んだ場合でも一時的になるか。28日には2025年度の補正予算案が閣議決定したが、大型の補正予算案に対し市場は財政不安に懸念を抱いている。高市首相は単年度のプライマリーバランス(PB)の黒字化を取り下げ、数年単位のバランスを確認する方針を示したが、2026年度のPBは黒字予想から赤字へと変わっている。PBの数年単位に関しても「確認する」にとどめ、PBの黒字化は顧みない姿勢となっている。英国ではトラス政権時に、放漫財政を発表すると英国売りに拍車がかかったことで、現スターマー政権は増税に踏み切った。高市政権は国民の支持率が高いとはいえ、放漫財政に対しては海外投資家を中心に日本(円)売りという方向は変わらないだろう。
なお、米連邦公開市場委員(FOMC)を前にして、先週土曜日から米連邦準備理事会(FRB)はブラックアウト期間に入った。明日日本時間10時にパウエルFRB議長の講演が予定されているが、金融政策については言及できないこともあり、今週は9月の公的な指標や民間の経済指標で9-10日のFOMCでの金融政策を占うことになりそうだ。
(松井)
・提供 DZHフィナンシャルリサーチ
市場概況 東京為替見通し日銀総裁の講演に要注目 基本は放漫財政で円安地合いは変わらずか
【ニューヨーク=三島大地】日銀の黒田東彦前総裁は2日、ニューヨークで講演し、「円安は一時的だと思う」と述べた。黒田氏は歴史的な円安が通常よりも企業業績を押し上げている面がある一方、実体経済の力強さを踏まえれば株式市場の活況はバブル期とは異なると指摘した。
また、市場筋の分析では、台湾情勢を巡り日中関係が悪化して、今後1年間に中国からの訪日客数が前年比25%減り、インバウンド消費の減少により、年間の実質GDPを0.36%程度押し下げることで、2期連続マイナス成長の可能性も出てくると指摘されている。
米ドル/円は155.50-157.50円の踊り場の展開を見込むが 基本的な円安・債券安は継続!植田日銀総裁の発言に 注視しつつ金融政策決定会合での利上げ判断を確認!
片山財務相は12日に、「為替相場の動向の経済への影響はプラス面、マイナス面があるが、マイナス面が目立ってきたことは否定しない」「投機的な動向を含め、為替市場の過度な変動や無秩序な動きについて高い緊張感を持って見極めている」と述べ、マイナス面への警戒感を示していた。
円安阻止で政府・日銀にできることは一つしかない。米国のインフレが落ち着き、米連邦準備制度理事会(FRB)が早めに利下げするのを願うことだ。米連邦公開市場委員会(FOMC)は同月12日、年内の利下げ回数の見通しを「1回」とし、これまでの「3回」から減らした。日米の金利差はなかなか埋まらない。米国の物価安定は、日本経済にとっても極めて重要になっている。
野口日銀審議委員の発言に市場が反応!?
発足から1年も経たずして、大きな混乱もなく大規模緩和を解除したのは「見事な手腕」(外資系ファンド)と評価されよう。振り返ってみれば、就任後のハト派姿勢は金融市場を安心させるための“偽装”だったようにも思える。長期金利の誘導目標の引き上げも厳密には「利上げ」だが、あくまでも「技術的な調整」と位置付け、大規模緩和修正の環境整備を行った。結果論ながらも、3月までの政策運営は大成功であろう。


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