
ドル/円の12月見通し 「日銀利上げでも下値限定の公算」
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト 神田卓也
ドル/円 の基調と予想レンジ
基調
強持合
予想レンジ
152.500-159.500円
ドル/円11月の推移
11月のドル/円相場は152.809~157.891円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約1.4%上昇した(ドル高・円安)。米国の景気先行きに対する不透明感などからドル売りがやや先行すると7日に152.81円前後まで弱含んだ。しかし、米国のつなぎ予算案に成立の目途が立ち政府機関の閉鎖が解除される見通しとなったことで10日以降はドルが反発。ジェファーソン連邦準備制度理事会(FRB)副議長、アトランタ連銀のボスティック総裁、クリーブランド連銀のハマック総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁、セントルイス連銀のムサレム総裁らが相次いで追加利下げに慎重な姿勢を示す中、12月利下げの観測が後退したこともドルの追い風となった。ドル/円は、日本政府当局者による円安けん制などを背景に155円前後で伸び悩む場面もあったが19日の片山財務相の発言で円買い介入への警戒感が緩むと一気に157円台へ上伸。20日には約1カ月半遅れで発表された米9月雇用統計を受けて157.89円前後まで上昇し、1月15日以来10カ月ぶりの高値を付けた。ただ、21日にはFOMCの中核メンバーでパウエルFRB議長と考えが近いとされるNY連銀のウィリアムズ総裁が利下げに前向きな考えを示すと、金利市場で12月利下げを織り込む動きが急速に進みドルが反落した。21日の日本経済新聞や26日のロイター通信の報道で日銀の12月利上げ観測が高まったことも相まってドル/円は月末にかけてやや失速したが、高市政権の積極的な財政政策を意識した円売りも根強く155円台では下げ渋った。
ドル/円 日足チャート

ドル/円11月の四本値
始値 153.986 高値 157.891 安値 152.809 終値 156.144
3日
米10月ISM製造業景況指数は48.7と市場予想(49.5)に反して、前月(49.1)から低下。活動拡大と縮小の分岐点である50.0を8カ月連続で下回った。構成指数では仕入価格が低下した一方で、新規受注と雇用はやや上昇した。
5日
米10月ADP全国雇用者数は前月比4.2万人増となり、市場予想(3.0万人増)を上回った。米10月ISM非製造業景況指数は52.4と市場予想(50.8)を上回り、8カ月ぶりの水準に上昇した。構成指数では、新規受注や仕入れ価格が大幅に上昇した。
11日
米ADP社は、民間部門の雇用者が10月25日終了週までの4週平均で週あたり1.125万人減少したとする推計を発表した。
13日
米下院は上院から送付された2026年1月30日までのつなぎ予算案を賛成多数で可決。その後、トランプ大統領が予算案に署名し政府機関閉鎖は過去最長となる43日で解除された。ホワイトハウスは連邦政府職員に対し13日から職場復帰するよう指示したことを明らかにした。
17日
ウォラーFRB理事は「労働市場は依然として弱く、失速寸前の状態」であることから12月の連邦公開市場委員会(FOMC)で25bp(0.25%ポイント)の金利引き下げを支持する考えを示した。一方、ジェファーソンFRB副議長は「インフレの上振れリスクがやや低下する一方、雇用の下振れリスクが高まっている」との懸念を示しつつも、「金利が中立水準に近付きつつあることを踏まえると、金融当局として慎重な対応が求められる」との見解を示した。
18日
片山財務相は閣議後の会見で足元の円安について、「非常に一方的な、また急激な動きもみられて『憂慮』している」と発言。これまでよりも円安けん制のトーンをやや強めた。
19日
植田日銀総裁と片山財務相、城内成長戦略担当は3者会談を開催。片山大臣は会談後に金融政策について「日銀から今まで通りの方針の説明があった」と明かし、「為替について具体的な話はなかった」と述べた。
20日
米9月雇用統計は非農業部門雇用者数が11.9万人増と市場予想(5.2万人増)を上回った一方、失業率は4.4%と市場予想および前回(4.3%)を上回って悪化した。労働参加率が62.4%に上昇しており(前回62.3%)、職探しを再開する人が増えたことが失業率上昇の一因となった。そのほか、平均時給は前年比+3.8%と市場予想(+3.7%)を上回る伸びだった。
21日
米NY連銀のウィリアムズ総裁は「雇用の下振れリスクが高まっている一方、インフレの上振れリスクは和らいでいる」とした上で「政策スタンスを中立に近づけ、2つの使命のバランスを保つために、短期的には政策金利をさらに調整する余地がある」と述べて利下げに前向きな姿勢を示した。一方、日銀の増審議委員は日本経済新聞の取材に対し、利上げ判断が「近付いている」とし、「何月かは言えないが距離感としては近いところにいる」と述べた。翌22日(土)には片山財務相が為替市場について「いざとなったら『断固たる措置』も辞さずということを昨日の朝(の閣議後会見)から申し上げている」と述べて円安けん制のトーンをさらに一段引き上げた。
25日
次期FRB議長をめぐり、トランプ米大統領の腹心であるハセット国家経済会議(NEC)委員長が最有力候補として浮上しているとの報道が伝わった。ハセット氏は今月20日のニュース番組で「自身がFRB議長なら今まさに利下げしているだろう」と述べるなど、金融緩和に積極的な姿勢を示している。
26日
急激な円安をめぐる懸念が再燃し、日銀に低金利を求める政治的圧力が弱まる中、「日銀は12月利上げの可能性に市場を対応させるため、市場への情報発信を調整している」と大手通信社ロイターが報じた。
米新規失業保険申請件数は21.6万件と市場予想(22.5万件)に反して前週(22.2万件)から減少し、4月中旬以来約7カ月ぶりの低水準となった。一方、失業保険継続受給者数は196.0万人となり、予想(196.3万人)を下回ったものの、前週発表分(195.3万人)から増加した。
各市場 11月の推移

12月の日・米注目イベント

ドル/円の12月見通し
11月28日時点で、米連邦準備制度理事会(FRB)が12月9-10日の連邦公開市場委員会(FOMC)にて25bp(0.25%ポイント)の利下げを行う確率は86.4%(Fed Watch)。一方、日銀が18-19日の金融政策決定会合で25bpの利上げを行う確率は57%(東短リサーチ)だ。つまり、現時点において金融政策に関する市場のメインシナリオは「FRBの利下げと日銀の利上げ」であり、このシナリオに基づけば12月のドル/円相場は上値の重い展開となりそうで、下押しの可能性もないとは言えないだろう。もっとも、金融政策の方向性の違いによる日米金利差縮小観測がドル/円の下押し圧力になりにくいことは11月後半の値動きから読み取れる。FRBの利下げ観測が高まり、日銀の利上げ期待が高まった21日以降の下落幅は最大でも2円あまりに過ぎない。市場は高市政権の「責任ある積極財政」を円安要因と見ており、ドル/円相場においてはFRBの利下げ観測を背景とするドル売りの大部分を円売りで相殺しているようだ。他方、日銀の利上げについてはあくまでも「金融緩和の調整」との位置付けであり、インフレを加味した実質金利が大幅なマイナスの状態で名目金利を小幅に引き上げても円安を止める効果は薄いと考えられる。したがって、12月のドル/円相場は少なくとも9-10日のFOMCまでは「高市財政による円先安観」と「FRBの利下げによるドル先安観」の綱引きが続く見通しだ。その後、日銀が19日に利上げを行ってもドル/円相場への影響は限定的な一方、仮に日銀が利上げを見送るようなら円安主導で上値を試す展開となりそうだ。
株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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投機的な円売り・ドル買いも出にくく 持ち高を傾ける動きは限られた
本日のドル円は155円〜157円程度を予想します。
きょう米国は感謝祭の翌日で米株式・債券市場が短縮取引となり、市場参加者が少ないため商いが低調だった。投機的な円売り・ドル買いも出にくく、持ち高を傾ける動きは限られた。
28日は月末で、事業会社の決済が集中しやすい実質的な「5・10(ごとおび)日」にあたる。10時前の中値決済に向けては「ドル不足」(国内銀行の為替担当者)との声があり、相場を押し下げた。
政府は28日、2025年度補正予算案を閣議決定した。一般会計の総額は18兆3034億円と、補正予算の規模としては24年度を上回り、新型コロナウイルス禍以降で最大となった。財務省が27日開いた国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー、PD)会合と国債投資家懇談会では、国債の追加発行について償還までの期間が短い国債を中心に増額する方針が示された。財政悪化が意識されて円売り・ドル買いが出た。
高市政権の発足が日銀の利上げ時期を遅らせるかどうかも焦点です。高市氏は総裁就任後の記者会見で、金融政策の責任は政府にあり、政府と日銀が足並みをそろえる重要性を強調しました。直近では金融政策運営への具体的な言及はなく、日銀批判もしていませんが、少なくとも10月利上げのハードルは上がった印象です。
28日の東京外国為替市場で、円相場は5日ぶりに反落した。17時時点では前日の同時点に比べ20銭の円安・ドル高の1ドル=156円30〜31銭で推移している。高市早苗政権の拡張的な財政政策への懸念が根強く、円売り・ドル買いが優勢だった。月末に絡んで国内輸入企業などが円売り・ドル買いを活発にしたとの観測も相場の重荷だった。
ユーロは対ドルで3日ぶりに反落した。17時時点は同0.0018ドルのユーロ安・ドル高の1ユーロ=1.1573〜76ドルで推移している。


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