「デカセギ」の魅力 薄れる日本

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「デカセギ」の魅力 薄れる日本
[紹介元] Yahoo!ニュース・トピックス – 経済 「デカセギ」の魅力 薄れる日本

わざわざデカセギのため日本に来る必要がないんですよ」

ところが、バブルが崩壊して、日本の失業問題が深刻になり、デカセギ者の収入が激減し、失業者も出てくるにつれ、苦情が一挙に表面化した。

以上、ブラジルの政、労、使の就労者送出の評価は、よく言って中立、端的に言うと無関心で、わずかに経済的な利益と移住者の犯罪、その原因としての教育が問題になっているにすぎず、解決は日本の政府、社会とデカセギ者の個人の努力にゆだねられているというのが、現実であるといえよう。

もう1つは、デカセギ者の多くが、帰国ののち、経験不足からブラジルで事業に失敗する例が多いことを見て、半官半民の団体であるSEBRAE(中小企業援助サービス)が、デカセギ・ファンドと称する基金を創設し、企業化の相談、低利の融資供与のサービスを行っている。

バブル経済のまっただ中で人手が不足していた日本に対し、ブラジルはひどいインフレで経済的に破綻(はたん)していた。「日本で働けば良い暮らしができる」とデカセギを呼びかけ、大勢の日系人を連れてきた。日本で2~3年働き、ためたお金をブラジルに持ち帰り、土地を買って事業を始めたり、アパート経営をしたりして成功した人もいた。

初期のデカセギ者の声、印象を一口で言えば、日本に住み、働くのはつらいことであるが、稼ぎも大きいということであったろう。当時、工場の作業員として高収入を得られるところは、ブラジルにはなかったのである。そのころのデカセギ者は、意外にも高学歴の者も多く、事業の開業資金、マイホーム、農場の購入などを目的とし、数年で目的を達し、ブラジルに帰国する者が多かった。

さて、これに対するブラジルの労働組合、経営者団体の態度は、一口に言えば、“無関心”である。政府の態度も、初めは中立的であったが、やがて2つの点でこの問題に関心を持ち始めた。1つはデカセギの送金する外貨であり、もう1つは在日ブラジル人の若年層の教育問題である。

これによって、デカセギの数は爆発的に増え、入国管理局の統計によると、ブラジル人の外国人登録者数は、1990年の約12万人から2003年には約28万人になった。サンパウロの国外就労者情報援護センター理事長の二宮正人氏によると、この数に、ブラジルに帰国した者の数約14万人を加えると、ブラジルの日系人130万人の約3分の1がデカセギ経験者であるということになる。

一見、様々な苦情が発生しているようであるが、これらの苦情の根本にあるのは、日本語の習得の問題である。日本語が分からなければ、周囲から孤立し、差別されていると感じ、失業保険、社会保険、在留資格手続きやその他の手続きにも支障を来し、対人関係にも円滑を欠くことになる。経済構造の激変により、単純労働を主体とする事業は、中国、東南アジア諸国へのシフトが進行している現在では、日本語ができないデカセギ者は、就職が困難となり、真っ先に人員整理の対象となり、不就学児童も増え、ホームレスも発生する。

しかし、前期のレイス氏の観察と裏腹に、デカセギ者の日本滞在期間が次第に長期化し、7年以上が約50%、5年以上が約65%、3年以上は実に約80%(産業雇用センター調べ)となっている現状から見ると、結局、デカセギ者の多くは、日本に定住する以外に道はなく、その子弟も日本に同化することになるのではないかと見られる。こうなっては、デカセギ者は、出稼ぎではなく、移民としてとらえるのが適当であろう。

事実、帰国デカセギ者の再移住の理由として、かなりの者が子弟の教育を理由に挙げているのは、初等教育課程で日本語で教育を受けた者のブラジル学校での再適応が困難であることを示している。歴史的に見て、世界中どこの国でも、移民は出身国の文化、伝統、特に、その言語を子孫に伝えようと努力するが、結局、その努力は徒労に帰し、移民の子弟はその国に同化するのが趨勢であることを、ブラジル政府も、日本政府も、そして、何よりもデカセギ者が認識しなくてはならないであろう。

しかも、困ったことは、成人に達した日系ブラジル人にとって、一部の異能の人を除いて、全く異なる言語体系に属する日本語の習得は困難である。こうして、デカセギ者は、彼らのコミュニティーをつくり、ポルトガル語を話し、ブラジルの食品を食べ、ブラジルの書籍を買い求め、ブラジルのテレビ番組を見て、パーティーを開く。このデカセギ者を相手とする新聞、雑誌も刊行され、貿易会社、商店も開かれる。

この事実をとらえて、元ブラジル東京総領事で、『日本におけるブラジル人』の著者であるマリア・エディレウザ・フォンチネリ・レイス氏は、「デカセギ」現象は、今日では、恒常的に日本での労働を繰り返す大量のブラジル人によって生じる“循環移住”として把握されるべきものであるとして、「この恒常的な動きは、日本社会における適応と同化の困難さと、旅費の低廉化その他から移動が容易になったことがその要因である」としている。

「中国だけでなく、カンボジアなどでも頭がいい人は、母国でも十分な給料をもらえるようになった。わざわざデカセギのため日本に来る必要がないんですよ」

まず経済面では、デカセギがブラジルに送金する外貨が年間20億ドルに上ることに政府は注目している。このため、官民合同企業であるブラジル銀行は、日本における同行支店にデカセギ者のためのポウバンサ預金(元本がインフレ率にスライドし、その上に一定額の利子がつく庶民向け貯蓄)を創設した。この預金は、日本で預金でき、引き出しは日本とブラジル両国で行え、しかもドル建てであるので、為替の変動による危険から免れ、しかも利子が支払われ、そのうえ、送金の手数料を支払わなくてすむため、デカセギ者の間で広く利用されている。

この問題を放置すれば、デカセギのみならず、日本とブラジルの関係そのものにも悪影響を及ぼすと判断したブラジル外務省は、その原因が教育問題にあることに気づき、やや積極的な対応を見せるようになった。ブラジル外務省サン・パウロ州代表部大使ジャジエル・フェレイラ・デ・オリヴェイラ氏は、「日本の法律は、外国政府が維持する外国教育課程を伴う学校の設置を認めていない。であるから唯一の解決策は、ブラジル人デカセギ者の集住地域において日本政府の支援を得つつ、在日日系ブラジル児童青少年に対して、ブラジルの教育課程をポルトガル語で教える学校を組織することが可能な民間の非営利組織の設立である」としている。これは、穏やかな表現ではあるが、日本側が行っている「公立学校でのブラジル人子弟の吸収」という政策に異議を唱えるもので、あくまでデカセギ者の子弟のアイデンティティーをブラジルに置きたいという意図を示している。かつてのブラジルの日本人移民が、子弟の日本語教育に固執していたのと同じ状況である。

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