日銀 早期の利上げ再開視野
■そんな日銀による利上げをきっかけとした日本株の調整を「深く」しているのが、ドル円の反応と言えそうです。長らくゼロ金利が続いたことで低金利の円は投機筋などから重宝されていて、「円調達・ドル運用」の円キャリートレードに代表されるような、アグレッシブな投機的取引のファイナンスに活用されてきました。
■このような取引の広がりは、為替市場における円安ドル高を招く結果となったようですが、円金利が上昇すると「円調達・ドル運用」取引の投資妙味が削がれることとなります。このため、先に見た日銀による金融政策の変更過程では、ドル円も日本株と同様に敏感に反応することが多かったようです(図表3)。
■この2年余りの株式市場を振り返ると、長らくゼロ金利が続いた日本の株式市場は、久々に現れた「利上げ」という厄介な相手にかなり手を焼いているように見受けられます。日銀は2023年10月31日にイールド・カーブ・コントロール(YCC)を実質的に終了した後、①2024年3月19日にマイナス金利を解除し、②2024年7月31日には政策金利を+0.25%に引き上げ、そして、③2025年1月24日にはさらに+0.5%へ政策金利を引き上げてきました。こうした日銀による「利上げ」に対する市場の反応を振り返っていくと、日本株はことごとく調整してきたことが確認できます(図表2)。
■一連の日本株と日銀の金融政策との「いきさつ」を振り返ると、日銀が近い将来に再び利上げに踏み切るなら、日本株が無傷ですむと考えるのは楽観的過ぎるように思われます。そして、日銀の政策に先回りして、手持ちの日本株を売却すべきと考える人も少なくないでしょう。
■こうしてみると、この数年来の日銀による金融政策の正常化及び利上げ局面では、①投資家の株式期待リターンの上昇(PERの縮小)と、②為替市場での円高、という2つが作用することで、日本の株式市場に一時的な調整をもたらしてきたとすることが出来そうです。
■日銀が大規模な金融緩和を終了して徐々に金利を引き上げていくことは、日本経済が正常化しつつある証拠でもあるため、そのこと自体は一国民として喜ばしいことといって良いでしょう。とはいえ、投資家目線で考えると、気がかりな点がないわけではありません。というのも、日銀が政策金利を引き上げると日本の金利水準が全体的に底上げされることで、経済活動や金融市場に少なからず影響を与える可能性が高いからです。
■とはいえ、ここで気を付けなくてはならないのは、日銀が金融緩和からの出口戦略を進める背景には日本経済のデフレ脱却と正常化があるため、株式市場は金融引き締めに対して短期的にはネガティブな反応を見せるものの、そのダメージを市場が見切った後には、急速に回復する傾向が見られることです。このため、金融政策の変更を捉えた売買を成功させることは「言うは易し、行うは難し」で難易度が高く、これまでも「想定外の反発」で買いそびれてしまう投資家が少なくなかったように思われます。
もし、日銀が年内の早い時期に利上げに踏み切るなら、その時こそPERの縮小リスクを念頭に、然るべき対応を検討すべきではないでしょうか。
■最近の利上げ局面における相場の反応を参考にするなら、日銀が10月末の金融政策決定会合で利上げに動く場合、①バリュー株や②金融株へのシフトにより、大きなダメージを回避できる可能性が高まるように思われます。また、相場が急落するような「テールリスク」を意識するなら、ある程度のコストは「保険料」と割り切って③内需のディフェンシブ株へシフトすることも選択肢の一つとなりそうです。
本コラムでは7月末の段階で、①今回のような上昇相場ではバリュエーションはあまり機能せず、②株価の割高感はファンダメンタルズの改善が後に続くことで正当化されることが多く、③そうした弱気筋の買戻しが上昇相場に拍車をかける、とお伝えしました。とはいえ、日銀が早期の利上げに踏み切るなら、バリュエーションは力ずくで押し下げられることとなるため話は変わってきます。


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