
執筆:外為どっとコム総合研究所 為替アナリスト 中村 勉
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今週の振り返り
今週の豪ドル/円は99.80円前後、ニュージーランド(NZ)ドル/円は86.48円前後で週初を迎えました。
10日には、米政府機関の閉鎖が週内にも解除される可能性が報じられ、米株価指数が大幅に上昇したことを背景にリスクオンが進行。13日には、豪ドル/円は約1年ぶりの101.83円前後、NZドル/円は87.85円前後まで上昇しました。しかし同13日、トランプ米大統領がつなぎ予算案に署名して政府機関の閉鎖解除が決まると、米株価指数が一転して大幅に下落。この影響で豪ドル/円、NZドル/円ともに上げ幅を縮小しています(執筆時)。
豪雇用統計が強く、追加利下げ期待が後退
13日に発表された豪10月雇用統計は、市場予想を上回る底堅い結果となりました(表1参照)。雇用者数は予想以上に大幅に増加し、内訳を見ると正規雇用者数の伸びが全体の増加に大きく寄与しました。
また、9月に約4年ぶりの4.5%まで上昇した失業率は4.3%へ低下しました。一方、労働参加率は前月からほぼ変わらず67.0%となり、2025年1月の過去最高67.2%に近い高水準を維持しました。
今月4日に公表された金融政策報告で、RBAは「1回の利下げを前提に、26年末までインフレ率が3%台で高止まりする」と予想していました。しかし、今回の強い雇用統計を受け、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)で見る利下げ織り込みは低下しています。先週末(7日)時点で2026年6月までに1回(25bp=0.25%ポイント)の利下げを約88%織り込んでいたものが、現時点では約34%まで後退しました。
来週は18日に11月のRBA理事会(4日開催)の議事録が公表され、RBAの追加利下げに対するスタンスを再確認することになります。さらに、19日には7–9月期賃金指数(WPI)が発表されます。RBAはWPIについて、年内は前年比+3.4%で横ばい推移し、26年末には+3.0%へ低下すると予想しています。もし7–9月期WPIが4–6月期から上昇していた場合には、追加利下げ期待が一段と後退する可能性があります。一方で、仮に前期から低下していたとしても、労働市場の逼迫とインフレ率の高止まりが続く現状では、市場が追加利下げを織り込みにくい状況です。したがって、結果を受けて豪ドルが売られたとしても、その影響は限定的となりそうです。
【表1. 豪10月雇用統計結果】

豪ドル/円のテクニカル分析
豪ドル/円は13日に年初来高値を更新後、上げ幅を縮小しています。目先の上値目途は13日高値の101.83円前後となりそうです。その上の水準では昨年11月7日高値の102.40円前後が意識されそうです。一方下値は、日足一目均衡表の転換線が目先のサポートとなりそうです。この水準を下抜けた場合には、日足一目均衡表の基準線や雲が次のサポートして意識されそうです。
【豪ドル/円 日足・一目均衡表】

予想レンジ:AUD/JPY:99.00-103.00、NZD/JPY:86.00-89.00
11/17週のイベント:
11/18 (火) 09:30 豪 豪準備銀行(RBA)、金融政策会合議事要旨公表
11/19 (水) 06:45 NZ 7-9月期四半期卸売物価指数(PPI)
11/19 (水) 09:30 豪 7-9月期四半期賃金指数(WPI)
11/21 (金) 06:45 NZ 10月貿易収支
一言コメント:
同じ日の同じ時間に別々のグループのメンバーの壮行会が重なってしまいました…どうやって両方に顔出すか悩み中です。
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外為どっとコム総合研究所 情報企画部 為替アナリスト
中村 勉(なかむら・つとむ)
米国の大学で学び、帰国後に上田ハーロー(株)へ入社。 8年間カバーディーラーに従事し、顧客サービス開発にも携わる。 2021年10月から(株)外為どっとコム総合研究所へ入社。 優れた英語力とカバーディーラー時代の経験を活かし、レポート、X(Twitter)を通してFX個人投資家向けの情報発信を担当している。
経済番組専門放送局ストックボイスTV『東京マーケットワイド』、ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。
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来週の為替予想 豪ドル 円
こうした中で豪ドル/円は52週MAを大きく割り込みました。その後の反発で一時52週MAを回復したものの、最近にかけて再び52週MAを大きく割れるところとなりました(図表6参照)。
その後の豪ドル/円の下落により、5年MAかい離率も縮小しましたが、なお「上がり過ぎ」圏にあることには変わりなさそうです。その意味では、このような「上がり過ぎ」が是正される中で、2025年は豪ドル/円の下落トレンドが展開する可能性が高いと考えています。
今後、トランプ政権の政策不透明感に伴う米ドルへの資金集中が修正に向かう場合には、売りに偏ったポジションの反動から豪ドルへの見直しが進むことが期待されます。
もっとも、今後の通商交渉の進展次第では、関税政策への市場の懸念が後退し、投機筋による米ドル買い・各国通貨売りの巻き戻しが起きる可能性も残されているとみられます。投機筋による米ドル買いの裏側で売られている通貨の内訳を見てみると、カナダ・ドルやユーロ、スイス・フランへの売りポジションの規模が大きいほか、豪ドルに対しても一定規模の売り持ちが膨らんでいます(図4)。
また併せて、毎月公表される豪雇用統計も押さえておきたいです。直近は雇用環境も大都市のみならず幅広い地域で改善していることが確認されており、正規雇用を中心に底堅さが伺えるなど賃金上昇に繋がりやすい状況が続いています。対して、コロナショックで一時悪化した失業率は改善を続け、およそ50 年ぶりの低水準で推移しています。雇用者数や失業率のデータはRBAが非常に重視しているデータで、これらの変化に着目することで、今後のRBAの金融政策や豪ドル/円相場を見通すヒントが見えてくるかもしれません。
米国にとって豪州向けの貿易収支は黒字であることから、豪州への直接的な関税引き上げのリスクは限定的とみられています。ただし、米国の貿易赤字額が大きい中国や欧州などへの関税引き上げが世界的な貿易戦争に発展すれば、市場心理(リスク・センチメント)に敏感な豪ドルにも間接的な影響が及ぶ可能性があります。
豪ドル/米ドルは、小動きが続く中でも、最近にかけての金利差変化からかい離する形で下落傾向が続き、年初来の安値更新含みの展開となりました。これには中国経済の不振の影響などがあるのかもしれません。
金利差は、為替相場の変動率(ボラティリティ)に大きく影響することから、大幅な金利差のある米ドル/円やクロス円が歴史的大相場を展開したのに対し、豪ドル/米ドルのような対米ドルでの取引「ドルストレート」は小動きの状況が続いたということでしょう。このような金利差に著変なければ、2025年の豪ドル/米ドルも小動きが続く可能性が高いのではないでしょうか。
2025年の豪ドル相場の先行きを左右する注目点としては、①豪州と米国の金融政策の行方、②トランプ政権下での基軸通貨米ドルの方向性、③トランプ政権の関税政策の豪州および世界経済への影響、が挙げられます。
以上を踏まえると、2025年の豪ドル/米ドルは、2024年のレンジを下方修正し、0.6~0.7米ドル中心での展開と予想したいと思います。
こうした中で、豪ドルは10月下旬以降すでに1ヶ月以上52週MA(移動平均線、11月末現在0.66米ドル)を下回ってきました。さらに52週MAを下回る動きが続くようなら、豪ドル/米ドルは小動きが続く中でも、基本的には下落トレンドが展開している可能性が高いとの見方になります(図表4参照)。
もっとも、米国と並んで豪州の高金利環境が続いていることは、海外投資家の豪州への債券投資流入の活性化に繋がっています(図6)。10年国債利回りで比較した豪州と日本の金利差は依然として3%程度の開きがあり、豪州の金利の投資妙味の高さは今後も豪ドルの対円相場を下支えすることが期待されます(図7)。
このような値動きは、過去の経験を参考にすると、豪ドル/円がすでに7月109円で天井を打って、複数年続く下落トレンドに転換した可能性が高いことを示すものです。
むしろ、RBAの利下げ決定によって豪州の金融政策を巡る不透明感が払しょくされ、金融緩和による先行きの景気下支え効果への注目が高まれば、豪ドル相場の見直しに繋がる可能性があると考えられます。
豪ドル/円は2024年7月にかけて110円寸前まで上昇し、2007年に記録したこの間の高値を更新しました。これは米ドル/円が161円まで展開する「歴史的円安」となるなど、円全面安が展開した影響が大きかったでしょう。このため、米ドル/円が8月にかけて一転して暴落すると、豪ドル/円も90円割れ寸前までやはり暴落となりました(図表5参照)。



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