日銀の政策正常化 早くも試練直面

日銀の政策正常化 早くも試練直面
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日銀の政策正常化 早くも試練直面

ここ半年余りの植田日銀の滑り出しはまず順調だったが、その先行きにはインフレ動学の不安定性が障害として立ちはだかると考える必要がある。差し当たり当面の10月だが、足もとまでの物価の動きを踏まえると、「展望レポート」での物価見通しはさらに引き上げる必要がある。その場合、ポイントとなるのはコアCPI上昇率の24年度見通しであり、これは7月時点で+1.9%だったから、少しでも引き上げれば3年連続の2%超になる[6]。しかし、「早過ぎるリスクの方が遅過ぎのリスクより大きい」と考える植田総裁は、来年の賃上げ持続が確認できない時点でマイナス金利解除することには慎重だと考えられる。そうなると、なぜ3年連続で物価上昇率が2%超でも、持続的・安定的な2%インフレでないのかを丁寧に説明する必要がある[7]。東京大学の渡辺努教授が指摘するように、政策据え置きを正当化するために物価見通しを意図的に低くすることはあってはならない[8]。

[9] 日銀が大幅な利上げを行えば、巨額の赤字を計上し、債務超過に陥る可能性が高い。この問題に関連して植田総裁は、今秋の日本金融学会で「中央銀行の財務と金融政策運営」と題する講演を行っている【講演】植田総裁「中央銀行の財務と金融政策運営」(日本金融学会) : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)。これによれば、純粋理論的には中央銀行が債務超過になっても金融政策の遂行能力には影響を及ぼさないと考えられる(実際、FRBは既に実質的な債務超過に陥っているが、ドルの信認は失われていない)。しかし現実には、中央銀行の収益悪化や債務超過をきっかけに通貨への信認が失われれば、(恐らく急激な円安を通じて)インフレ予想の大幅な上昇が生じ得るとも述べられている。

金融緩和政策の修正を決めた日銀。ただ「早くもジレンマに直面しているようにみえる」と指摘する清水功哉編集委員が、日銀の抱える矛盾を分析する。

(ブルームバーグ): 先週末からの歴史的な株価下落と急激な円安修正を受けて、日本銀行が進める金融政策の正常化路線が早くも試練に直面している。

なお、以上に述べた金融政策正常化は、「金利のほとんどない世界」から「金利のある世界」への回帰のみを考えたものだ。本来であれば、①短期金利引き上げが日銀の財務を毀損するリスク[9]、②金利上昇が政府財政の持続可能性に及ぼすリスク[10]、③日銀のバランスシートに大きく積み上がったETFの処理方法など、「異次元緩和」がもたらした負の遺産についても考える必要があるが、本稿でそこまで議論を拡げる余裕はない。

想像するに、総裁就任後日銀のスタッフから慎重な物価見通しを聞かされた植田総裁がハト派発言を繰り返していると、現実の物価統計は予想以上に強かった。このため、急いでYCC修正に踏み切ったということではないか(事実、日銀は7月の「展望レポート」では今年度の物価見通しを+2.5%へと大幅に引き上げている)。9月の金融政策決定会合後の記者会見で、植田総裁が金融政策の先行きについて「到底決め打ちはできない」と繰り返したのも、物価見通しの不確実性を強調したかったのだと思う。

次は来春にかけて、賃金と物価の好循環が続くかどうかを見極めて、マイナス金利解除の是非を判断する正念場のタイミングを迎える。市場の反応にせよ政治からの圧力にせよ、日銀へのプレッシャーが極大化する中で、この難しい判断を下さなければならない。

後輩としては先輩の話はとても貴重な指導であるため、必ずやり尽くさなければならないことだと思っている。日本人同士の先輩と後輩の相互関係は、大学や 会社でよく見られる。たいていの場合、最も経験のある学生や社員、もっと正確に言えば、その組織により長く所属している、あるいはその中で最も早く入学 (入社)した人たちが、自分より経験の少ない人たちのために「先輩」の役目を引き受ける。このような関係を通じて、研究室の規則、人々に求められるそれぞ れの役割や行動までもが新しく入った人たちに伝えられ、その秩序はピラミッド状の構造で保たれている。個人の能力によって評価される他の国のシステムとは 違っている。

しかし、ここ2~3年でインフレ予測を大きく誤ったのは日銀だけではない。例えば、米国でインフレ率が急速に高まり始めたのは一昨年の春頃で、サマーズ元財務長官らがインフレのリスクに警鐘を鳴らし始めていたが、当時FRB(連邦準備理事会)のパウエル議長は「インフレは、サプライチェーン障害などに伴う一時的なもの(transitory)」との説明を繰り返していた。その後、物価高はより広範囲に広がったが、FRBがインフレの持続性を認めたのは同年の秋、インフレ抑制のための利上げを開始したのは昨年の3月だった。こうした対応がbehind the curveになったと強く批判されたのは周知の通りであるが、実はインフレ見通しの過小評価と政策対応の遅れが問題になったのはFRBだけでなく、ECB(欧州中央銀行)やBOE(イングランド銀行)でも同じだった。

この望ましいインフレの状況を実現するには、三つの要因が好転する必要があると考えられる。本稿では、現下のインフレの動向とその持続性、そして市場の円安圧力に対処するために、日銀が取り得る行動について考察する。

仮にこの局面を乗り切っても、困難はその先にもある。日銀は現状、意図的に遅れ気味の金融正常化、言い換えるとビハインド・ザ・カーブ戦略を採っていると考えられるが、賃金と物価の好循環が確認できた後は、ある程度の利上げペースの加速が不可避になる。インフレ率2%超が続く中で、金利がいつまでもゼロ近傍ということはあり得ないからだ(これは、スピードの差はあっても、FRBが昨年中に金利水準のキャッチアップを進めたのと同じである)。しかし、日本では市場参加者の大半が「マイナス金利が終わっても、当分金利はゼロ近傍」と思い込んでいる現状を踏まえると、ここでは事前に周到なコミュニケーション戦略を用意して臨むことが求められよう。

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