コメの供給混乱 農政課題浮き彫り

コメの供給混乱 農政課題浮き彫り
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コメの供給混乱 農政課題浮き彫り

仮に、日本の水田面積の全てにカリフォルニア米ほどの単収のコメを作付けすれば、長期的には1,700~1,900万トンのコメを生産することができる。単収が増やせない短期でも、900万トン程度のコメは生産できる。ところが、JA農協と農林水産省は、主食用のコメの生産量を650万トン程度に抑制することを目標にしている。1960年から世界のコメ生産は3.5倍に増加しているのに、逆に日本は補助金を出して4割も減少させた。

主食であるコメの値段が上がっており、棚からコメが消えたスーパーもある。それなのに、コメ不足を認めない農林水産省は100万トンもある備蓄米の放出を拒否している。しかし、コメが消費者に十分に届いていないことは事実であり、政府は備蓄制度の本旨に則り速やかに備蓄米を放出して、上昇しているコメ価格を鎮静させ、国民の不安を払拭すべきである。

減反政策は、消費者に大きな負担を課す農業保護政策である。EUは農家の所得を保護するために、日本のような高価格維持ではなく、農家への直接支払いという政府からの交付金に転換している。米価を下げても主業農家に直接支払いをすれば、主業農家だけでなくこれに農地を貸して地代収入を得る兼業農家も利益を得る。減反を止めてコメの生産量が増加すれば農村の雇用機会も増え、地域の振興にも役立つ。

減反は水田面積の4割に及ぶ。また、コメの面積当たり収量(単収)を増加させる品種改良もタブーになった。今では、カリフォルニアのコメ単収(生産性)は日本の1.6倍、1960年頃は日本の半分しかなかった中国にも追い抜かれている。

コメ不足の原因として、猛暑の影響で割れたり白濁したりしたコメを流通段階で取り除いたので消費者への供給量が少なくなったことや、外国人観光客の増加などでコメの需要が増加したことがあげられているがその影響は小さい。農林水産省は9月になると新米が出回ると言うが、今年の不足分を先食いすると来年の7~8月の端境期には再び不足が生じる可能性が大きい。

小麦等の穀物に比べ、コメの国際市場は、貿易量が生産量に比べ少ないばかりか、上位の輸出国が頻繁に輸出制限する極めて不安定な市場である。また、輸入国もフィリピンなど途上国が多い。日本が1,000万トンのコメを安定的に輸出すれば、世界の首位を争う輸出国になり、世界の食料安全保障に大きく貢献する。

コメの減反廃止と輸出の増加は、経済安全保障として指摘される「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」を同時に達成する、日本経済再生への切り札ともなる。

最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止によるコメの増産と輸出である。平時にはコメを輸出し、食料危機時には輸出に回していたコメを食べるのである。平時の輸出は、財政負担の必要がない無償の備蓄と同じ役割を果たす。4,500億円の財政負担は解消される。主業農家への直接支払いは1,500億円で済む。国民は納税者としての負担を減少し、なおコメを安く消費できる。

もう1つ厄介な問題がある。農業経営者や畜産・酪農家にとっては、生産コストに当たる燃料、電気、建築資材、農機具。自動車関係料金、農用被服、種苗・苗木、飼料、肥料、農薬など、農業生産資材の価格上昇に対して、自らの商品である農産物の価格が総じて低迷していることだ。農林水産省が毎月発表している「農業物価指数(2015年=100)」によると、2022年5月の農産物(総合)指数が前年同月比+3.0%に対して、農業生産資材(総合)指数は、同+6.7%とコストの上昇が商品価格の上昇を上回っていることだ。特に、コメや野菜については、それぞれ同▲15.8%、+17.7%であるのに対し、生産に必要な肥料および飼料は、それぞれ同+12.2%、同+14.7%と逆ザヤ幅が大きい。農業経営者にとって毎月こうした逆ザヤが累計していくことになるので正に死活問題だ。

農林水産省とJA農協は、コメの需要が毎年10万トンずつ減少するという前提で減反(生産調整)を進めてきた。猛暑以前の問題として、作年(2023年)産のコメの供給量は前年に比べ10万トン減少させていたのである。農林水産省やJA農協による減反の強化で、この2年間に米価は2割上昇した。来年はさらに3割上昇して食管制度時代の米価に近づき、コメの取引手数料に依存する農協にとっての大きな利益となる。今回の米不足でも備蓄米を放出しないのは、米価下落を防ぐ生産者保護政策である。かつて政府は米価が低下した際、市場から備蓄米として一定量を買い上げ隔離して米価を支えたことがあったが、今回はその逆のケースといえる。

減反は、国民の税金から約3,500億円の補助金を出してコメの生産量を制限し、米価を上げるというものである。2018年に安倍政権で「減反廃止」したと称したために一部誤解があるが、主食用米の生産を減らすために補助金を出す制度自体は維持・強化されている。備蓄も米価維持のため20万トンのコメを市場から買い上げ隔離するもので、毎年500億円ほど財政負担がかかっている。米価が高いので輸入せざるをえないミニマムアクセス米に500億円。国民は合計4,500億円を毎年納税者として負担して、かつ消費者として高い米価を払うことで二重の負担を強いられている。

今夏のコメの品薄や価格高騰は、コメを中心にする日本の農業政策の課題を改めて浮き彫りにした。地政学や気候変動などのリスクが高まる中、大災害に見舞われたような深刻な状況下でもなく、ほぼ自給率100%のコメの供給で混乱が生じたことは食料安全保障の確保に向けても不安を残した。今回の問題がコメの価格維持を目的に供給量を抑える旧来型農政の転機ともなりそうだが、目前に迫った自民党総裁選でも大きな争点にならず、その機運は高まらない。

コメを巡る状況は?

減反を止めれば、コメ不足は解消できるだけでなく食料安全保障にも貢献する。国内で1,700万トン生産して1,000万トン輸出していれば、国内の需給が増減したとしても輸出量を調整すればよいだけである。平成のコメ騒動も冷夏が原因と言われているが、根本的な原因は減反のやり過ぎである。当時の潜在的な生産量1,400万トンを減反で1,000万トンに減らしていた。それが不作で783万トンに減少した。しかし、通常年に1,400万トン生産して400万トン輸出していれば、冷夏でも1,000万トンの生産・消費は可能だった。

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