注目の米大統領選挙について、識者に特別寄稿をいただいた。ハリス候補、トランプ候補、どちらに軍配が上がるのか。その時、アメリカ経済は…。
作成日時:2024年10月30日17時
執筆:第一生命経済研究所 経済調査部・主任エコノミスト 桂畑誠治 氏
米国大統領・議会選挙の実施と市場の反応
米国では、2024年11月5日に大統領・議会選挙が実施される。金融市場では、トリプルレッド観測の強まりを受け、長期金利が上昇しドルを押し上げたほか(ドル円の上昇)、株高の一因となっている。ただし、大統領選の世論調査で両候補の支持率が全米だけでなく、勝敗を決定する激戦7州でも拮抗、誤差の範囲内にとどまっているほか、世論調査と選挙の結果が異なることが多々あり、どちらの候補者が勝ってもおかしくない情勢。一方、新大統領の政策を実現するために重要な議会選挙は、上院と下院で多数党の異なるねじれ議会となる可能性も高い。
選挙人獲得の現状と激戦州
大統領選挙で勝利するには、過半数となる270人を上回る選挙人を獲得する必要がある。10月29日時点の選挙人獲得予想では、ハリス氏215人、トランプ氏219人の獲得が確実視されているが、過半数を下回っている。アリゾナ(選挙人11人、以下同様)、ジョージア(16)、ミシガン(15)、ミネソタ(10)、ネバダ(6)、ノースカロライナ(16)、ペンシルバニア(19)、ウィスコンシン(10)、ネブラスカ(1)が接戦となっており、結果が左右される。
上院と下院の議会選挙予測
議会選挙は、上院全100議席(過半数50議席)のうち34議席(民主党23、共和党11)、下院の全435議席(過半数218議席)で行われる。上院選の世論調査では、改選なしとほぼ当選見込みの合計で民主党が44議席にとどまる一方、共和党が51議席(5議席が接戦)と共和党が優勢となっている。一方、下院では、共和党が201議席、民主党が192議席の当選見込みにとどまっており、接戦が42議席と両党どちらにも過半数を握る可能性がある。議会は、ねじれ議会か共和党支配となる可能性が高い。
注目!大統領選挙と議会構成の組み合わせシナリオ
このため、①ハリス氏とねじれ議会、あるいは②トランプ氏とねじれ議会の組み合わせとなる可能性が高いとみられる。次いで、③トランプ氏と共和党の議会多数党となり、④ハリス氏と民主党の議会多数党が最も可能性が低い。
ねじれ議会となれば、ハリス氏、トランプ氏それぞれの公約の完全実現は困難となるほか、予算成立に時間がかかるなど、政策が停滞するとみられる。また、2025年前半には債務上限問題でテクニカルなデフォルト懸念が再燃し、金融市場の一時的な波乱要因となろう。
経済成長は緩やかなものとなり、インフレが鈍いながらも低下傾向を辿るとみられ、連邦準備制度理事会(FRB)は緩やかなペースでの利下げを継続しよう。
長期金利が低下し、ドル安が進むほか、株価は不透明感払拭、FRBの利下げ継続期待等を背景に、堅調さを維持すると見込まれ、米国経済は底堅く推移すると予想される。
トリプルレッドの場合の経済影響
大統領がトランプ氏、共和党が上下両院で過半数を握るトリプルレッドの場合では、経済成長やインフレを押し上げる大規模減税などは2026年以降の実施となるものの、全輸入品に対する10%の関税引き上げ、環境規制の緩和などは大統領令で早期に実施できるため、短期的に長期金利の上昇、ドル高が進み易く、経済成長が押し下げられる。
また、インフレ圧力もドル高によって相殺されるため、FRBは当面利下げを継続するとみられる。株価は利下げや規制緩和期待で上昇し易いとみられる。
中期的には、関税引き上げによるドル高が米輸出企業や米国外での収益性の悪化のほか、保護主義政策による一部業種での競争力低下に繋がろう。また、富裕層向け減税の恒久化など大規模減税によって、経済成長の押し上げのほか、2026年以降の財政赤字の拡大が見込まれ、FRBは2026年にも利上げに転じる可能性があり、金利上昇、ドル高が進み易くなる恐れがある。
株式会社第一生命経済研究所
調査研究本部 経済調査部・主任エコノミスト
桂畑 誠治氏
担当は、米国経済・金融マーケット・海外経済総括。1992年、日本総合研究所入社。95年、日本経済研究センターに出向。99年、丸三証券入社。日本、米国、欧州、新興国の経済・金融市場などの分析を担当。2001年から現職。この間、欧州、新興国経済などの担当を兼務。
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大胆予想米大統領選挙後の市場 トランプ勝利で トリプルレッド
「何百万人もの不法移民を強制送還する」とし、トランプ政権時代に着手した「国境の壁」を完成させる。海外に駐留している数千人の兵士を南部国境に移動させ、その監視にあたらせる。また、移民の犯罪を食い止め、外国の麻薬カルテルも解体するとした。妊娠後期の中絶に反対を明記したが、具体的な規制は各州の判断に委ねるとしている。
トランプ前大統領の経済政策で最も特徴的なのは、「米国第一主義」に基づく、保護主義的政策だ。関税などで他国と同じ貿易条件を保障する、中国の最恵国待遇(MFN)を取り消すとされた。また、一部品目の輸入を段階的に停止するとした。対象となるのは、半導体や鉄鋼、医薬品などと見られている。
彼のリーダーシップは、彼らが求めるキリスト教的な社会秩序の実現にとって不可欠と見なされており、そのために彼と協力するのです。クリスチャン・ナショナリズムはどのようにトランプを受け入れ、彼をその運動の中心に据えているかを明らかにしています。
米大統領選の投開票が11月5日に迫りました。共和党のトランプ前大統領と民主党のハリス副大統領が最終週も競り合い、勝敗の行方はぎりぎりまで予断を許しません。新たな大統領はどちらになるのでしょうか。その下で米国はどこに向かうのでしょうか。どちらが勝てば、米国はどう変わるのかを2回に分けてやさしく解説します。初回は「もしトランプ氏が勝利したら」です。
トランプはまた、クリスチャン・ナショナリズムの政策目標を推進することに積極的です。彼は、保守的なキリスト教の価値観を持つ判事を任命したり、中絶反対、LGBTQ+の権利制限などの政策を支持しています。これらのことにより、彼はクリスチャン・ナショナリストの支持を得ているのです。
第3に、トランプ第一期の保護主義的な政策は、最終的には米国経済を大きく損ねることはなく、また株価の大幅下落を引き起こさなかった。また、大幅減税や巨額のコロナ対策は、大幅な債券安(長期金利上昇)を引き起こさなかった。さらに、トランプ前大統領はドル安政策を掲げたが、実際にはドル安にはならなかった。
トランプ氏が勝利した場合、大きな転換が予想されるのは対外政策です。「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げるトランプ氏は、安全保障や経済で多国間の枠組みから距離を置いた「孤立主義」をとり、米国の利益の最大化を図るでしょう。
イスラエルとハマスの戦闘ではイスラエル寄りの立場をとると見られています。ただ、トランプ氏には2020年に大統領としてイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)などアラブ諸国との平和条約「アブラハム合意」を成立させた実績もあり、その手腕に期待する声もあります。
第2に、保護主義的な政策が経済を悪化させれば、それは長期金利を低下させて債券高になる。物価高と財政悪化で長期金利が上昇すれば、それはドル高要因になる可能性がある。追加関税で貿易赤字が減少すれば、それもドル高要因になる、などトランプの経済政策の結果が金融市場に与える影響は、実際には複雑であることだ(コラム「金融市場はトランプ再選をどう織り込むか:トランプトレードの再来も」、2024年7月5日)。
トランプ勝利のオッズは、最近の世論調査の変動により着実に上昇していますが、過去数週間の賭けオッズの変動速度は非常に顕著でした。これには何が影響しているのでしょうか?ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によると、このオッズの変動の背後には少数のアカウントが関与していることが明らかになりました。この記事は、選挙結果に賭けるための最も透明性の高い市場であるpolymarket.comでの賭け行動に焦点を当てており、選挙勝者に対してだけでも22億米ドル以上の賭けが行われていると報じています。記事によると、4つの大口アカウントがトランプ勝利に賭けるために約3000万米ドルを迅速に投入したとのことです。これらのアカウントはすべて暗号資産取引所Krakenから資金提供されており、その賭けのタイミングと規模の増加は非常に似通っていました。さらに、これらのアカウントは、トランプが個々の激戦州で勝利することや、全国の一般投票で勝利することに賭けてもおり、これはほとんどの人が極めてありえないと考えています。これらの動向から確固たる結論を導き出すのは難しいですが、実際にお金がかかっている選挙結果のオッズを傾けたのが特定の個人や組織であることを示唆しているとしても、他の賭け市場もトランプ勝利に傾いていることが影響しています。現在、非常に声高なトランプ支持者であるイーロン・マスクも、polymarket.comでの変動に言及し、賭けオッズの方が世論調査よりも正確であると主張しています。しかし、実際の影響もあります。観察者たちは、賭けオッズがニュースやソーシャルメディアで取り上げられ、トランプ支持の話題を作り出すことで世論に影響を与える可能性があると指摘しています。
トランプ前大統領自身は、中国からの輸入品60%超えの追加関税をかけること、すべての輸入品に10%の追加関税をかけるというより大胆な政策を掲げている。
NATO加盟を目指すウクライナへの影響も避けられないでしょう。トランプ氏が大統領になれば、ウクライナのNATO加盟を認めず、NATOを東方へ拡大しないことが予想されます。また、ウクライナ戦争においては、ロシアによるウクライナの一部占領を容認したまま、停戦に持ち込むのではないかと言われています。
さらに、トランプはクリスチャン・ナショナリズムの象徴的な存在としての役割を果たしています。彼は、神によって選ばれたリーダーとして見られ、彼の言葉や行動は「霊的戦争」の一環と見なされています。
なぜ多くのアメリカ人がトランプのような人物に票を入れるのか? 一見しただけだと、理解しにくいことかもしれませんが、その背後には理由があります。そして、今回述べてきたクリスチャン・ナショナリズムの影響はその重要な理由の1つです。
トランプ前政権の下で2017年に導入された大規模減税を恒久化することも含まれた。この際には、個人の所得税の最高税率を39.6%から37%に引き下げたほか、相続税や贈与税の基礎控除をほぼ倍増させた。大規模減税の恒久化の具体的な財源には言及せず、公的年金と医療保険制度は現状のまま維持するとした。財政赤字の拡大懸念を強める内容である。
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