カプセルトイ店が爆増 コスパ背景
こうした筐体の進化もあり、さまざまな場所への設置が可能となった2000年代に、カプセルトイが進出したのがスーパーだ。全国的に設置が進み、これが第3次ブームを引き起こす。
カプセルトイ専門店が増えた要因は?
このように事業者側に利益があっても、消費者側にとってそれが魅力的に映らなければ、ここまでの広がりはなかったはずだ。では、消費者にとってのカプセルトイのメリットは何だろうか。それは、「コミュニケーションツールとしてのコスパのよさ」である。『ガチャガチャの経済学』(プレジデント社)の中で、著者の小野尾勝彦氏は次のように述べている。
これに加えて、カプセルトイが優れているのは「適度な射幸性」、分かりやすくいえば「適度な確実性」にある。近年のカプセルトイ人気を説明するときに「カプセルトイの魅力は、何が出てくるか分からないワクワク感にある」という説明がよく見られるが、筆者はそれは半分当たっていて、半分間違っていると考えている。
2015年にマイボイスコムが約1万人を対象に行ったアンケートでは、過去1年以内にカプセルトイを購入したことのある人のうち、42.4%が「スーパー」で購入したと回答。スーパー以外では、ショッピングセンターや商店街、おもちゃ屋、家電量販店での購入が多く、基本的には何か別の目的で来た場所で「ついで買い」することが、カプセルトイの主な購入方法だった。
このように、ある意味では「スキマ産業」だったカプセルトイだが、その専門店がここまで人気を呼んでいるのは、それが「ついで買い」だけでなく、「目的を持って買うもの」に変化したことを表しているだろう。そしてその変化の象徴が「カプセルトイ専門店」だといえる。なぜカプセルトイの専門店は増えたのだろうか。
ひところ、「ファスト映画」なる言葉で表される、「映画を早送りで見る若者」の存在が話題になった。彼らは仲間内でのコミュニケーションが滞りなく進むように、早送りで映画を見る。映画の内容自体よりも、それを通じた「コミュニケーション」が優位になる中で、最もコスパよく映画を消費するわけだ。こうしたコミュニケーション優位の時代に、カプセルトイはうまくハマっているのではないだろうか。
「ガチャのダブりを寄付していただけたら」カプセルトイ人気で300箱以上も その目的に賛同の声「ぜひ協力させて」「大量にあります」
さまざまな指摘があるが、筆者はその理由として、あらゆる人にとってカプセルトイ専門店は「コスパがいい」ことにあると考えている。事業者側と消費者側に分けて、分析していこう。まずは事業者側の事情である。カプセルトイ専門店が他のアミューズメント施設と違うのは、「筐体を置くだけでいい」ということだ。つまり、電気代がかからないのである。
確かに、カプセルトイは何が出てくるのか分からない。しかし、「ワクワク感」や「不確実性」でいえば、クレーンゲームやアーケードゲーム、シューティングゲームなどの方が高い。なぜなら、カプセルトイにおいては、商品が出ることは確実に決まっているからだ。しかも、プレイヤーは機械のハンドルを一度回すだけで、そこまでの「体験」があるかといえばそうではない。
カプセルトイの存在は、それを導入する事業者にとっても、消費者にとっても「コスパがいい」。だからこそ、増殖している。ただし、すでに見てきたようにカプセルトイ専門店は爆増しており、これからは淘汰(とうた)される店も出てくるだろう。
ここで指摘されていることは非常に重要だ。近年、カプセルトイは公衆電話や道路標識のような「街で見かけるモノ」の他、大ヒットした「コップのフチ子」シリーズや「赤の他人の証明写真」のような「意表を突いた変なモノ」、また『鬼滅の刃』をはじめとした「人気アニメのグッズ」といったラインアップが多い。実は、これらは全てコミュニケーションを誘発しやすい特徴がある。
カプセルトイが日本にやってきたのは1965年。1970年代ぐらいから一般に広まり始め、1980年代に「キン肉マン消しゴム」が世間を席捲(せっけん)する中で、第1次ブームが起こる。1990年代には「ウルトラマン」や「ゴジラ」などのカプセルトイが流行し、第2次ブームも発生。その背景には、同じ機械でも設定を変えれば価格を変えられる筐体(きょうたい)の進化もあったという。
前述のハピネットの調査では、カプセルトイ購入者の47.1%が一度で400〜1000円未満を使っていると回答しており、それなりに高額な遊びだといえる。それでもカプセルトイが選ばれるのは、「適度な確実性」つまり「適度な安心感」を人々が買っているからだろう。カプセルトイとは、ある程度のワクワク感を担保しつつ、安全かつ確実にコミュニケーションを成立させてくれる商品として、需要が増加しているのではないだろうか。カプセルトイはさまざまな面から見て、消費者にとっても「コスパがいい」のだ。
ブームが一段落した頃、2011年の東日本大震災後にSNSが拡大する中で、カプセルトイの商品をSNSにアップすることが流行。「コップのフチ子」シリーズをはじめとする、ちょっと変わったカプセルトイが市場を席巻する。ただ、この段階ではまだカプセルトイは「店の端にあるもの」だった。
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