このレポートでは、メキシコペソとアメリカ経済や日本円との為替レートの動き、メキシコペソの見通し、そしてその影響を受ける可能性がある要因について詳しく解説します。
執筆:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
X(Twitter): https://twitter.com/KandaTakuya
米大統領令は「関税」と「国境警備」 ペソへの影響を注視
メキシコのシェインバウム大統領は先週13日、総額2770億ドルに上る国内投資計画をとりまとめた「プラン・メキシコ」を発表。国内の貧困と格差を是正しつつ、国の発展を促すため「現在、世界12位のメキシコの国内総生産(GDP)を10位に押し上げる」などとする13の目標を掲げた。シェインバウム氏は会見の中で米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の重要性にも言及。「これは歴史上最も優れた貿易協定の一つであることが証明された。さらに、これが我々がアジア諸国、特に中国と競争できる唯一の方法だ」と強調した。20日に米国で発足するトランプ政権を念頭に置いた発言であることは間違いないだろう。トランプ次期米大統領は昨年11月、違法薬物や不法移民の米国への流入を巡り、メキシコとカナダに「25%の関税を課す」と表明しており、仮に実現すればUSMCA違反となる可能性がある。また、一部報道によるとトランプ氏が就任初日の20日に発表する大統領令は「関税」とともに「国境警備」が大きな位置を占める見込みとされる。メキシコとの国境の非常事態宣言、メキシコ国籍以外の難民申請者に裁判日までメキシコで待機することを強制する「メキシコ待機」政策の復活などが含まれるとのことだ。トランプ氏の大統領令がメキシコペソに及ぼす影響を注視したい。
メキシコペソ/円 日足チャート
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株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役 調査部長 上席研究員
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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産油国であるメキシコペソは原油高になると通貨が上昇するぞ
メキシコが抱えるファンダメンタルズの問題は、メキシコペソを圧迫している。この点を対米ドルのチャートで確認すると、総選挙・大統領選挙が行われた翌日の6月3日以降、米ドル/メキシコペソ(USDMXN)の上昇幅が拡大した(米ドル高・メキシコペソ安となった)。そして調整の反落を挟みながら、直近は節目の20.00レベルを突破する局面が見られた。この時の日足ローソク足では長い上ヒゲが現れた。
産油国であるメキシコペソは原油高になると通貨が上昇するぞ。
100万メキシコペソを持っていた場合、0.01円(1pips)下落すると1万円の損失が生まれるぞ。
ここ数年のメキシコペソ相場を巡っては、実質金利(政策金利-インフレ)が大幅プラスで推移するなど投資妙味の高さを追い風に堅調な推移をみせてきたものの、今年6月に実施された大統領選で急進左派政党のMORENA(国民再生運動)のシェインバウム氏が勝利するとともに、同時に実施された議会上下院選でMORENAを中心とする与党連合が大勝利を収めたことを機に一転して調整の動きを強めた(注2)。これはMORENAを中心とする与党連合が大勝利を通じて改憲可能勢力となったことにより、ロペス=オブラドール前大統領が掲げる憲法改正案の内容に対する懸念があらためて意識されたことが影響している。なお、改憲案は司法制度や選挙制度、年金制度、財政制度、環境規制など計20項目で構成されており、司法制度改革を通じた三権分立の事実上の骨抜きに加え、年金制度や財政制度改革による財政悪化、環境規制の強化を通じた国家資本主義姿勢の強化による事業環境の悪化などが警戒される内容となっている。さらに、上述のようにメキシコの金融政策は米FRBの動向の影響を受ける傾向があるなか、米FRBの利下げ実施を受けた米ドル安の動きはペソ相場の調整圧力を緩和することが期待されたものの、足下では米ドル安が一巡するとともに、米ドル高が再燃するなどペソ相場の重石となる事態となっている。そして、来月実施予定の米大統領選の行方もペソ相場の重石となっており、とりわけ共和党候補であるトランプ前大統領がメキシコに対する圧力を強める考えを示すなか、金融市場はトランプ氏の勝利を織り込む動きをみせていることも影響していると考えられる。なお、トランプ前政権の下では度々メキシコに対して強硬姿勢が示されたものの、貿易政策面ではNAFTA(北米自由貿易協定)から衣替えされたUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の内容を巡ってはほぼ変更がなく、実体経済への影響もほぼなかったほか、米国経済の堅調さが押し上げに繋がったと捉えられる。その意味では、足下ではトランプ氏の勝利を織り込む形でペソ安が加速する動きがみられるものの、仮にトランプ氏が勝利した場合においてはペソ相場を巡る状況が一変する可能性に留意する必要がある。他方、金融市場がトランプ氏の勝利を織り込む動きをみせていることを勘案すれば、民主党候補のハリス副大統領が勝利した場合には状況が変化する可能性が考えられる。しかし、上述のように改憲によりメキシコでは三権分立が形骸化しつつあるなか、『司法畑』が長いハリス氏がこの問題に如何に対応するか見通せないほか、環境政策を巡って民主党政権がメキシコへの要求を高める可能性もくすぶる。そして、2026年に迫るUSMCAの再協議に当たって元々保護主義色が強い民主党政権がどういった姿勢をみせるかも不透明なところが多い。よって、金融市場の見立てが外れることによりペソ相場を取り巻く状況が一変する可能性にも留意する必要があり、大統領選の結果と次期政権がメキシコに対してどのような姿勢をみせるかを注視する必要性が高まっていると捉えられる。
特に注目したいのがメキシコペソである。6月2日の大統領選挙で、ロペスオブラドール現大統領の政策を継承することを公約に掲げたシェインバウム前メキシコシティ市長が圧勝したことで、場当たり的なインフラ建設や年金改革などによる財政悪化の懸念がメキシコペソを圧迫している。
100万メキシコペソを買うなら通常約821万円必要ですが、レバレッジ25倍なら約32万円で購入できます。
RSIは売られ過ぎの水準にある(下のチャート、緑矢印を参照)。ゴールデンクロスへ転じる場合は、メキシコペソ円(MXNJPY)の反発を想定しておきたい。しかし、反発の局面では常にブルトラップ(強気の罠)を警戒したい。
注2 6月6日付レポート「シェインバウム氏勝利でメキシコペソと株価などはなぜ調整した?」
米ドル/メキシコペソがフィボナッチ・リトレースメント61.8%の水準17.94レベルを下方ブレイクする場合は、重要サポート水準の17.50が視野に入ろう。
日足のRSIは買われ過ぎの水準にある。モメンタムの勢いも後退している。株安がひとまず一服するムードにあることも考えるならば、目先はメキシコペソの買戻し(米ドル/メキシコペソの下落)が予想される。
メキシコペソ円が5日線の突破に成功しても、次は10日線が控えている。この移動平均線は今日現在、7.87レベルで推移している(下のチャート、青ラインを参照)。直近1カ月間の高安、フィボナッチ・リトレースメント38.2%の水準7.85レベルの存在も考えるならば、メキシコペソ円が反発しても10日線前後までが限界と想定しておきたい。
しかし、上で述べたファンダメンタルズの問題は今後もメキシコペソの下落要因となろう。よって、米ドル/メキシコペソの下値トライは下落トレンドへの転換ではなく、「調整の反落」と想定しておきたい。
メキシコペソ円が7.00レベルをも下方ブレイクする場合は、23年3月の下落相場(ペソ安・円高)を止めた6.80レベルまでの下落を想定しておきたい(下のチャート、赤ラインを参照)。
上で述べたメキシコが抱えるファンダメンタルズの問題も考えるならば、メキシコペソ円(MXNJPY)は、引き続き下値トライを意識したい。
短期的な調整(メキシコペソの短期買い戻し)で米ドル/メキシコペソ(USDMXN)が下値をトライする場合、まずは10日線(18.94レベル)の攻防を注視したい。この移動平均線が相場をサポートする場合は、節目の20.00を再びトライする展開を意識したい。
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