日産社長「最後まで確信を持てず」
子会社化を提案した理由について「株式交換による経営統合を提案した理由は、ワンガバナンスでの体制を早期に確立することが可能であり、これが現在の環境下において両者にとって最優先事項であると考えたからです」と述べました。「日産にとっても相当厳しい判断になるであろうことも想定はしていた。場合によっては合意が撤回される可能性も考えてはいた。しかし、それ以上に恐れるべきことは両社の統合が遅々として進まず、将来、より深刻な状況に陥るということであり、そうならないためにもいま、このタイミングで提案することにした。この経営統合を必ず成功に導きたいという強い決意、覚悟を込めた提案だった」と述べました。
自動車業界に詳しい、東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは、両社が経営統合に向けた協議を打ち切ったことについて、「目標に向かってのお互いの努力が欠けていて、100年に1度の変革の時代における交渉としては、拙速だったかもしれず、極めて惜しい結果だった。両社の経営陣のビジネス交渉における稚拙さを感じざるをえない」と指摘しました。その上で、今後の日産自動車の課題については、「単独で将来に向けての成長投資の電動化や自動運転、IT投資を行うのはばく大な費用が必要で、難しいと思うので、新たなパートナー探しは必然的なものになってくる」と述べました。一方、ホンダについても「四輪事業は収益性の低さが問題で、経営統合というカードを切るくらい大変なことが今回浮き彫りになり、コストダウンや投資の見直しを加速する必要がある」と指摘しました。
経営統合をめぐって国の関与がなかったのか問われたのに対し、「日産とホンダの経営トップ、つまり私と内田社長の2人の話の中で決まって検討を始めたということが事実であり、そこに国の関与は一切ない」と述べました。
日産社長「最後まで確信を持てず」
さらに、「日産自動車だけではなく、三菱自動車も含めた3社のアライアンスをうまく活用して、競争力のある新しいモビリティ社会に向けたビジネスを作っていきたい」と述べました。
日産自動車は2月13日、経営再建策としてタイ工場など3工場を閉鎖すると発表した。2026年度までに固定費など計4000億円を削減する。損益分岐点を60万台引き下げ、年産250万台でも営業利益率4%を安定的に確保できる体制を目指す。
日産が公表した事業再生計画の内容は?
ホンダからの子会社化の提案について「日産側がプライドにこだわっているのではないかということばが散見されるが、われわれのプライドというより、経営統合する会社が強くなることに賭けていた。ホンダから提案のあった完全子会社化という形では、両社とも非常に歴史がある中で、われわれの強みが発揮できる形になるのか、非常に悩んだ。正直、今の経営状況の中で1社でやっていく難しさというのもあるし、今回のご提案は真摯(しんし)に論議をした。持ち株会社にいろんなファンクションを置きながら外に対して戦っていける形を取るのが日産として一番望んでいた形で今回そういった形になれずに非常に残念だ」と述べました。
また、「合意点を見いだせず、経営統合が実現に踏み出すことができなかったのは大変残念ではあるが、今回の検討を通じてホンダと日産の協業によるシナジー効果のポテンシャルは相応にあるということを両者で認識できたことから、昨年8月に発表し現在並行して進めている三菱自動車を含めた3社での戦略的パートナーシップに引き続き生かしていくということで、知能化、電動化の時代に向けたプランの検討とその実行に結びつけていきたい」と述べました。
経営統合の協議が打ち切りとなったことでホンダは今後、戦略の見直しを迫られることになります。ホンダは足元の業績は堅調ですが、自動車事業の収益性の向上が長年の課題となっているうえ、EVやプラグインハイブリッド車の普及が進む中国では、苦戦が続いています。ホンダは米中の新興メーカーが存在感を高めているEVやソフトウエアの分野で競争力を強化するための手段として、規模の拡大に向けて日産との統合協議に踏み切っただけに新たな提携戦略をどう進めていくかが課題となります。EVや燃料電池システムの開発などで提携しているアメリカのGM=ゼネラルモーターズとの関係も注目される一方、そのGMは2024年9月、韓国のヒョンデ自動車と新車の開発生産からサプライチェーンまで包括的な業務協力に向けた覚書を結び、提携関係を深めています。海外を含めて大手の自動車メーカーの間ではすでに提携の動きが広がっていて、新たな提携相手を探すことは難しいという指摘もあるだけに、今後どのような戦略をとるのかが注目されます。
ホンダと日産自動車は13日、取締役会で経営統合に向けた協議を打ち切ることを決めました。ホンダが打診した子会社化の案を日産が受け入れず、両社の溝が深まったためで、日本を代表する自動車大手どうしの経営統合は実現しませんでした。
日産の内田社長はみずからの経営責任について「現在の業績の低迷およびステイクホルダーの皆様にご心配をおかけしている点については経営責任を重く受け止めています。進退などに関しては指名委員会や取締役会、また株主の皆様が最終的に判断することではありますが、私としては業績の低迷に歯止めをかけ、現在の混乱を収束させることが喫緊の役割と認識しています。果たすべき務めに1日も早くめどをつけ、可及的速やかに後任にバトンタッチしたいと考えております」と述べました。
世界の自動車グループの去年・2024年の販売台数は、1位のトヨタグループが1082万台、2位のフォルクスワーゲングループが902万台、3位のヒョンデグループが723万台、4位のステランティスが543万台、5位のGMが517万台、6位のBYDが427万台、7位のフォードが395万台、8位のホンダが380万台、9位の日産自動車が334万台、10位のスズキが324万台となっています。世界8位のホンダと、世界9位の日産の経営統合が実現すれば、トヨタグループ、フォルクスワーゲン、ヒョンデグループに次ぐ700万台を超える世界有数の自動車グループが誕生する計画でしたが、実現しませんでした。一方、販売を41%伸ばした中国のBYDが世界6位となり、ホンダや日産を初めて上回りました。BYDはEVやプラグインハイブリッド車が普及している中国市場を中心に販売を伸ばしていて、世界トップのEVメーカー、テスラとともに自動車産業で急速に存在感を高めています。ホンダ・日産の両社は1社単独では新たな競争の時代を生き残れないという危機感から統合統合の協議に踏み切りましたが、協議が打ちきりとなる中で、経営戦略の見直しと、その実行が求められます。
日産の内田社長は経営の立て直しに向けた具体策を説明した上で、「足元のパフォーマンスや、変化している事業環境を踏まえると、あらゆる選択肢を聖域なく検討し、さらに踏み込んだ構造改革を進めることが不可欠だと考えている。どのマーケットに、どう残り、事業運営をしていくかをより明確化する。商品、プラットフォーム、パワートレインについても優先順位をさらにつけて、残すものと止めるものを決めていく」と述べました。さらに、「ホンダを含めて現在パートナーと進めているプロジェクトは今後、取り組みをさらに加速させていく。事業の効率性を高めるためカーブアウトなども検討していく」と述べた上で、こうした取り組みの具体的な内容を1か月後をめどに公表したいという考えを示しました。
日産自動車が筆頭株主になっている三菱自動車工業は、ホンダと日産の経営統合に向けた協議の枠組みにどのように加わるか検討を進めてきましたが、両社の協議の打ち切りを受けて、この協議に関する覚書を解約すると発表しました。一方で、ホンダと日産が進めているソフトウエアの基礎技術の共同研究などの協業については、参加の検討を続けることにしています。
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