夜行列車なぜ減少 需要喪失の背景
――欧州ではこの20年間、多くの夜行列車が採算が取れなくなり姿を消しました。なぜ今、夜行列車の会社を立ち上げたのですか?
まず、夜行列車が消えていった理由は、実は収益性が低かったからではありません。多くの鉄道会社が高速列車や国内・国際線、通勤列車、貨物列車など様々な業務を抱える中で、夜行列車に適切に投資してこなかったからです。その結果、車両が老朽化し、旅客数が減少してしまった。夜行列車が衰退したのは、需要がなかったからでも、もうからなかったからでもない。夜行列車の運営は複雑でコストも高く、採算をとるのは難しいですが、不可能ではありません。成功するにはニッチなプレーヤーになる必要がある。だから私たちは夜行列車のみに焦点をあてる会社を立ち上げました。
――では、なぜ今、夜行列車なのですか?
上野発の列車という点では逸してしまいますが、晩年期にはカシオペア号や北斗星号と同様に個室を備えた「トワイライトエクスプレス号」のほか、名実ともに日本海側の地域の夜行列車だった「日本海号」が運転されていました。このうち、日本海号は北海道新幹線開業よりも前に廃止となってしまいましたが、大阪ー東北の貴重な夜行列車として活躍を続けていました。
夜行列車用の車両が活躍するのは夜~朝にかけての時間帯です。ベッドを備えた車両が日中の特急として運転することは当然できません。そのため、日中の車両基地には非常に多くの寝台車を留置することとなり、これがあまりにも非効率的で車両基地の運用にも支障を来していました。経営が苦しい国鉄が生み出した解決策は、「1つの車両で昼と夜の2役をこなせる車両を開発すること」でした。普通の特急車両の網棚をおろせば2段ベッドが下りてくる、座席だった空間もベッドとして切り替えて3段寝台に姿を変える、これこそが583系が誕生した経緯です。
――夜行列車への注目はどのぐらい高まっているのでしょうか?
結果からいえば、583系は「失敗作」だったのかもしれません。開発してまもなく新幹線が開業したことで、そもそも夜行列車自体が数を減らし、583系の本領を発揮する機会はあまりなかったのです。余剰となった583系は国鉄の得意芸ともいえる魔改造によって、普通電車用として北陸地区や東北地区に投入されていきました。
かつての夜行列車は6人用の客室を見知らぬ人と共有しなければなりませんでした。今後は、より快適に過ごせるプライベート空間が重要視される。そうしたニーズにあった宿泊設備の改良もしていきたい。
東京ディズニーリゾート®の最寄り「舞浜駅」へ行く臨時列車は通年需要があります。関東圏から舞浜駅までのアクセスはそこまで不便ではありませんが、東北地方に住む人々にとっては舞浜駅は非常に遠い存在でした。特に北東北エリアからは移動にも時間がかかり、週末を利用しても思う存分パークを楽しむことは難しかったのです。
欧州で移動手段としての夜行列車が復活しているという話題です。忙しい現代人にとって、短時間で移動できることは確かに便利です。日本でも一部の豪華列車を除いて、夜行寝台列車はほとんどなくなってしまったのではないでしょうか。しかし、単なる「移動」と「旅」は別物ですよね。少しだけ心と時間に余裕を持って、昔のように移動を楽しむ「旅」があってもいいのではないでしょうか。欧州の場合は、CO2排出抑制との関係で夜行列車が再注目されているようですが、鉄道の旅を見直すきっかけになれば素敵なことだと思います。
「びゅう」の旅行商品として運転された「わくわくドリーム号」は「団体専用臨時列車(三段式寝台)で舞浜駅まで直通運転!」という謳い文句付きでした。これも583系なければ実現できなかった訳ですから、いかに583系が臨時列車として使い勝手が良かったかが分かります。わくわくドリーム号は完売となることもあり、臨時列車ではありながらも高い需要があったことが分かります。
最後は臨時運転ながらも、2017年まで運行を続けた583系。国鉄期に設計開発された寝台電車583系は、座席と寝台が切り替えられる世界的にも珍しい「座席/寝台可変電車」として有名でした。このような仕様で設計された背景には夜行列車特有の課題を打破する目的がありました。
夜行列車の最も魅力的な点は、旅をし続けながら、かつ、正しいこともできるということです。持続可能性と経済活動は、互いに排除しあうものではなく、両立できる。この新しい経済のパラダイムを若い世代が理解し出している。夜行列車は過去に思いをはせるロマンチックな人たちだけのものだと言われていましたが、今はそうではありません。旅の手段としての夜行列車は小さなトピックの一つでしかないですが、この新しいパラダイムに貢献できると思います。
――夜行列車のムーブメントは、従来の移動のあり方を根本から変えるようなきっかけになると思いますか?
ベンチャー企業は「ヨーロピアン・スリーパー」。幼い頃から夜行列車好きだった元鉄道会社員のブーレンさんら2人が起業した。提携する中欧の民間鉄道会社「レギオジェット」が車両と機内サービスを提供し、それ以外をヨーロピアン・スリーパーが担う。
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