図表で分かる財務分析  ネットフリックス(NETFLIX) 2025年1Q決算と2Q予想

図表で分かる財務分析  ネットフリックス(NETFLIX) 2025年1Q決算と2Q予想

(画像提供=Adobe Stock)

 

 日本国内だけでも1,000万人超の会員数を誇る世界最大級の動画配信サービス会社ネットフリックス(Netflix)。1997年創業の同社は、2000年代に入り、若者たちの「テレビ離れ」が加速し、かつて「娯楽の王様」と称されたこともあるテレビ局の視聴率が軒並み下落している状況を横目に、いつでも、どこでも、好きな時間に見たい番組が定額でみられるサービスを「売り」にして、大きく成長してきました。ナスダック(NASDAQ)に上場するネットフリックス(Netflix)は、米国経済に大きな影響を及ぼす米国有数のハイテク株としても投資家から大きな注目を集めています。

 この記事では、ネットフリックス(Netflix)の2020年から2024年までの通期決算、2025年第1四半期(1Q)の決算データ、および会社発表の2025年第2四半期(2Q)の業績予想などから、同社はなぜ「利益重視」戦略を掲げるようになったのか、そして、どのような成果を上げているのかを分析・解説してみたいと思います。

(1)ネットフリックス(Netflix)の直近業績と2025年2Qの予想

 まず、ネットフリックス(Netflix)の「今」と「すぐ先の未来」を見ていきます。以下の表は、直近の四半期ごとの業績と、Netflix自身が2025年4月に発表した「2025年第2四半期(FY25 2Q)の公式な業績予想」をまとめたものです。企業による次四半期(4月〜6月末)の「公式予想」は、企業の短期的な業績動向を予測する上で、最も重要な情報のひとつです。

 

(※1)EPS=希薄化後一株当たり利益 (※2)PER=株価収益率 (※3)PBR=株価純資産倍率

・2025年2Q予想に見るネットフリックス(Netflix)の確固たる自信

 表の一番右にある「FY25 2Q予想」は、ネットフリックス(Netflix)の経営陣が、投資家に向けて「次の3カ月間にこれだけの成果を出します」と約束した目標値です。その内容をみると同社の強さと経営戦略が浮かび上がります。

 まず、売上高は11,035百万ドルで、前年同期(FY24 2Q)から15.5%成長させるという非常に力強い見通しを示しています。これは、単に会員数の増加だけでなく、2023年から本格導入した「アカウント共有の有料化」や「広告付き低価格プラン」が完全に浸透し、新たな収益の柱として定着したことを意味します。特に広告モデルはまだ始まったばかりで、今後の成長に大きな「伸びしろ」を感じさせます。

 しかし、それ以上に注目すべきは利益です。営業利益は3,675百万ドルと、前年同期比41.2%増を予測、15.5%の売上増加率をはるかに上回る、驚異的な利益成長を見込んでいます。

 この成長の秘密は営業利益率に隠されています。FY25 2Qの予想営業利益率は33.3%です。これは100ドルの売上に対して、33ドル超の営業利益が出る計算で、前年同期の27.2%から6.1%も改善する見込みです。

 コンテンツ制作に巨額の費用がかかるビジネスモデルでありながら、これほど高い利益率を予測できるのは、コスト管理が徹底し、収益性の高いプレミアムプラン、広告事業の拡大に成功しているからでしょう。

 ちなみにEPS(1株当たり利益)も7.03ドルと、前年同期の4.88ドルから大きく成長する見込みです。これは純利益の増加のみならず、同社が獲得した現金を使って積極的に自社株買いを行い、市場に出回る株式数を減らしていることも一因でしょう。これにより1株あたりの価値は向上し、株主還元が強化されています。

 FY25 2Qの業績予想からわかるのは、もはやネットフリックス(Netflix)は、新規加入者を追い求め、会員数の増加で業績を成長させる企業ではなく、「着実に売上を伸ばしながら、それ以上に利益拡大を図る」という「収益性の高い、非常に『筋肉質』なビジネスモデルを確立した」と、投資家に向けて力強く宣言したことです。

(2)売上高の動向

 直近の好調な業績は、ネットフリックス(Netflix)の現在の強さを示しています。この強さが本物かどうかを確かめるため、2020年(FY20)から2024年(FY24)までの5年間の通期データを分析してみます。短期的な業績の「波」だけでなく、会社が遂げた長期的な成長トレンドがここから見えてきます。

・成長鈍化を乗り越えて再加速へ

 売上高は5年連続で増加しています。特に注目すべきはその成長率の変化でしょう。2020年(FY20)はパンデミック下の巣ごもり需要で、24.0%という高成長を記録しましたが、2022年(FY22)には、競争激化などから成長率は6.5%まで鈍化しました。しかし、2023年から本格導入した「広告付きプラン」と「アカウント共有の有料化」という二大戦略が功を奏し、2024年(FY24)には成長率を15.6%まで再加速させています。これはネットフリックス(Netflix)が新規顧客を開拓しながら、既存サービスからさらなる収益を生み出す仕組みを確立したことを示しています。

(3)営業・当期純利益の動向

 続いて営業利益と当期純利益の動向を見ていきます。

・営業利益と当期利益から見える「利益重視」への鮮やかな転換

 利益の推移から、ネットフリックス(Netflix)の経営戦略の転換点が、明確に読み取れます。2022年(FY22)は売上増にもかかわらず、コンテンツ制作への巨額投資などが影響して、営業利益・当期利益ともに減少しました。これは当時のネットフリックス(Netflix)が、利益よりも会員数を増加させるために、新規加入者の獲得を優先していた結果です。

 しかし、その後の推移は一変します。コスト管理の徹底と収益性の高いプランを推進した結果、2024年(FY24)は営業利益を10,418百万ドルと言う大台にのせ、営業利益率も過去最高となる26.7%を達成しました。売上成長率を利益成長率が大きく上回っています。これは企業が「稼げる体質」に変化したことを示す力強い証拠です。

(4)株主価値指標の動き

 それでは株主の視点から会社の価値を示す指標を見ていきましょう。まずはEPS (1株当たり利益)です。

1)EPS

 EPSは会社が1株あたりどれだけの利益を稼いだかを示す指標です。つまり、株主にとって最も直接的な「価値の源泉」と言えます。ネットフリックス(Netflix)のEPSは当期利益の動向と連動して、2024年(FY24)には19.83ドルと過去最高を記録しました。利益成長がしっかりと株主の価値向上に結びついていることがわかります。

 続いてPER (株価収益率) とPBR (株価純資産倍率)を見てみます。

2)PER

 PERは「現在の株価がEPSの何倍まで買われているか」を示す指標で、市場の期待度(人気度)を表しています。2020年(FY20)は88倍という非常に高い期待が寄せられていましたが、2022年(FY22)には、株価調整とともに29倍まで低下し、2024年(FY24)以降は40倍台での推移が続いています。これは過度な期待は剥落したものの、依然として市場からは高成長が期待されていることをうかがわせる水準です。

3)PBR

 続いてPBR (株価純資産倍率)です。これは現在の株価が、会社の1株あたり純資産(解散価値)の何倍かを示す指標です。ブランド価値や技術力など、帳簿に載らない無形の価値も評価に反映されます。PERと同様に2022年(FY22)に大きく低下しましたが、その後は純資産の着実な積み上がりにともない、安定した評価を取り戻しています。

 これらの指標からネットフリックス(Netflix)が単なる「成長ストーリー」だけのベンチャー企業ではなく、利益という裏付けをともなった質の高い企業へと成熟し、市場からの評価も安定してきたことが読み取れます。

(5)貸借対照表で見る「財務の安定性」

 

 続いて貸借対照表を使って、企業の「健康診断」をしてみましょう。

1)資産の動向

 資産とは企業の「財産」の総額です。ネットフリックス(Netflix)の総資産(流動資産+固定資産)は、2020年(FY20)の39,281百万ドルから、2025年3月(FY25 1Q)の52,088百万ドルと、着実に増加しています。特に重要なのは、資産の大部分を占める固定資産です。これは主にネットフリックス(Netflix)が強みとする膨大な映画やドラマの「コンテンツ資産」を反映しています。継続的にコンテンツ投資することで会社の財産が年々大きくなっていることがわかります。

2)負債の動向

 負債とは企業の「借金」です。驚くべきことに負債合計(流動負債+固定負債)は、4年以上にわたって、ほぼ横ばい(約28,000百万ドル前後)です。これはネットフリックス(Netflix)が新たな借金を増やすことなく、事業を成長させてきたことを意味しています。言い換えると、利益で事業資金がまかなえるようになったことを示しており、非常に健全な状態と言えます。

3)純資産の動向

 純資産は、企業の総資産から負債を差し引いた「真の自己資本」です。ネットフリックス(Netflix)の純資産は、2020年(FY20)末の11,065百万ドルから、2024年(FY24)末の24,744百万ドルへと、4年間で2倍以上に増加しています。これは獲得した利益が着実に内部留保され、企業の体力が強くなっていることを示しています。

4)流動比率の動向(=流動資産 ÷ 流動負債)

 流動比率は「短期的な支払い能力」を見る指標です。1年以内に現金化できる資産(流動資産)が、1年以内に支払うべき負債(流動負債)をどれだけ上回っているかを示しています。一般的に100%以上であれば安全とされます。ネットフリックス(Netflix)は2021年(FY21)に一時的に100%を割りましたが、その後は回復して110%~120%台という水準を維持しており、短期的な資金繰りにはまったく問題がない状態であることがわかります。

5)自己資本比率の動向(=純資産 ÷ 総資産)

 自己資本比率は「長期的な安定性」を見るために最も重要な指標のひとつです。総資産のうち、返済不要の自己資本がどの程度の割合を占めているかを示します。この比率が高いほど、借金に頼らない安定した経営が可能であると言えます。

 ネットフリックス(Netflix)の自己資本比率の推移は目覚ましく、2020年(FY20)の28.2%から2025年3月(FY25 1Q)には46.1%へと劇的に改善しています。これは利益を積み上げて財務体質を強化し、外部環境の変化にも揺るがない、非常に安定した強固な事業体へと変貌を遂げたことを示しています。

(6)キャッシュフロー計算書から見る「事業の健全性」

 最後に企業のお金の「流れ」を示すキャッシュフローを確認しましょう。

 

1)営業キャッシュ・フロー(営業CF)の動向

 営業キャッシュフローは、企業が本業でどれだけ現金を生み出せているかを示す最も重要な指標です。

 上の表から分かるように、劇的に推移しています。2021年(FY21)までは、巨額のコンテンツ投資の影響で、手元に残る現金はわずかでした。しかし、利益重視の経営戦略に転換した結果、2023年(FY23)、2024年(FY24)ともに年間7,000百万ドル超の莫大な現金を生み出す「キャッシュ創出マシーン」へと変貌を遂げました。

 これはネットフリックス(Netflix)が、外部からの借入金に頼ることなく、自ら事業で生み出した資金で、次のコンテンツ投資や株主還元を行えるようになったことを意味しています。これは「事業の健全性」が確立された何よりの証拠です。

2)投資キャッシュ・フロー(投資CF)の動向

 投資キャッシュフローは、主にコンテンツ資産の制作や取得、設備の建設や購入などに使った現金を示します。投資CFが一貫してマイナスであることは、一見ネガティブに思えるかもしれません。しかし、これはネットフリックス(Netflix)が同業他社に対する競争力を維持するために、未来への投資を継続していることを示す健全な証拠です。重要なことは、この投資が営業CFによる現金でまかなわれている点です。

3)財務キャッシュ・フロー(財務CF)の動向

 財務キャッシュフローは、借入や返済、株主への還元などによるお金の動きです。2020年(FY 20)はプラス(借入で資金調達)でしたが、2021年(FY21)以降は一貫して大きなマイナスになっています。

 このマイナスの主な要因は、巨額の自己株式取得(株主還元)と負債の返済です。かつては成長のために資金調達していましたが、今では自ら稼いだ現金で借入金を返し、余った資金で大規模な株主還元ができるほど、財務体質が強固になったことを示しています。

・理想的なキャッシュフロー状態

 健全な優良企業のキャッシュフローは、「営業CFがプラスで投資CFと財務CFがマイナス」というのが理想とされています。これは「本業でしっかり稼ぎ(営業CFがプラス)、そのお金で将来への投資を行い(投資CFはマイナス)、残りを株主に還元する(財務CFはマイナス)」というサイクルになるからです。

 近年のネットフリックス(Netflix)は、まさにこの理想的なキャッシュフローのサイクルが実現しています。「事業の健全性」を確立した一流企業へと成長を遂げたことが、このお金の「流れ」から、はっきりと読み取れます。

(7)高成長と収益性を両立させたNetflixの現在地

 さて、今回はネットフリックス(Netflix)の2020年(FY20)から2024年(FY24)までの通期決算と2025年第1四半期(FY25 1Q)の決算を分析し、さらに同社が発表した2025年第2四半期(FY25 2Q )の業績予想をもとに、同社の収益性、財務安定性、キャッシュフロー状況の分析と予想を行いました。

 これらの結果から分かったことは、ネットフリックス(Netflix)が売上成長力を維持しつつ、営業利益率を大幅に改善させており、安定的に巨額の営業キャッシュフローを生み出す、収益性の高い事業構造への転換に成功しているという事実を確認しました。同社が示した2025年第2四半期(FY25 2Q)の力強い業績予想は、この「利益重視」の経営戦略が、今後も継続・強化される見通しであることを示唆しています。

(本文ここまで)

 
岩田仙吉(いわたせんきち)氏
株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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図表で分かる財務分析 ネットフリックス NETFLIX

なぜそうしたことができるのか?誰でも簡単にできるのでしょうか?簡単にはできませんよね。ネットフリックスが、これを自然にできている理由のひとつは、まだDVDのレンタルをしていた頃からずっと、データを使って判断することを繰り返してきたからだと思います。いきなり巨大なデータを扱うのではなく、最初は小さなデータから扱い、失敗も重ねながら、社内に文化も醸成してきた結果が、今の強みとなっていると思うとわかりやすいですよね。いずれにしても、現在のネットフリックス社内ではデータが共通言語になっていて、ほぼすべてがデータで判断されているのです。それで判断できない案件はCEO判断となるようですね。

データ駆動の企業は多くありますが、どこが一番分かりやすいかというとネットフリックスだと思います。どんなデータを取って、何をしているかを見ると本当に面白いです。冒頭に申し上げたように、ネットフリックスもどこかのクラウドを使っているだけで、クラウド環境としては、特別なものは使っていないと思います。

Netflixが日本で提供を開始したのは2015年。この年は、Apple Music やAmazonプライムビデオ、AWA や LINE MUSIC が提供を開始し、サブスク元年と呼ばれました。

よく、ネットフリックスには会議や議論がないという話を耳にします。何かあったら比較データを見て、「こっちのほうがいいね」「そうしましょう」で終わり。つまり、そのような意思決定ができるために十分な質と量のデータを持っているわけです。

質問者:情報のビジネスでは、実際に実行するための情報基盤の持ち方にかなり差があるように感じます。特に日本だとオンプレミス(自社で情報システムを保有し、自社の設備で運用すること)がまだ多いのと、(独自システムへの執着が強いため)クラウドへ移行するとしてもIaaS(クラウドを介してネットワークやサーバなどの情報システム基盤を提供するサービス)の活用にとどまっている。そういう観点で鈴木さんが何か感じていることがあれば教えてください。

伊藤達也税理士事務所 2013年、EY新日本有限責任監査法人金融事業部に入所。証券会社、インターネットメディア事業などの法定監査だけでなくIPO支援や内部統制構築支援に従事。また、創業手帳株式会社、弁護士ドットコム株式会社にてバックオフィス全般及び資金調達業務に従事。会計、税務、内部統制にかかる業務を行う中で、直接会社にサービスを提供するコンサルティングサービスに意義を見出し、2021年事務所設立。慶應義塾大学経済学部卒。

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