FRBパウエル議長 利下げ検討示唆
トランプ大統領が、意に沿わぬパウエル議長を疎ましく思っていることは間違いない。しかし、同議長の更迭には司法の高い壁がある上、市場から手痛い反発を受ける可能性が強い。そのリスクを考えれば、実現は困難だろう。指標である無担保翌日物調達金利(SOFR)の先物とのスプレッドは、政策金利の据え置きを織り込む水準だ(図表6)。
さらに、前日に不正住宅ローン疑惑が浮上したクックFRB理事について、司法省がパウエル議長に同理事の解任を要請したことが判明。議長がより強硬な姿勢を取るとの見方も広がり、BTCは11.2万ドル近辺に値を下げた。
1990年以降、FRBの利下げ局面は今回が7回目だ(図表1)。このうち4回は景気後退期であり、急速、且つ大幅な利下げを迫られている(図表2)。政策金利であるFFレートと10年国債利回りのスプレッドは、拡大期が景気後退局面と重なった(図表3)。経済の変調を先取りして長期金利が下がり始めた後、FRBが慌てて金融緩和を行ったことが背景だろう。トランプ大統領はパウエル議長を「遅過ぎる男」と揶揄したが、それは必ずしもパウエル議長の個性の問題ではない。
ただし、FRBは連邦準備制度法により連邦議会から「雇用の最大化」と「物価の安定」、矛盾する「二つの責務」を与えられている。物価に関しては、FRBが「長期的目標」とするコア個人消費支出物価上昇率で2%にはまだ達していない(図表4)。
足下、FFレートと10年国債利回りのスプレッドが縮小しているのは、米国景気減速のサインと言える。FRBは昨年9月17、18日のFOMC以降、3回、合計100bpの利下げを行った。
当初の狙いは、再び金融引き締めを行う前に、雇用市場の回復をより完全に促すことでした。しかし、その後まもなくインフレ率は急上昇し、40年ぶりの高水準に達しました。当時、FRBはインフレ率の急上昇を「一時的なもの」と軽視していましたが、これは誤りでした。
「調整が必要になるかもしれない」という発言は、ウォール街に利下げを確信させるのに十分だった。金利予想と連動することが多い2年国債の利回りは、演説発表後、0.08ポイント低下し、3.71%となった。
しかし、8月2日の安値でサポートされ切り返すと、今朝方、コリンズ・ボストン連銀総裁が「雇用悪化の見通しなら利下げが適切」とコメントし、BTCは11.3万ドル台に値を戻している。
米国の中央銀行の正式名称は『連邦準備制度理事会』(FRB)であり、どこにも「銀行」、「中央」の文字を使っていない。それは、中央集権を嫌う同国の建国以来の基本的な哲学によるものだ。
海外時間に入ると、米EU間の通商交渉に関する共同声明が合意され、BTCは若干強含んだ。しかし、FRB議長候補に浮上したブラード元セントルイス連銀総裁が9月利下げを支持する一方、シュミット、ボスティック、ハーカー各地区連銀総裁が否定的な見解を示し、BTCは上値の重い展開が続いた。
1935年、フランクリン・ルーズベルト大統領により解任された連邦取引委員会(FTC)のウィリアム・ハンフリー委員長が身分保証を求めた裁判で、連邦最高裁は解任を無効とする判決を下した。FTCは、FRB同様、他の行政機関からの独立性を認められ、大統領による委員の解任には「正当な理由」が必要とされている。1965年、リンドン・ジョンソン大統領が利下げ要請に応じないウィリアム・マーティンFRB議長の解任を検討した際、司法省は、ハンフリー裁判の判例を根拠の一つとして、個別の政策に関する見解の相違は「正当な理由」には当たらないと回答したと言われている。
ドナルド・トランプ大統領は、再三、FRBに利下げを求めてきた。しかし、ジェローム・パウエル議長は、関税政策による影響を不透明として、政策金利の変更に否定的だ。FRB議長の解任は法的に極めて難しいなか、トランプ大統領による金融政策への口先介入は、市場金利を上昇させ、ドル、株価は下落した。マーケットの厳しい反応は、トランプ政権の政策を抑止する役割を果たすだろう。
また、移民が減少しているとはいえ、米国では月20万人程度の労働適格人口が増加している中で、NFPが3か月平均3.5万人にとどまるのは異常事態だ。一方で、下手に利下げ再開を口にすれば、FRBへの信認問題にもなりかねない状況で、難しい判断が迫られている。
一方、再選されたトランプ大統領は、利下げ要請を聞き流すパウエル議長への憤りを隠していない。4月17日には、記者団に対し、自分が同議長を「辞めさせるよう望むなら、彼は直ぐに辞めるだろう」と暗に辞任を促した。また、ケビン・ハセット国家経済会議議長も、翌18日、大統領周辺がパウエル議長の解任を検討している語っている。
FOMCは1月の会合で政策金利の据え置きを決定。2024年終盤には3会合連続で利下げを実施していた。パウエル議長をはじめ政策当局者らは、インフレの鈍化でさらなる進展を目にするまで政策金利を据え置く可能性が高いとのシグナルを発している。またトランプ大統領の経済政策が一段と明瞭になるまで、金融政策の調整を待ちたいとの姿勢も示している。



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