万博の工費トラブル 相次ぐ理由
2025年4月に開幕する大阪・関西万博のパビリオンや、万博を見据えた関西圏の再開発プロジェクトを...
大阪・関西万博の海外パビリオンで相次ぐ工事費未払い問題。マルタ館の工事費の支払いを求めて元請け会社を提訴した1次下請けが、日経アーキテクチュアの取材に応じた。元請けは反論しており、事態は泥沼化の一途をたどる。
伊東良孝万博担当大臣 「契約上の問題は当事者間の話し合いで解決されるのが基本ではありますが、企業からいくつか類似の案件の声が上がっていることは認識をいたしております。政府としては、参加国に対し、事実関係を確認するとともに、責任ある対応を取るよう働きかけて参る所存であります」
万博開幕日の2日前である25年4月11日になんとか竣工させ、パビリオンを元請けに引き渡した。しかし、万博が開幕した後も工事費は支払われなかった。
「開幕に間に合うよう、昼夜問わず工事を進めた。1日が48時間、72時間にも感じ、幻覚を見る日もあった。地獄のような現場だった」。こう話すのは、京都市の建設会社で代表を務める男性だ。大阪・関西万博の海外パビリオンの1つ、マルタ館の工事に1次下請けとして携わった〔写真1〕。
開幕から1か月が経った大阪・関西万博。海外パビリオンの建設をめぐり、国内の複数の下請け業者が、“外資系元請けからの支払われるべき費用の一部が未払いになっている” と訴えていることがわかりました。
万博会場を彩る海外パビリオン。そのいくつかを完成させた日本の下請け業者たちは今、万博に関わったことで苦境に立たされています。
アンゴラ館は、日本国際博覧会協会(万博協会)が建物の建設を肩代わりする「タイプX」。万博協会から一部について開館許可が出たことを受け、4月13日の開幕日はオープンしたが、その後、「技術的調整」を理由に休館している。
大阪・関西万博のパビリオン工事を請け負った大阪市の建設会社が工事費が未払いだとし、フランス資本の元請け会社を提訴しました。建設会社「レゴ」 辻本敬吉社長 「仕事をしたことに対しての報酬をちゃんと払って下さい。これだけです」 大阪市の建設会社「レゴ」は、万博でセルビアとドイツのパビリオン工事に携わりました。 レゴ社は元請けであるフランス資本の「GLイベンツジャパン」を相手に、当初の契約にない追加作業が多数発生したとし、その費用合わせて3億2800万円余りの支払いを求めています。 GL社は「事実に反し、誤解を与える発言があったことは容認できない。相手当事者に対して、しかるべき対応を進めております」とコメントしています。
京都府で会社を経営する男性は、マルタパビリオンの1次下請けとして内装や外装の工事を手がけ、元請けからおよそ1億2000万円が未払いになっているといいます。この男性は去年12月、フランスを拠点とする元請け業者からの発注を受けてマルタパビリオンの工事を担いました。当時は博覧会協会が業界団体に協力を呼びかけていて、男性も「自分たちで万博を成功させたい」という思いもあったといいます。しかし、契約で定められた期日に代金が支払われず、何度も電話やメールで督促したところ、6月に入って「納品の遅れやメンテナンスサービスの不備など、契約の不履行があった」などとして、支払いの拒否と契約解除の意向を伝えられたといいます。会社の資金繰りが悪化し、親族から資金を借りたり、およそ20人いる従業員への給与の支払いを一部、遅らせているということです。また、男性もさらに下位の下請け業者に細かい作業を発注していましたが、このうち1社に対し、あわせて3000万円ほどが未払いになっているといいます。
男性は、業界内で相次ぐ未払いトラブルの解決を求めて今年3月に大阪府へ情報提供したことを踏まえ、「何の進展もなく歯がゆい」と語った。
マルタとルーマニア、それにドイツのパビリオンの建設工事を元請けとして受注し、セルビアの工事にも関わった「GL Events Japan」は「相手当事者の発信により万博協会や関係者等にご心配をおかけし申し訳ございません。事実に反し、誤解を与える発言が相手当事者からあったことは容認できないと考えております。当社の立場を明らかにするため、相手当事者に対してしかるべき対応を進めております」としています。中国の建設工事を元請けとして受注した国内企業の「中日建設」は「未払いはない」としたうえで訴えが出ている現状について「コメントは差し控える」としています。一方、アンゴラとアメリカでは下請け間で未払いのトラブルが発生しています。アンゴラの工事で未払いを訴えられている「一六八建設」と、アメリカの工事に参加して自己破産し、未払いを訴えられている「ネオ・スペース」の管財人は、いずれも取材を申し込みましたが、きょうまでに回答はありませんでした。
2025年5月30日には『万博工事未払い問題被害者の会』が設立され、アンゴラ館の下請け業者である被害者の会・代表は、「国家プロジェクトと信じてやってきた。万博工事が遅れ、下請け業者は昼夜問わず働いてきたのを、万博協会は把握しているはず。それを“民民”の問題として救済もしないのは、正直、歯がゆい気持ちで情けない」と胸中を語りました。 また、「連鎖倒産しかねない事態。生活に追い込まれている人数が150人近くいる。何の支援策もなく、ずっと放置された状態で、金策も間に合わない状況。いち早く救済措置を受けたい」とも話しています。(野村弁護士)「過去の万博では、こういう問題が起きたとき、国が支払いを補償する場合がありました。日本も、こういう問題に巻き込まれたときには、まず国が代わりに払う制度を用意しておかなければいけなかったはずですが、それを保険で賄おうとしたところ、非常にテクニカルな問題になりました。また、その保険に加入するのは業者ですから、そういう仕組みがあることを事前に聞いておらず、保険に入っていない人たちがいる可能性もあります。下請けを守る仕組みが不十分だったことについて、国や万博協会は“自分たちは関係ありません”と及び腰になっていますが、そこは第三者弁済として代わりに払って、自分たちが相手側に取り立てることを考えなければいけないタイミングだと思います」
海外パビリオンの1次下請け業者A社・安藤さん(仮名) 「元請けによる仕様変更に対応して工事の内容や方法を変えるということが毎日のようにありました。それが工期のロスに繋がっていたかなと思います。それでも僕たちは、元請けの指示通り、工事を完成させた自負はあります。開幕日が決まっている万博だからこそ、なんとか終わらせようと現場で踏ん張ったのです」
大阪・関西万博の海外パビリオンを巡り、工事費の未払いを訴える業者が相次いでいる。読売新聞の取材では、少なくとも3館でトラブルがあり、うち2館は30日時点で開館していない。何が起こっているのか。


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