FX「常在戦場、金融危機と戦争危機の違いでのリスク回避の違い」

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FX「常在戦場、金融危機と戦争危機の違いでのリスク回避の違い」

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総括

FX「常在戦場、金融危機と戦争危機の違いでのリスク回避の違い」

ドル円=150-155、ユーロ円=160-165、ユーロドル=1.04-1.09

通貨ごとの注目ポイント

*円「通貨10位(11位)、株価2位(2位)、マイナス金利終了と貿易赤字縮小で円安も落ち着く」
(金融危機より長引く戦争危機)
 世界中で紛争が起きている。日本もいつ平和が打ち破られるかもしれない。緊張感を持ちたい。先週からイランのイスラエルへの報復攻撃観測の報道があり、市場ではリスク回避の流れであったが、実際に週末にイランのイスラエル攻撃が始まった(現時点ではイランの攻撃は止まっている)。
 先週金曜日はドル高円高(クロス円は円高)、株安、金利低下(米国債)、原油は高止まりとなった。実際にイランの攻撃が始まったのでこの動きが加速するのか。世界がどう流れを止めようとするのか、注視し続けたい。金融危機は、支援する国、組織があれば解決する。数年で終わる例が多い。戦争は感情の問題であり長引く。数十年、数百年と続く。世界が分断され、意見、思想が同種のものだけの経済体制をとるしかない。現在のサプライチェーン立て直し、米国へのニアショアリングなどもその現象だろう。

(世銀IMF総会とG20財務相・中銀総裁会議)
 さて、円相場は、マイナス金利の終了と、貿易赤字の縮小で円安が一服している。これに国際情勢が加わってくる。今週は3月貿易統計の発表がある。世銀IMF総会やG20財務相中銀総裁会合がある。日本を除けば為替で悩んでいる国はないので、円安是正の声明はないだろう。ただドル高で途上国の債務返済が苦しくなっているので、それについて関連声明が出るかもしれない。

(秋の利上げ議論観測)
 日本の3月消費者物価が発表されるが、予想も2%後半で高止まりなので、来週の日銀政策決定会合ではインフレ見通し上方修正や秋の利上げについて議論が始まる(事情に詳しい関係者から)という報道も影響しよう。為替介入は国際情勢が流動的な中なので、実施することは無用の混乱を引き起こすだろう。

*米ドル「通貨2位(2位)、株価(NYダウ)16位(9位)、臨戦態勢。有事のドル・国債買いあるも株価は下落」
(米債はどこへ。利下げ観測後退の米債売り VS 有事の米債買い)
 イランのイスラエル攻撃が始まり、有事のドル買い、米国債買い、米株売りが続くかどうか。そうなれば世界もリスク回避の流れとなる。米国は物価高止まりで利下げ観測が後退したが、リスク回避の米国債買いが出れば長期金利は売り買い交錯となる。

(フェッドウオッチ)
 CMEの「Fed Watch」によると、FRBが5月金利を据え置く確率は98.3%、6月の据え置き確率は72.3%となっている。 米地区連銀総裁達も一斉に、「インフレ率が目標水準に回帰するにはまだ時間がかかるとし、政策金利を引き下げる可能性が高いものの、インフレを巡る不確実性とリスクを考えると、そうする前に時間をかける必要がある」と述べている。
 一方、米株価は、大幅安。米主要銀行が発表した期待外れの決算を受けた。

(インフレ期待上昇)
 米ミシガン大4月の消費者信頼感指数は77.9と3月の79.4から低下した。今後1年およびそれ以降のインフレ期待は高まっていることが示された。
 景気軌道に大きな影響を与えるとみられる大統領選を踏まえ、多くの消費者が景気動向の判断を保留している。
 1年先の期待インフレ率は3月の2.9%から3.1%に上昇。パンデミック前2年間の2.3-3.0%の範囲をわずかに上回った。5年先の期待インフレ率も3月の2.8%から3.0%に上昇した。

*ユーロ「通貨5位(5位)、株価7位(4位)DAX)、6月利下げ観測強まる」
(ECB利下げ観測と有事のドル買いでユーロ下落)
 利下げ観測と、中東緊張による有事のドル買いで、ユーロドルは週足で陰線、1.08代後半から1.06台前半へ下落した。先週は12通貨で最弱通貨、ただ年間では5位と中位に位置している。

(ラガルド総裁 成長見通し低い)
 ラガルドECB総裁は、政策金利を据え置いた後、「ECBはFRBに依存しているのではなく、データに依存している」と発言、FRBと関係なく早期利下げに踏み切る可能性を示唆した。ラガルド総裁は、また「経済成長に対するリスクは引き続き下振れ傾向にある。金融政策の効果が予想以上に強まれば、成長率は低下する可能性がある」、「基調的なインフレ指標の大半は2月にさらに低下し、物価上昇圧力が徐々に弱まっているという状況を裏付けた。労働市場の逼迫は徐々に緩和し続けている」とした。

(2%台のインフレでいよいよ利下げ準備)
 ECBはインフレ率が引き続き鈍化していることを踏まえ、6月の理事会で主要政策金利を引き下げる方針を固めているようだ。3月の消費者物価はユーロ圏、独ともに2%台だ。米国の3%台とは異なるディスインフレ環境だ。

*ポンド「通貨4位(3位)、株価9位(14位)、リセッション逃れる兆しも、有事のドル買いでポンド下落」
(米利下げ観測後退と有事のドル買いでポンドが弱い)
 米利下げ観測後退と有事のドル買いで今月はここまでポンドが弱い。年間でもドルにある意味連動する人民元に抜かれ4位に後退した。

(リセッションから立ち直るか)
 前回も触れたが、昨年後半のリセッションから立ち直る兆しが出ている。
2月の国内総生産(GDP)は前月比0.1%増加。2カ月連続で増加し、昨年後半に陥った浅いリセッションら脱却する兆し。 1月分は0.2%増から0.3%増に上方修正。2月までの3カ月間は0.2%増と1月の0%から加速し、昨年8月以来の高い伸びとなった。2024年1Q成長率は英中銀の予想である0.1%をわずかに上回る見込みで、中銀は利下げに慎重な姿勢を強める可能性が高い。ハント財務相は、経済が好転しつつあるという歓迎すべき兆しだと指摘した。ただGDPは増加に転じたが、景気後退に入る前の2023年6月の水準を下回っている。

(今週は重要週)
 今週は2月雇用統計、3月消費者物価、3月小売売上の発表がある重要週だ。英中銀ベイリー総裁、ブリーデン副総裁、ハスケル委員などが発言する。

*豪ドル「通貨8位(8位)、株価10位(13位)、有事のドル高円高で対円100円維持できず」
(100円台維持できず)
 豪ドルは12通貨中下位で低迷しているが、円よりは強く一時100円台に乗せたが、高まる中東緊張で有事の米ドル買い・円買い・豪ドル売りが出て再び100円割れとなった。RBAは3月のRBA理事会の議事要旨で、「インフレ率が合理的な時間軸で目標の2-3%に戻ると十分確信できるようになるにはしばらく時間がかかるとし、利下げを急がない」姿勢を示唆した。

(経済指標は強くない)
 経済指標は強くない。4月消費者信頼感指数は、前月から2.4%低下して82.4だった。中立は100。ここ2年近く消費者心理を支配してきた悲観論はいまだ収束の兆しをほとんど見せていない。
3月企業景況感指数は前月比1ポイント低下のプラス9となった。高金利を背景に売上高や雇用の指数が横ばいだった。一方、価格上昇圧力はやや緩和した。「景気が底堅さを維持する中でも、企業はなお先行きにやや懸念を抱いている」と指摘された。

(今週は雇用統計)
 今週は3月雇用統計の発表。失業率は前月の3.7%から3.9%上昇、新規雇用者数は11.65万人から1万人の増加に縮小する弱い目の予想だ。

*NZドル「通貨9位(9位)、株価14位(16位)、景気後退も利下げできない苦しさ」
(景気後退も利下げできない)
 NZドルは下位で推移している。景気はリセッションだが、インフレ高止まりで苦しい。ただそれでも円よりは強い。NZ中銀は、政策金利を6会合連続で5.5%に据え置いた。これまでの利上げが景気減速や物価高抑制に寄与したとの見方を改めて示す一方、インフレはなお目標を上回っていると指摘した。 消費者物価上昇率を目標レンジ(1─3%)に戻すため、金利を制約的な水準で当面維持する必要があるとの意見で一致した。
ただ景気は弱い。1Qの企業信頼感は前期から悪化。 業況全般が「改善する」と回答した企業から「悪化する」と回答した企業を引いた割合はマイナス25%。前期はマイナス2%だった。
 部門を超えた需要低迷から、1Qは企業の人員削減が相次ぎ、今後数カ月の採用や投資も慎重になった。

(焦点はCPI)
 次の焦点は。4月17日発表の消費者物価。前期は前年比4.7%上昇、予想は4.0%上昇。

テクニカル分析

*ドル円「ボリバン2σ上限も下ヒゲ長い強さ」
日足、ボリバン3σ下限から2σ上限へ。同レベルで推移。4月10日-12日の上昇ラインがサポート。ボリバン2σ上限が上値抵抗。5日線、20日線上向き。
週足、年初来高値圏で推移。4月1日週-8日週の上昇ラインがサポート。ボリバン2σ上限が上値抵抗。5週線、20週線上向き。
月足、3か月連続陽線。4月もここまで陽線。1月-3月の上昇ラインがサポート。5か月線、20か月線上向き。
年足、3年連続陽線、今年もここまで陽線。151円後半がトリプルトップ。22年-23年の上昇ラインがサポート。1985年-2022年の下降ラインが上値抵抗。

*ユーロドル「ボリバン3σ下限へ急落」
日足、4月9日の長い上ヒゲから3連続陰線でボリバン3σ下限へ。雲の下。23年10月3日-24年4月12日の上昇ラインがサポート。4月10日-12日の下降ラインが上値抵抗。5日線、20日線下向き。
週足、雲中へ大きく沈む。ボリバン2σ下限下抜く。10月2日週-4月8日週の上昇ラインがサポート。3月18日週-4月8日週の下降ラインが上値抵抗。5週線、20日線下向き。
月足、2月は下ヒゲ、3月は上ヒゲでほぼ寄り引き同時。雲の下。4月は2月-3月の上昇ラインを下抜ける。12月-3月の下降ラインが上値抵抗。5か月線下向く、20か月線上向き。
年足、2023年は陽線。ドルより強かった。22年はボリバン2σ下限到達し長い下ヒゲでサポ―ト。今年は陰線スタート。22年-23年の上昇ラインを下抜く。14年‐21年の下降ラインが上値抵抗。

*ユーロ円「ボリバン3σ下限へ急落」
日足、ボリバン3σ下限へ急落。4月2日-11日の上昇ラインを下抜く。3月12日-4月8日の上昇ラインがサポート。4月11日-12日の下降ラインが上値抵抗。5日線下向く、20日線上向き。
週足、ボリバン2σ上限から小反落。3月11日週-4月8日週の上昇ラインがサポート。3月18日週-4月8日週の下降ラインが上値抵抗。5週線上向き、20週線下向く。
月足、3か月連続陽線。今月は伸び悩む。2月-3月の上昇ラインがサポート。2008年8月-2024年3月の下降ラインが上値抵抗。5か月線、20か月線上向き。
年足、4年連続陽線。24年も陽線スタート。22年-23年の上昇ラインがサポート。08年-23年の下降ラインが上値抵抗。

情報提供元:FX湘南投資グループ
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[紹介元] 外為どっとコム マネ育チャンネル FX「常在戦場、金融危機と戦争危機の違いでのリスク回避の違い」

FX 常在戦場 金融危機と戦争危機の違いでのリスク回避の違い

S&L危機や北欧危機の場合には国外への波及が限定的であったが、アジア通貨危機の場合には、世界的な混乱に発展し、LTCM21のような巨大なヘッジファンドを破綻させた。こうした背景として挙げられるのが、国際投資家の「質への逃避」である。アジア危機で、新興市場に対する国際投資家の動揺が高まっているなかで、98年8月にロシアでも金融危機が発生した。ロシアは民間対外債務の90日間モラトリアム(支払い猶予)で、一方的に債務不履行宣言をしたことから、新興市場への信頼が大きく落ちた。そのため、国際投資家の質への逃避が世界的に始まった。こうした中で、ヘッジファンドの一つのLTCMが運用に失敗し、巨額の損失を被ったことが明らかとなった。今回の金融危機でも、金融システム安定のため、中央銀行が異例の措置をとっているが、LTCM危機の際も異例の措置がとられている。LTCMがそのまま倒産すると国際金融資本市場への影響があまりにも大きいという、文字通りの「大きすぎて潰せない」(too big to fail)という状況が生じたことから、ニューヨーク連邦準備銀行の呼びかけで関係する金融機関が緊急支援を行い、損失によって毀損した資本を補てんした。LTCMの事実上の破たん後、金融市場ではリスクプレミアムが高まり、流動性不足が生じた。そのため、FRBは、98年9月から11月までの間に政策金利を0.75%ポイント引き下げ、金融不安の沈静化を図った。また、日本でも、同時期に日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破たん22が起こるなど、金融危機に陥っている最中であった。日本銀行は、99年2月にゼロ金利政策を採用し、大幅な金融緩和措置をとった。

海外からの短期資金の動きによって大きな影響を受けた例としては、アジア通貨危機が顕著な例である。短期資本取引の混乱を契機に、新興国経済を中心に影響が伝播し、こうしたなかで、投機に失敗したヘッジファンドの破綻を通じて欧米の金融機関にも影響が及んだ。当時のアジア諸国の第一の問題点は、短期資金の流入による資本収支の黒字が、経常収支の赤字を上回って大幅なものであったことである。これが、国内においてバブルを形成したと考えられる。そのため、海外の短期資金が急速に引き揚げられた際、資金流出圧力が生じ、為替レートの大幅な下落圧力が生じるとともに、銀行が資金を調達できない事態が生じ、金融危機に陥ることになったのである。データで確認すると、アジア通貨危機国である、タイ、インドネシア、韓国、マレーシアでは、資本収支が96年まで大幅な黒字であったのに対し、97~98年にかけて赤字に転じている(第2-2-6図)。インドネシアを除けば、対内直接投資は黒字(受入超)が続いているのに対し、その他の対内投資/対外投資の部分が大きくマイナスに寄与していることが分かる。その他投資は、主に短期の銀行貸出が含まれると考えられる。危機国のアジア諸国では、現地の銀行が、短期のドル資金を借り入れて、現地企業等に長期の貸出を行っていたのである。第二の問題点は、世界大恐慌時の金本位制、北欧危機の際の欧州為替制度メカニズムと同様、為替レートが自由な変動を行えなかったことである。アジア各国は事実上のドルペッグ制をとっていた20。タイでは、通貨防衛のため自国通貨を買い支えようとしたところへ、ヘッジファンドに売りを浴びせられたことから、外貨準備が枯渇し、変動相場制へ移行せざるを得なくなった。アジア各国も、為替レートを維持できなくなり、大幅な減価に追い込まれた。他方、GDPの動向を見ると、為替レートが大幅に減価したことから、輸出は早期に回復し、成長率は99年にはプラスに回復している。しかし、為替の大幅な減価は、自国通貨建ての輸入価格の大幅な上昇により輸入が大幅に減少して国内需要を縮小させるとともに、ドル建ての対外債務を自国通貨建てで大きく膨張させることとなり、その影響は長く残ることになった。なお、この後、アジア通貨危機を経験した国では、経常黒字を計上していくこととなるが、それが、2000年代からのアメリカの経常赤字の拡大の背景の一つとなっている。この点についても、第3節で改めて見ることとする。

今回の世界的な金融危機は、ニュースを通じても家計のマインドを冷え込ませ、消費行動に影響を及ぼしている可能性がある。日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」では、家計の景気判断とともに、判断の根拠を尋ねている。それによれば、これまで「自分や家族の収入の状況から」が判断根拠の第1位を占めていたが、サブプライム住宅ローン問題に伴う金融不安の発生後に、判断の根拠として「マスコミ報道を通じて」との回答の割合が高まり、2008年12月調査から第1位となった(コラム2-4図)。これは、海外発の金融危機について、自分や家族が実感しているわけではないが、マスコミの報道を通じて、先行きの影響を懸念していることを意味する。こうしたルートによる家計への影響が個人消費などの支出をどの程度冷え込ませたかは明らかではない。しかし、景気の悪化がさらなる悪化を呼ぶ、という累積的メカニズムの一端を担っている可能性は否定できない。

世界経済のグローバル化が進むなかで、海外経済と国内経済の連動性は高まっている。こうした連動性の高さが、今回の金融危機の影響について、我が国の実体経済への波及を大きくしている可能性がある。

それでは、このような厳しい景気後退は、どのようにアメリカから日本を含む各国に波及したのだろうか。第一に、最も重要な要因として、金本位制下で各国の金融政策の自由度が低かったことが挙げられる。例えば、ドイツでは、金流出を防ぐため、経済の悪化にもかかわらず引締めを行っており、日本でも金本位制復帰を目指して、デフレ政策がとられていた。各国が不況に直面するなかで、十分な金融緩和ができなかったことで、世界的な流動性の過小供給状況に陥ったのである16。31年には、各国は金流出を防ぐためにさらに引締め政策をとらざるを得ない状況となり、国内の不況が厳しいものとなった。第二に、為替レートの変動による調整が行われなかったことである。日本は30年1月に金本位制に復帰したが、これは円の実力を大幅に上回る旧平価によるものであった。このため、円高による輸出の減少が不況に追い討ちをかけたと考えられる。日本以外では、英国が25年5月に旧平価で復帰していた。この点は、大恐慌の「伝播」というより、自ら招き入れた困難だったといえよう。第三に、事態を悪化させたのが保護主義の台頭である。保護主義とは、輸入関税の引上げや輸入数量の割当などによって、国内生産品が輸入品と競合するのを避け、自国産業を保護するとの政策的な考え方である。アメリカのスムート・ホーリー関税法17に対する各国の報復措置が保護主義を激化させたと指摘されている。各国は植民地を抱えており、関税障壁で他の地域に需要が漏れないようにブロック経済化していった。こうしたことが、世界貿易の急激な縮小、生産の急激な縮小の長期化をもたらした(第2-2-2表)。

金融危機によって当事国以外の実体経済が一斉に悪化する可能性として、金融資本市場への影響を介して各国の国内で実体経済を悪化させるというルートがある。為替レートの実体経済への影響は貿易の縮小という文脈ですでに述べたので、ここでは、国内金融資本市場を通じたメカニズムを考察した上で、実際にそれが生じうるのかについて過去のデータから検証しよう。

個別の検討に入る前に、過去の金融危機がどのようなものであったかを簡単に見てみよう。具体的には、過去最大の世界的金融危機とされる「世界大恐慌」、アメリカの「S&L危機」と「北欧の銀行危機」、日本の金融危機と同時に進行した「アジア通貨危機」、「LTCM危機」を取り上げる。

これまで、金融危機の金融資本市場に与える影響について調べてきた。今回の金融危機においては、少なくとも戦後の主要な危機のときと比べて、為替レートへの影響は大きく、株価、長期金利の連動性は高まっている。またREITを通じた不動産市場への影響も無視しえないことが分かった。次に、海外で発生した金融危機が日本を含むその他の国の実体面にどう波及するかを見よう。

REIT市場は、国内の他の金融資本市場との代替関係も高まっており、それらの市場からの影響も大きく受けている。各国のREIT市場と株式市場での株価の関係を見ると、日本ではREITが下落を始めた2007年5月以降、連動性が極めて高くなっている(第2-2-14図)。一方、アメリカ、オーストラリアでは、2007年以降株価に先んじてREIT市場が下落基調に入ったことから、連動性が見られなくなっていたが、2008年以降は株価の下落とともにREIT価格も一層の下落局面に入っており、両者の関係が強まっている。また、日本のREITとアメリカ、オーストラリアとの連動性は高く、リーマンショック後には、その連動性はさらに高まっている。なお、他の金融資本市場との連動のほか、REIT市場の固有の問題としては、REITの混乱と不動産市況の悪化が悪循環に陥っている面がある。これまでREITによる物件の取得が不動産市況を活性化してきたが、内外で損失を被った投資ファンドや金融機関が損失のカバーや流動性の確保のために資金をREIT市場から引き揚げる一方、国内金融機関も景気の悪化等から不動産向け融資に対して慎重になっている。また、こうした資金の流出が、不動産市況の悪化の要因となり、さらにREIT市場の低迷につながったと指摘されている。こうしたことから、REITによる不動産取得の低迷を通じ、国内の建物投資に対する下押し圧力が続く可能性がある。

アメリカにおける金融引き締め、バブル崩壊に端を発する世界大恐慌は、日本を含む世界各国の実体経済に大きな影響を及ぼした。貿易、生産、物価に関する指標でその状況を確認しよう(第2-2-1図)。第一に、世界貿易について見ると、1929年と比較して、32年までに金額ベース(各国通貨建て)では6割前後の減少(数量ベースでは2割減)となっている。特に、アメリカの輸出の落ち込みが大きく、33年までに金額ベースで75%の減少となった。第二に、世界の鉱工業生産(ソ連を除く)については、32年には、29年と比べて約3割の縮小となっている。各国の動向を見ると、貿易に比べかなりばらついているが、29年と比べて、アメリカ、ドイツでは4割程度の落ち込みとなった後、ようやく35年頃に29年水準を回復している。第三に、物価は各国とも大幅に下落した。卸売物価は、29年の水準と比べ、日本では31年までに約3割、その他の国でも30年代前半にかけて2~5割下落し、厳しいデフレ状況となった。こうした世界経済の中で各国の状況を比較すると、日本は当初、貿易の落ち込みが最も大きかったが、回復も早かったといえる。輸出金額では、日本は円ベースでは32年から回復する姿となっている。また、生産は31年までに1割弱落ち込んだが、33年には29年水準を15%程度上回り、その後も増加を続け、35年には29年水準を4割上回るなど、早期の回復を示した。

本節では、過去の金融危機について概観した後、危機の国際的な波及メカニズムを明らかにする。その際、金融資本市場、実体経済のそれぞれについて、各国間でどのように連動しているかを、平時も含めて整理する。

それでは、日本は、こうした厳しい状況からどのように回復が可能となったのだろうか。鍵となった政策について三点挙げよう(第2-2-3図)。第一は、金本位制からの離脱である。31年7月にドイツ、9月に英国、12月には日本が金本位制から離脱した。日本と英国は旧平価で金本位制に復帰していたため、離脱により為替レートが大幅に減価し、輸出の持ち直しに寄与したと考えられる。他方、ドイツ、フランス、イタリアは、33~34年に為替レートが対ドルで上昇しており、輸出の減少が続いたことから、回復が遅れたと考えられる。第二に、金融緩和である。金本位制離脱によって金融政策の自由度が回復されるのを機に、日本、英国を中心に32年にかけて公定歩合の大幅な引下げが行われた。こうした中で、為替レートの減価による輸出の増加と、金融緩和による大恐慌下のデフレ脱却の素地がようやく整うこととなった。第三に、財政の拡大である。貨幣供給量が増加しデフレを脱却するためには、財政政策の役割が重要であった。日本では、32年6月には追加予算とあわせ赤字国債発行のための法律を成立させ、財政拡大方針をとった。その際、長期金利が上昇しなかったことも重要である。国債の日銀引受が行われたことで市場への直接の影響は小さかった。また、日銀の引き受けた国債の多くは市場で売却されており、民間資金需要が低迷していたなかで、市場に国債の消化余力があったと考えられる18。世界大恐慌時の金融政策は、金本位制離脱をめぐって対応が分かれたが、最近の研究では、金本位制からの離脱が早かった国の方が、為替レートの減価と金融緩和により、回復が早かったとの指摘がなされている。今回の金融危機に際しては、第1節で見たように、各国中央銀行が協調して大幅な金融緩和に踏み切っており、国際協調の重要性という点において世界大恐慌の教訓が活かされているものと考えられる19。

北欧のノルウェー、スウェーデン、フィンランドでは、80年代後半に、銀行貸出の急増や、株式、不動産の資産価格が急騰するバブルが生じた。この背景としては、S&L危機の場合と同様に、[1]金融規制の緩和による金融機関の競争激化、[2]急激な与信拡大競争や不動産投資へ傾倒するモラルハザード、[3]不十分な監督体制、が指摘されている。また、当時の北欧3か国の通貨は、欧州為替制度メカニズム(ERM)の下で事実上、ドイツマルクにペッグしていたため、東西ドイツ統一後の大幅利上げ等により、北欧諸国も引締めを行わざるを得なかったことも、景気低迷と金融危機を深刻化させた要因となった。北欧の銀行危機のときの経済指標を見てみよう(第2-2-5図)。GDPはノルウェーでは88年、スウェーデン、フィンランドでは91~93年にマイナスになっており、アメリカのS&L危機と比べ、結果として生じた景気の低迷が長期にわたっている。その要因の一つとして、前述のように、為替レートを維持するために、景気の悪化にもかかわらず金融引締めを余儀なくされたことが考えられる。こうしたことから、スウェーデンとフィンランドでは90年には長期金利が上昇しており、その高止まりが景気後退を長期化させたと見られる。為替レートの維持を放棄して以降は大幅に金利が低下しており、金融面から国内経済の回復が支えられる姿となっている。アメリカと同様に、危機後には銀行貸出残高の伸びが大きく低下している。また、アメリカでは預金が貸出を上回っているのに比べ、北欧では危機時において、貸出が預金を上回っている。北欧では、資本移動の自由化などから、海外から短期資金が流入し、銀行貸出の増加、不動産バブルが形成されていた。なお、S&L危機と北欧危機では、財政支出を伴う整理・清算が行われた。この点については、第3節で再度検討する。

それでは、次に、過去の金融危機が世界貿易の縮小をもたらした様子を確認しよう。このような例としては、世界大恐慌やアジア通貨危機が挙げられる。また、金融危機というわけではないが、2001年頃のアメリカのITバブル崩壊も、貿易の縮小をもたらした点で記憶に新しいため、あわせて検討してみよう。世界大恐慌の際の貿易の縮小については、すでに第2-2-1図で各国通貨ベースの動きを示したが、ここでは改めてドルベースで見よう(第2-2-17図)。29年を100とする指数では、震源地のアメリカの落ち込みが大きいが、各国とも29年の水準の4割程度まで輸出総額が縮小し、それが長期化している。一方、アジア通貨危機の際には、アジア、日本で輸出が落ち込んでいるが、アメリカ、EUでは増加基調が続いており、世界全体でもわずかな減少にとどまっている。また、図では示していないが、ITバブル崩壊後には震源地のアメリカで2001~2002年に輸出の減少が見られたほか、アジア、日本でもその影響を受けている。日本の貿易(輸出+輸入)の減少に対する寄与度を見ると(前掲第2-2-16図)、アジア通貨危機時はアジアとの関係でのマイナスの寄与度がほとんどであるが、ITバブル崩壊時は、震源地のアメリカとの関係だけでなく、アジアでもマイナスが大きい。輸出入別(数量ベース)では、アジア通貨危機後には、アジア通貨の大幅な減価により、アジア諸国の輸入が大幅に減少したことから、日本のアジア向けの輸出は大きく落ち込んだが、アジアからの輸入の落ち込みは小さかった。他方、ITバブル崩壊後は、アメリカの景気後退により、アメリカ向け輸出が急速に減少したほか、アジア向けの輸出も同様に減少している。今回は、世界大恐慌時には及ばないが、第1章で見たように主要国の輸出が大幅な減少となり、世界全体でも2008年10-12月期にはドルベースで前年比5%程度縮小している(前掲第1-1-2図)。これは、震源地のアメリカや、金融危機が拡大した欧州で大幅に内需が縮小したことによる。日本への影響については、第1章で分析したように、バブル的な消費の消滅や消費者ローンの縮小により、日本からの米欧向けの輸出が減少しただけでなく、米欧への輸出を拡大してきたアジア諸国に向けた日本からの輸出の減少として現れている。そのほか、新興国、途上国向けの輸出では、貿易金融などの信用収縮の影響などが加わった27。こうして、世界的に貿易取引の縮小が生じたのである。

本来、不動産は主として国内の需給により価格が決まる傾向が強い。しかし、最近では、REIT市場が発達し、そこへ海外の資金が流入することで国際的な金融資本市場の情勢が国内の不動産価格にも大きな影響を及ぼすようになっている24。こうした状況が生じた背景としては、第一に、REIT市場では、投資口の時価(株式会社の株価に相当)等が公表されていることや、不動産が生み出すキャッシュフローやそこから不動産価格を求める収益還元価格に着目して投資が行われる傾向があるため、国際的な収益の比較が容易で裁定が働きやすいこと、第二に、世界的な低金利を背景に商品としての人気が高まりリスクマネーの受け皿となったこと、が挙げられる。その結果、世界のREIT市場、さらには不動産市場の連動性が高まってきたと考えられる。世界のREIT市場では、アメリカ、オーストラリアの歴史が古く、2007年夏時点では規模もそれぞれ1位、2位であった25。そこで、比較の対象としてこの2市場を選ぼう(第2-2-13図)。今回のサブプライム住宅ローン問題の顕在化に先立ち、アメリカのREIT市場は2007年3月ころから、日本では5月ころから下落を始めており、オーストラリアでも2007年12月には下落に転じている。その後、リーマンショック後は3市場とも急激に下落している。一般に、REITの株価は変動(ボラティリティ)が小さく安定性が高いといわれていたが、金融危機後は変動幅が大きくなっており、特に金融危機の震源地であるアメリカにおいてその傾向が著しい。

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